梅の思い出
 旭梅太郎は梅の精にして大阪二十六戦士の一人でもある、梅の力で戦い大阪の街とそこにいる人達を護っている。
 性格は至って穏やかである、だがその彼が時折言うことがあった。それは一体何かというと。
「いい人だったんですよ」
「ああ、義経さんだね」
「源義経さん」
「あの人だね」
「そうだったんです、格好良くて」
 梅太郎は神社の中で梅を出してそれを肴に共に飲んでいる大阪の人達に話した。
「私にも優しくて。ですが」
「あの人はね」
「残念だったね」
「お兄さんと対立してね」
「東北まで逃れて」
「見送った時はです」
 その義経をだ。
「凄く嫌な予感がしたんですが」
「義経さんにそれを言えないで」
「それでだったんだね」
「見送るだけで」
「それで」
「そうなんです、本当にいい人だったんですよ」
 梅太郎自身も飲んでいる、そうしながらの言葉だった。
「今で言う爽やか系で」
「義経さんはそんな人だったんだな」
「爽やかか」
「何かそう言うとスポーツマンみたいだな」
「そうだな」
「そうだったんです、ですがああして」 
 遥か昔のことを話すのだった。
「頼朝さんに討たれてしまって」
「頼朝さん酷いよな」
「自分の弟さん殺したんだからな」
「もう一人の弟範頼さんも殺してるしな」
「木曽義仲も」
「義仲さんの息子さんもな」
「頼朝さんがああした人だったんで」
 梅太郎はこの人物については否定的な顔であった、好きでないのは明らかだ。
「まあこの大阪には縁がない人ですけれどね」
「鎌倉の人だからな」
「そもそもな」
「京都にいたことがあってもな」
「やっぱりあの人は鎌倉だよな」
「大阪とは縁がないに等しいな」
 大阪の市民達も口々に言う。
「どう考えてもな」
「あと人気もないな」
「というかあの人何処でも不人気だろ」
「それこそ鎌倉以外の場所だとな」
「その様ですね、私も義経さんとのことがあるので」
 どうしてもと言う梅太郎だった。
「あの人は好きではないです、そして本当に」
「義経さんの最後は残念なんだな」
「ああした最後で」
「それで」
「はい、蝦夷に逃れたというお話があるので」
 梅太郎もこの伝説は知っている。
「そうなっていてくれれば」
「いいよな」
「本当にな」
「梅太郎さんの気持ちわかるぜ、俺達も」
「本当にな」
 大阪の市民達も口々に言う、そしてだった。
 彼等は梅太郎と共に酒と梅干を楽しんだ、梅太郎は彼等の優しさが嬉しかった。彼はこうした時は時々あった。
 しかしその彼にだ、ある日だった。
 来客が来た、梅太郎は住み込んでいる神社の宮司にそれを言われて最初何かと思った。
「また悪者が出たのでしょうか」
「いや、それがね」
「それが?」
「ちょっと違うみたいだよ」
 宮司は梅太郎に怪訝な顔で答えた。
「それが」
「違うといいますと」
「うん、何か平安時代の服装でね」
「昔のですか」
「そしてね」 
 宮司は梅太郎に怪訝な顔のままさらに話した。
「子供だね」
「昔の服を着た」
「そう、品のよさそうなね」
「今の時代の服ではないとは」
「気になるね、梅太郎さんにしても」
「はい、どなたでしょうか」
「その人が貴方に会いたいって言ってきてるから」
 宮司は梅太郎にさらに話した。
「会うかな」
「はい、それでは」
 梅太郎は宮司の言葉に頷いた、そしてだった。
 彼はその来客と会うことにした、そうしてその者に会う為に客室に入るとそこにいたのは。
 平安時代の身分の高い者の服を着た子供だった、公家風のその子供の顔を見て梅太郎は飛び上がらんばかりに驚いた。
「貴方は・・・・・・」
「久しいな、梅太郎殿」
 子供は自分を見て驚く梅太郎に優しい笑顔で声をかけた。
「元気そうで何よりだ」
「こちらの世界に来られたのですか」
「左様、そなたが随分と私のことを話していると聞いてな」
「それで、ですか」
「会いに来たのだ」
「そうだったのですか」
「まあ座ってな」
 そのうえでとだ、子供は梅太郎に彼から話した。
「ゆっくりと話そう」
「それでは」
 梅太郎も頷いた、そうしてだった。
 梅太郎は子供と向かい合って座ってお茶とお菓子を楽しみつつ話をはじめた、子供は梅太郎にこう言った。
「私は元気にしている」
「あちらの世界で」
「そうしている」
「そうですか」
「何も不自由していない」
「幸せにですか」
「暮らしている、ここにいた時は随分と色々とあったがな」
 それでもというのだ。
「今はだ」
「そうなのですか」
「だから安心するのだ、私のことを残念に思うこともな」
 このこともというのだ。
「ないからな」
「そのことをお話されにですか」
「ここに来たのだ、そなたが私のことを思ってくれるのは嬉しいが」
「残念に思ってですか」
「悲しい気持ちにはならないでくれ」
 このことを言うのだった。
「いいな」
「そうですか」
「くれぐれもな、本当に今の私は幸せだ」
「それは何よりです」
「だから安心してくれ、あちらは美味しいものもふんだんにあるしな」
「美味しいものもですか」
「馳走も酒もな、そして皆もいる」
 人の話もした。
「仲良くもしている、幸せで何の不自由もない」
「だからですね」
「私のことを思ってくれるのなら幸せなことを喜んでくれ」
「これからは」
「そうして欲しい、いいだろうか」
「はい」
 笑顔で答えた梅太郎だった。
「これからは」
「その様にな、しかしこちらの菓子も美味いな」
 子供は今度はそちらの話もした。
「私はこちらにいた時は菓子なぞなかったな」
「お茶はありましたが」
「随分高かった、しかし今は水の様に飲めるか」
「それに近いですね」
「そしてそなたも元気そうでな」
 それでというのだった。
「何よりだ」
「そう言って頂けますか」
「私もな、ではな」
「はい、あちらの世界で」
「楽しく過ごしているからな」
 このことを話してそうしてだった、梅太郎は子供と楽しく話した。そうして彼が神社を後にするのを見送ったが。
 それからだ、梅太郎は義経のことで悲しい話をして悲しい顔にすることはなくなった。彼が語るのは強く格好良く明るい彼だけになった。彼の義経への思い出はそうしたものになったのだった。


梅の思い出   完


                   2017・12・25

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