不良に串カツ
 北串勝は串カツ屋の息子であり大阪ひいては日本一の串カツ職人と言っていい、そしてそれと共に大阪の街と人々を護る二十六戦士の一人だ。
 それで常に大阪で戦っている、その彼のところにだ。店の客の一人がこんなことを話した。
「最近近所の高校が荒れてるんだよ」
「何だよ、いじめとかあるのかよ」
「いじめっていうか学校全体は荒れててな」
 それでというのだ。
「本当にな」
「荒れててか」
「それでだよ」
「校内暴力とかか」
「それが酷くてな」
「それじゃあな」
 そう聞いてだ、串勝は真剣な顔で言った。
「俺の出番か」
「それで話したんだよ」
 客はこう串勝に返した、彼が揚げた串カツを食べつつ。
「あんたにな」
「大阪二十六戦士の一人の俺にだな」
「ああ、それでな」
「これからだな」
「その高校に行って来るぜ」
「そうしてくれるかい」
「今からな」
 こう話してそしてだった。
 串勝は客にその高校に案内してもらった、すると実際にかなり荒れた雰囲気だった。
 学校の窓は殆どが割られ落書きだらけでまともに授業は行われていなかった、生徒達は校内で堂々と煙草を吸いおかしな本を読み酒も飲んでいて喧嘩をしている者も多かった。
 そんな校内を見てだ、串勝は言った。
「ワイルドだな」
「そう言うのかい」
「ああ、じゃあ今からな」
「この高校を健全な学校に戻してくれるかい?」
「それが俺達の務めだからな」
 大阪二十六戦士の一人の自分のというのだ。
「だからな」
「じゃあやってくれよ」
「ああ、今からはじめるぜ」
 明るく笑ってだ、串勝は高校の中に入った。するとすぐにだった。
「ああ?何だ手前」
「どっかで見た顔だな」
「この高校に何の用だ」
「何で来たんだ」
「こうした為だよ」
 笑ってだ、すぐにだった。
 串勝はあるものを投げた、それはというと。
 串カツだった、不良達の口の中に彼が焼いた串カツを投げたのだ。不良達は咄嗟にその串カツを食べたが。
「う、美味え!」
「何だこの串カツ!」
「こんな美味い串カツどうしたら揚げられるんだ!」
「まさかこいつ」
「ああ、思い出したぜ」
 ここで不良の一人が言った。
「この人北串勝だぞ」
「大阪二十六戦士の一人にか?」
「何でこの学校に来たんだよ」
「この碌でもない学校に」
「決まってるだろ、御前等を救い出しに来たんだよ」
 串勝は彼等に笑って応えた、そして校内を歩いていって前にいた不良達全員に串カツを投げて食わせた。
 そうしてだ、その美味さに驚く彼等に言った。
「どうしたらこんな美味い串カツを揚げられるか知りたいか」
「はい、滅茶苦茶美味しいです」
「こんな美味い串カツどうしたら揚げられるんですか?」
「やっぱり大阪二十六戦士になるとですか」
「揚げられるんですか」
「それは俺を見てわかれ」 
 串勝はグラウンドに集まっていた彼等に笑って話した。
「いいな、それからだ」
「わかりました、それじゃあです」
「これからお願いします」
「見させて下さい」
「北さんを」
「ああ、よく見てくれよ」
 自分をだ、北は彼等に笑って言った。そのうえで彼を見せるのだが。
 それは彼の普段だった、朝から夜まで串カツを焼いている彼の姿だ。
 時には二十六戦士として戦い大阪の街と人々を護る、弱きを助け悪を許さない。子供や老人には親切で侠気に満ちている。
 その彼を見てだ、不良達は思った。
「いいよな、北さん」
「恰好いいな」
「ああいうのが本当の恰好よさか」
「ヒーローなんだな」
「俺もああしたヒーローになりたいな」
「私もよ」
 彼等は串勝を見てこう思うのだった、そして。
 次第にだ、その思いが行いに出ていった。
「もう落書きなんかするか」
「窓も壊さないぞ」
「授業には真面目に出るんだ」
「煙草は二度と吸わないぞ」
「酒だって飲むか」
「変な本も読まないぞ」
「喧嘩は何があってもするものか」
 串勝がしている様にしよう、こう思ってだ。
 彼等は行いをあらためた、こうしてだった。
 学校は健全な学校になった、そして大阪でも屈指の真面目で健全な学校になったのだった。それを見てだった。
 客は店で串勝にこう言った。
「あの学校今じゃな」
「ああ、聞いてるぜ」
 串カツを揚げつつだ、串勝は客に応えた。
「真面目になったんだな」
「それも凄くな」
「いいことだな」
 串勝もこのことを喜んだ。
「本当に」
「ああ、しかしな」
「しかし、どうしたんだよ」
「あの学校あんたを見ただけでだろ」
 客はビールを飲みつつ串カツに尋ねた。
「それでだろ」
「行いがあらたまったっていうんだな」
「それだけなのにか」
「俺の揚げた串カツを食わせてな」
「それでだよな、何かな」
 こうも言った客だった。
「たったそれだけでか」
「俺はそれだけだぜ、けれどな」
「それで充分だったのかい」
「ああ、俺も他の戦士達もな」
「皆か」
「やっぱり背負うものがあって背負うからにはな」
「ちゃんとしないと駄目か」
「そう思ってるからな」
 それでというのだ。
「俺だってな」
「真剣にか」
「生きてるしそれをああした連中に見せるとな」
「いいってか」
「前もこうしたことがあったんだよ」
 串勝は店にいる客達の串カツをその素早い動きで揚げつつ話した。
「不良の連中がいてな」
「そいつ等を更生させたんだな」
「こういうのは結局な」
「あれこれ言わずにか」
「見せればいいんだよ」
 そうすればというのだ。
「串カツ食わせてな」
「それからか」
「そうすればいいんだよ、それでな」
「あんたの行いを見せたんだな」
「そうさ、じゃあな」
「ああ、これからもだな」
「串カツ焼くぜ。追加は何がいいんだい?」
「海老いけるかい?」
 客は笑って串勝に答えた。
「それと帆立な」
「二本ずつだな」
「ああ、それだけ貰えるかい?」
「わかった、じゃあすぐに揚げるな」
「宜しく頼むぜ」
「不良は背中を見せるのがいいんだよ」
 またこうしたことを言った串勝だった。
「健全で恰好いいものをな」
「本当の恰好よさか」
「戦士の、串カツ屋のそれをな」
「そういうことか、じゃあいいことを教えてもらったからな」
 客は串勝の言葉に笑顔で応えた。
「蛸と烏賊も追加していいか」
「わかった、じゃあそっちもな」
「ビールも貰うな」
 客は笑ってこちらも注文した、そうして串勝の串カツを楽しんだ。それはまさに世界一の串カツだった。


不良に串カツ   完


                  2017・12・26

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