追試
 天満橋江梨子はクラスで数学のテストが返ってきてから言われていた、その言われていることはというと。
「またなのね」
「数学赤点だったのね」
「それで追試だったのね」
「そうなのよ」
 憮然とした顔で答える江梨子だった。
「数学だけね」
「他の教科はかなりいいのにね」
「何でか数学だけそうよね」
「赤点よね」
「それだけは」
「そうなのよね、夏休みだってね」
 学生にとって貴重なこの時もだ。
「補習だったし」
「というか何でそんなに数学苦手なのよ」
「数学だけは」
「他の理系の科目も出来るのね」
「物理とかも」
「それで何で数学だけなのよ」
「自分でもわからないわよ」
 江梨子もこう答えた、わからないとだ。
「どうして数学だけ悪いのか」
「どうしていつも赤点なのか」
「そのことがわからないのね」
「どうしても」
「そうなの、まあ大学は文系受けるつもりだし」
 入試にも講義にも数学が関係ないそちらにというのだ。
「高校にいる間だけの我慢ね」
「そうね、けれど高校にいる間はね」
「今はね」
「追試ね」
「あと補習ね」
「それね、嫌なことに」
 追試も補習も嫌だ、だが赤点を取った今それは仕方なかった。それで江梨子は追試も補習も受けるのだが、
 追試でも点数が悪くてだ、先生にも言われた。
「君は本当に数学は駄目だな」
「どうしてもなんです」 
 江梨子は職員室で先生に答えた。
「数学だけは」
「そうだな、他の教科はいいのにな」
「どうしてかです」
「数学は駄目か」
「とりわけ」
「受験は文系だったな」
 先生は江梨子にこのことを確認した。
「そうだったな」
「はい、そのつもりです」
「君の文系の成績ならかなりの大学に行ける」
 レベルの高い大学にというのだ。
「それこそ関関同立だってな」
「行けますか」
「大丈夫だ、だからな」
「今はですか」
「数学は我慢しろ」
「赤点でもですね」
「赤点も一つなら卒業出来る」
 流石に四つ以上になると危ないがだ。
「だからな」
「数学のことはですか」
「我慢してだ」
 そうしてというのだ。
「やっていくしかないか?」
「数学を勉強しても」
「駄目か」
「どうしても」
「得手不得手があるからな」
 人間にはとだ、先生はこうも言った。
「だったらな」
「私が数学が苦手なこともですか」
「あることだしな」
「それで実際にですね」
「数学だけ駄目だからな」
 それも図抜けてだ、江梨子の他の教科での成績と比較すれば。
「これはもう完全にな」
「得手不得手で」
「仕方ないか、だったらな」
「数学はですか」
「もう諦めるか?」
 こう言うのだった。
「いっそのこと」
「赤点でもですか」
「ああ、それでもな」
 こう言うのだった、先生も。しかし江梨子にしては赤点は取りたくないので重点的に勉強することにした。
 他の教科よりも優先的に予習復習をしてそうして授業もこれまで以上に熱心に受けて居眠りにも気をつけてだった。
 ノートも実に細かいところまで取った、友人達はその江梨子を見て唸った顔になって言った。
「最近頑張ってるじゃない」
「数学も」
「これならいける?」
「数学もね」
「何とかなる?」
「何とかしたいの」
 切実に言う江梨子だった。
「中学までは数学もね」
「よかったの?」
「まさかと思うけれど」
「他の教科に比べたら悪かったけれど」
 それでもというのだ。
「偏差値五十はあったの」
「そうだったのね」
「それが高校に入ったら赤点」
「そこまで落ちたから」
「だからなのね」
「もう中学時代から勉強してね」
 その数学をだ。
「やっていってるの、そしてね」
「それでなのね」
「赤点を取らない様にするのね」
「そうするのね」
「ええ、赤点だけは嫌だから」
 例えどれだけ不得意な科目でもだ。
「そうするから」
「だからなのね」
「中学時代からやりなおしてるの」
「それで授業も必死に受けて」
「予習復習もしてるのね」
「そうしてるの」
 こう友人達に答えた江梨子だった。
「そうして何とかね」
「赤点脱出ね」
「そうするのね」
「追試も補習も逃れる」
「そうしていくのね」
「そうするわ、どれも嫌だし」
 赤点、追試、補習。どれもだ。
「頑張らないとね」
「幾ら苦手でもね」
「頑張ればよね」
「何とかなる」
「そういうことね」
「やっぱり人間努力しないとね」
 そうしなければというのだ。
「どうにもならないでしょ」
「それはその通りだしね」
「それで江梨子ちゃんもっていうのね」
「そうね、若しもよ」
 ここでこう言った江梨子だった。
「苦手でも勉強しなかったら」
「追試と補習が続く」
「そうなるわね」
「勉強しないとどうしようもないからね」
「得点悪くても」
「そう、だからね」 
 それでとだ、江梨子はまた言った。
「私もなの」
「頑張ってそうして」
「数学お勉強して」
「それで成績もあげて」
「何とか赤点回避したのね」
「そうよ、必死にやって何とか赤点回避ってどうもだけれど」 
 何か努力が報われていないとも思ったのだ。
「けれどね」
「それでもよね」
「やっぱりね」
「頑張らないとね」
「それで必死にしないとね」
「赤点のままだから」
「どっちにしてもするしかなかったし」
 数学の勉強、それをだ。
「したからね」
「赤点も回避した」
「そういうことね」
「少なくとも赤点は回避した」
「それはよしってことね」
「ええ、そのことはよかったわ」
 本当にと言った江梨子だった、そしてだった。
 江梨子はこの時からも数学を必死に勉強してそうして赤点を回避していった、何とか赤点を回避していく位だったがそれでもだった。彼女は数学の勉強を必死にしていった。難を逃れる為に。


追試   完


                  2017・11・25

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