咲き誇れ大阪桜
この春大阪は連日連夜の春の嵐に襲われ折角の桜が散ってしまった。大阪のどの場所の桜もだった。
散って桜の木には花が一枚も残っていなかった。それで大阪の市民達は嘆き悲しんだ。
「折角の春なのにな」
「桜がないなんて」
「悲しいな」
「日本の春は桜があってこそなのに」
「嵐が荒れ狂って」
「どの桜の木からも花を落としてしまったよ」
それこそ完全にだった。
「一本の桜にも残ってないよ」
「春は終わったな」
「今年の大阪の春は何だ」
「はじまってもいないのに終わったな」
こう言って嘆くばかりだった、だが。
この状況に大阪市長は立ち上がった、それで市役所の人に言った。
「すぐにあの人を呼んで」
「あの人をですね」
「そう、あの人を」
こう市役所の人に言ったのだ。
「そうしてね」
「わかりました」
市役所の人は市長の言葉に頷いた、そしてだった。
大阪二十六戦士の一人都島桜を大阪市長の前に呼んだ、するとまるで桜姫の様な見事な着物姿の桜が市長の前に来た。
その桜にだ、市長はすぐに言った。
「大阪の状況はわかってるよね」
「はい、まことに」
桜は市長に答えた。
「悲しい状況です」
「大嵐が何日も続いてね」
「そのせいで」
「大阪中の桜の花が全部散ったよ」
「それも一本残らず」
「花一枚もね」
それこそ花弁一枚もだ。
「落ちたからね」
「だからですね」
「桜さんやってくれない?」
市長は桜のその目をじっと見て彼に頼んだ、美女と見間違うばかりの顔立ちだが彼はれっきとした男なのだ。
「そうしてくれるかな」
「わかりました」
桜は市長の願いに笑顔で答えた。
「私も実は」
「このことについてはだね」
「どうしたものかと思い自分からです」
「動こうと思っていたんだ」
「そうでした、ですから」
「今からだね」
「やらせて頂きます」
市長に笑顔のまま答えたのだった。
「そうさせて頂きます」
「それじゃあね」
「大阪の桜もう一度咲き誇らせます」
桜は市長に約束した、そしてだった。
早速大阪市庁の前に出た、出るとすぐにだった。
艶やかな舞、日本のそれをはじめた。大阪の人達は桜のその舞を見て思った。
「何て奇麗な舞なんだ」
「まるで天女の舞よ」
「桜さんの舞は何時見ても奇麗だな」
「あんなに奇麗な舞はないよ」
「女の人の舞よりも奇麗だ」
桜の舞を見てうっとりとしていた、だが桜の舞はただ舞っているだけではなかった。舞っているとその周りにだった。
桜の花が浮かび出て来た、そしてその花びら達は花びらから新たに出てその花びらからまた出て来ていき。
忽ちのうちに大阪の空に舞い上がった、そうして大阪の街中を包み込み。
大阪中の桜についてだ、散った筈の花達が。
戻った、大阪の全ての桜に嵐の前の満開の春が戻った。大阪の市民達は瞬く間に戻った桜の花達を見て驚いた。
「散った筈なのに」
「それがもうか」
「咲き誇っている」
「それが戻るなんて」
「桜さんの舞で」
「そうなるなんて」
「桜は日本第一の花です」
桜は驚いている彼等に笑顔で答えた。
「その花が大阪の春にないのは悲しいことです」
「だからですか」
「そのお力で咲き誇らせて下さったのですか」
「嵐の前みたいに」
「そうしてくれたんですか」
「舞で」
「はい、市長さんのお願いを受けまして」
自分のことは奥ゆかしく隠して話した。
「そのうえで」
「市長さんがそうしてくれたんですか」
「今回もまた大阪の為にですね」
「そうしてくれたんですね」
「そうです」
大阪の市民達に話した。
「全ては、では」
「はい、これからですね」
「大阪の春を楽しむ」
「そうすべきですね」
「春は桜です」
日本の春、ひいては大阪の春はというのだ。
「ですから」
「これからですね」
「お花見をしたりして」
「桜を愛でて」
「春の訪れを楽しめますね」
「そうされて下さい」
桜は大阪の人達ににこりと笑って言った、そしてだった。
そのままそっと身を隠した、だが市長は次の日に彼の家を訪問してそうしてだった。彼に笑顔で感謝の言葉を述べた。
「この度もどうも」
「いえ、お気遣いなく」
桜は市長に笑顔で応えた。
「これもまた戦士の務めです」
「大阪二十六戦士の」
「はい、ですから」
それでというのだ。
「お気遣いなく」
「そうなんだ、けれど」
市長は桜に申し訳なさそうに言った。
「このことを僕がお願いしたとするのは」
「事実ではないですか」
「事実でも僕が言う前にもう」
動こうとしていたというのだ。
「そのことを言わないなんて」
「それも当然です」
桜は市長にこのことについても答えた。
「至って」
「戦士として」
「戦士は手柄なぞ求めないです」
大阪二十六戦士、彼等というのだ。
「ただ大阪の街と人達を護る」
「それが望みであり義務だから」
「そうです」
「だからなんだ」
「手柄なぞいりません」
市長に清らかな声で答えるだけだった。
「私も」
「そうなんだね、何かね」
桜のその心を知ってだった、市長はあらためて思った。
「桜さんは本当に桜みたいな人だね」
「その名と力の様にですか」
「うん、桜みたいに奇麗なね」
「そうした心の持ち主ですか」
「名前の通りにね、本当にね」
実にとだ、市長は桜本人に話した。
「そう思ったよ、じゃあこれからもその心と力でね」
「大阪の街と人達を」
「護ってくれるかな」
「喜んで」
返事は他にはなかった、実際に微笑んでだった。
桜は市長に答えた、そして大阪の街と市民達を護る為に戦い働き続けるのだった。その名前である花の様に清らかに。
咲き誇れ大阪桜 完
2018・1・22
ミラクリエ トップ作品閲覧・電子出版・販売・会員メニュー