椿の力
 鶴見椿は椿の精霊として大阪の街と大阪市民を護る大阪二十六戦士の一人だ、だがその性格は戦士らしくないと言われている。
 それでもだ、大阪市民達は彼を心から愛していた。
「いやあ、いい人だよ」
「優しくて繊細で」
「ああした戦士もいるんだよ」
「他の戦士も優しいしね」
「ああした人がいてもいいよ」
「椿さんみたいな人がいても」
 こう言って彼を受け入れていた、もっと言えば愛していた。それは老若男女全てであり特に若い女の子達から人気があった。
 椿の周りにはいつも大阪の若い女の子達が集まっていた。
「椿さんって可愛いしね」
「しかもどんな病気も癒してくれるし」
「心だってね」
「本当に癒し系よ」
「癒し系の人が一番いいのよ」
「恰好いい人よりも」
「そちらの方がね」
 こう言っていつも椿の周りにいた、しかし世の中色々な人間がいる者でそんな椿を見て大阪のある高校に通う昔ながらの長ランにボンタンにリーゼントの恰好をした眉月京志郎は椿について懐疑的に言っていた。
「いい人だけれどあれで戦えるのかよ」
「何を、妬いてるの?」
 彼女がその京志郎の言葉に突っ込みを入れた。
「そうしてるの?」
「違うよ、俺もあの人好きだけれどな」
「いい人って言ったしね」
「けれどあんな癒し系でな」
 そうしたタイプでというのだ。
「戦ったり出来るのかよ」
「負け知らずじゃない、大坂二十六戦士は」
「だから戦えるのかよ」
 京志郎は彼女にこう言い返した。
「あの人は」
「そもそもっていうの」
「負け知らず以前にな」
「椿さんが戦えるかどうか」
「その時点で疑問だよ、俺なんかな」
 それこそと言う京志郎だった。
「毎日ボクシングやってな」
「そうよね、あんたは」
「国体にも出てるぜ」
 そこまで強いというのだ。
「そっちには自信あるぜ、本当にな」
「それで戦うならよね」
「おうよ、そうそう負けないぜ」
 自信もそれだけあるというのだ。
「誰にだってな、それで本当に強いからな」
「いじめとかもしないっていうのね」
「そうさ、けれどな」
「椿さんは戦えるのか」
「どうなんだよ、戦えるのかよ」
 この疑問を言うのだった。
「本当にな」
「そこまで言うなら確かめたら?」
 彼女は椿のことを甚だ疑問だと言う京志郎にそれならと返した。
「自分の目でね」
「椿さんに会ってか」
「ええ、そうしたら?」
 こう言うのだった。
「あんたが直接ね」
「よし、それじゃあな」
 それならとだ、京志郎は彼女の言葉に乗ってそうしてだった。
 時差氏に椿に会ってそれで確かめることにした、それで椿がよくいて病気になっている人達の心と体を治している病院に行くと。
 不意にだ、病院に入ったその瞬間にだった。
 雰囲気が変わったと気付いた、それはまさにだった。
「何かな」
「違うわね」
 同行している彼女も言ってきた。
「これまでと」
「ああ、病院に入った瞬間にな」
「雰囲気変わったわね」
「これ何だよ」
 京志郎は驚愕の顔でこうも言った。
「一体」
「ううん、まさかね」
「ひょっとしてこれがか」
「椿さんの雰囲気かしら」
 彼女も京志郎に言った。
「これが」
「こんなに強烈な癒しの力があるのかよ」
「そうじゃないかしら」
「これは凄いな」
「そうね」
「しかしな」
 京志郎は必死に厳しい顔になり彼女に顔を向けて言った。
「癒しと戦いは違うだろ」
「だからなのね」
「ああ、実際にな」
「これから椿さんとお会いして」
「確かめるからな」
 自分のその目でというのだ。
「あの人が戦えるかどうか」
「大阪二十六戦士の一人として」
「そうするからな」
「だから今から」
「椿さんのところに行こうな」
「じゃあまずは何処におられるか聞きましょう」
「そうするからな」
 京志郎は彼女に言った、そしてだった。
 椿のいる場所に向かった、彼は今は休憩室にいてそこで一人でくつろいでいたが二人は彼のいるその部屋に入った瞬間にだった。
 瞬く間に落ち着いてだ、和み。
 椿にだ、こう挨拶をした。
「はじめまして」
「鶴見椿さんですね」
「はい」
 椿は二人に穏やかな笑顔で答えた。
「僕が鶴見椿です」
「大阪二十六戦士の」
 京志郎はこれ以上はない位和やかな顔で椿に尋ねた、病院に入るまでも確かめてやるという挑戦的な態度はなくなっていた。
「その」
「はい、ですが戦うことは」
「ないのですか」
「戦う場には出ます」
 それ自体はするというのだ、大阪二十六戦士の一人として。
「ですがそれでもです」
「戦うことはですか」
「拳や武器では」
 戦わないというのだ。
「仲間の戦士を癒しそして」
「椿さんご自身がですね」
 京志郎の彼女が彼の横から椿に尋ねた。
「戦場に立たれると」
「はい、敵は僕を見ますと和み」
 そうしてというのだ。
「戦意をなくし心を入れ替えてくれます」
「だからですね」
「僕も戦場に立ちます、強い相手には椿の香りで」
 今も醸し出しているそれでというのだ。
「眠らせることも出来ます」
「それが椿さんの戦い方ですね」
「そうです、僕は武器も拳も使いませんが」
 それでもというのだ。
「僕のそうした力で戦いそして」
「人をですね」
「癒し治しています」
「そうした戦士も必要なんですね」
 京志郎は唸って言った。
「戦いの中には」
「市長さんにそう言ってもらっています」
 笑顔でだ、椿は京志郎に答えた。
「大阪の街と市民の人達を護ってくれると」
「椿さんもまた」
「そう言ってくれていまして」
「戦士をやっておられますか」
「はい」
 その通りだとだ、椿は京志郎に答えた。
「そうしています」
「ボクシングとか出来なくても」
 京志郎は自分が励んでいるスポーツから思った。
「戦えて人を助けることが出来る」
「そうなりますね」
「確かにこうして椿さんとお会いしてお話してますと」
 京志郎も今わかった。
「和んで。心が落ち着いて」
「それだけで、です」
 彼女も言った。
「癒される気持ちになります」
「その癒しが大事とのことです」 
 まさにとだ、椿は京志郎の彼女に笑顔で答えた。
「市長さんにも大阪を守護する神仏にも言ってもらっています」
「神様や仏様にも」
「認めてもらってるんですね」
「はい、ですから僕はこれからも僕の力で」
 椿のこれ以上はない癒しの和やかな力でというのだ。
「大阪の街と人達を護らせて頂きます」
「これからも」
「そうしてくれますか」
「大阪の街と人々がある限り」
 椿は二人にこれ以上はないまでに澄んだ笑顔で答えた、そうしてそのうえで二人とさらに話した。その話の後でだった。
 京志郎は彼女と共に椿に別れを告げて病院を後にした、そして帰り道に彼女にこう言ったのだった。
「あの人がどうして戦士かわかったぜ」
「そうよね」
「ああした戦士の人もいるんだな」
「戦わない戦士もね」
「そして戦士ってのは何かもわかったぜ」
 笑ってだ、京志郎は彼女に言った。
「そのこともな」
「じゃあ戦士は何かしら」
 彼女はわかったと言った京志郎にあえて聞いた。
「一体」
「護る人だよ」
「護る人なのね」
「大切なものや人をな」
 澄んだ笑顔でだ、京志郎は彼女に答えた。
「護る人がな」
「戦士なのね」
「大阪の街や人を護る、か」
 椿の言葉をここで反芻した。
「あの人は戦士だな、じゃあ俺もな」
「戦士になるの?」
「なりたいな、ボクシングをやるだけじゃなくてな」
「心構えもね」
「そうなるか、頑張ってな」
 京志郎は彼女に澄んだ笑顔のまま話した。
「俺も戦士になるぜ」
「応援してあげるわ」
「おう、応援してもらうぜ」
 笑顔はそのままだった、そうして彼はこの時から心構えをより確かにさせた。そうして大人になった時は立派な夫であり父親になっていた。妻と子供達を護ることの出来る。


椿の力   完


                  2018・1・22

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