大雨の中でも
東成ガス太郎の力の源はガスである、体内から無尽蔵に生み出すそのガスの力で戦い大阪の街と人々を守り救っている。
そのガス太郎にだ、子供達はある日心配そうに聞いた。
「火とか怖くない?」
「大丈夫?」
「爆発とかしないの?」
「ガス太郎さんは身体の中にガスがあるのに」
「そっちは平気なの?」
「ははは、大丈夫だよ」
ガス太郎は子供達に笑って答えた。
「僕の場合はね」
「本当に?」
「大丈夫なの」
「火があってもなんだ」
「爆発しないんだ」
「そうしたことはないの」
「そう、ないから」
こう言うのだった。
「安心してね」
「本当に?」
「本当に何もないの?」
「爆発とか起きないの」
「それはどうしてなの?」
「ガスなのに爆発しないの?」
「僕のガスは僕がコントロールしているからなんだ」
だからだというのだ。
「爆発はしないよ、ただ水はね」
「あれっ、この前スーパー銭湯に行ってたよね」
「それでお風呂楽しんでたじゃない」
「お風呂はいいの?」
「お湯は」
「うん、そっちもね」
全くとだ、ガス太郎は子供達にまた答えた。
「大丈夫だよ、どうしてお水が嫌いかっていうと」
「どうしてなの?」
「そのことは」
「前から爆発しないことも気になっていたけれど」
「そのことも気になっていたけれど」
「火を点けた時にね」
ガス太郎の力であるそれでだ。
「消されるからなんだ」
「ああ、だからなんだ」
「お水は好きじゃないんだ」
「そうなんだ」
「そうだよ、だからね」
それでとだ、ガス太郎は子供達に自分がどうして水を嫌っているのかを話した。
「僕はお水が嫌いなんだ」
「そうだったんだ」
「それでお水が嫌いだったんだ」
「そうだったんだね」
「そうだよ、だからお風呂に入ったりお水を飲むのは平気だよ」
そうしたことはというのだ。
「だから安心してね」
「うん、わかったよ」
「それじゃあね」
「これからも宜しくね」
「大阪の街と僕達を護ってね」
「そうしてね」
「そうさせてもらうよ」
是非にとだ、ガス太郎は子供達に約束した。そうしてだった。
ガス太郎は大阪の街と市民達の為に戦い働き続けた、だが。
雨の日にだ、大阪の街を狙う邪悪の化身ジャビット団が大阪の街に何と空から攻め込んできた。しかもこの日は大雨だった。
「こんな時に来なくてもいいのに」
「全く、迷惑な奴等だよ」
「飛行船からどんどん来るぞ」
「参ったな」
空にはとてつもなく大きな飛行船があった、そこからジャビット団の面々はパラシュートで次から次に降り立ってきている。大阪の市民達はその彼等を見て困った顔でいた。
「早く何とかしないと」
「大阪の街が奴等に滅茶苦茶にされてしまうぞ」
「警察の人達を呼ぶんだ」
「そして大阪二十六戦士の人達を」
彼等は口々に言ってだ、警察だけでなく二十六戦士の面々も呼んだ。すると二十六戦士はすぐにジャビット団が降り立った東成区に殺到した。
「ジャビット団の好きにさせるな!」
「大阪の街と人達は我々が護る!」
「ジャビット団よ覚悟しろ!」
「我々が相手だ!」
戦士達はジャビット団に向かい戦闘に入った、そうしてジャビット団の者達を退けんとするのだが。
ジャビット団は多い、しかもだった。
ガス太郎に戦力を集中させた、ジャビット団の指揮官は高らかに言った。
「東成ガス太郎を集中的に攻めろ」
「はい、大雨だからですね」
「東成はガスの戦士です」
「火で戦いますが」
「火は水に弱い」
「そして今は大雨です」
その水が空からこれでもかと降り注いでいる状況だ。
「だからですね」
「東成の戦闘力はかなり落ちている筈です」
「火を出してもこの大雨の中では」
「出せる筈がありません」
「そして如何に東成といえども」
「火がなければ」
「ただ強いだけですね」
「ただ強いだけならばだ」
指揮官はさらに言った。
「我等が束になって戦えば勝てる」
「はい、その通りです」
「ここで東成だけでも倒しましょう」
「二十六戦士を一人でも倒せば大きいです」
「ですから」
「そうだ、今回の攻撃ではだ」
まさにとだ、また言う指揮官だった。
「東成ガス太郎を倒すぞ」
「そうしましょう」
「当初は東成区占領が目的でしたが」
「この大雨です」
「まずは東成を倒しましょう」
「二十六戦士の一人を」
ジャビット団の面々はこう言い他の戦士達には最低限の戦力だけを向けて抑えとしガス太郎に殺到した。
そうしてガス太郎を完全に包囲したが。
他の戦士達は落ち着いていた、指揮官はその状況を見て他の戦士達に問うた。
「?貴様等何故冷静なのだ」
「知れたこと、ガス太郎が勝つからだ」
「だから冷静なのだ」
「ガス太郎が負ける筈がない」
「あの程度の戦力にな」
「馬鹿な、この大雨の中だぞ」
文字通りの土砂降りだ、アスファルトに落ちた雨がはね返って靴もズボンの裾も瞬く間に水浸しにしている。
「それで東成ガス太郎が」
「火は使えないか」
「そう言うのだな」
「そう思っているか」
「そうだ、そんな筈がない」
指揮官は戦士達の自身に疑問を隠せなかった。
「この雨の中で火を出せる筈がない、戦えるだけの力が」
「なら見るのだ」
「ガス太郎のその力を」
「奴は確かに水に弱い」
「しかし全く無力ではないのだ」
こう言ってだ、そしてだった。
戦士達は自分達の相手を極めて冷静に倒していた、そしてガス太郎も。
ジャビット団の面々に完全に囲まれていた、だがその中であくまで冷静であった。ジャビット団の面々はその冷静さに問うた。
「怖くないのか」
「これだけの数に囲まれているのだぞ」
「大雨の中でガスから火を出すことは出来ないというのに」
「何故そこまで冷静だ」
「死ぬのが怖くないというのか」
「僕は死なないし負けない」
ガス太郎は冷静な顔のまま彼等に答えた。
「だから落ち着いているんだ」
「痩せ我慢か?」
「それとも恐怖で頭がおかしくなったのか」
「力を使えないでこの数に囲まれて」
「それで頭がおかしくなったのか」
ジャビット団の面々はこうも考えた。
「それでか」
「それでなのか」
「東成はおかしくなったのか」
「そうなったのか」
ジャビット団はガス太郎の冷静さを狂気かとも思った、だが圧倒的な数に武器もある。それでだった。
彼等は指揮官の号令一下ガス太郎に襲い掛かった、力を使えない彼ならばと勝利を確信しつつだった。
だがその彼等にだ、ガス太郎は。
ガスバーナーを出した、そうして。
「受けろ!」
「!?」
「まさか!」
ジャビット団の面々は見た、その光景を。
ガス太郎のガスバーナーから炎が出た、それは赤い炎ではなかった。
白く燃える炎だった、それは大雨の中でもはっきりと出てだった。
ガス太郎はその白い炎を自ら駒の様に回転して周囲に放って自分を囲んで襲い掛かるジャビット団の面々に攻撃を加えた。すると。
ジャビット団の面々を一瞬で焼き尽くした、指揮官は瞬時に消え去った部下達と白い炎を放ったガス太郎を見て驚きの声をあげた。
「馬鹿な、炎を出したというのか」
「僕は確かに水で火を消されるよ」
ガス太郎はもう火を収めていた、そのうえで指揮官に答えた。
「けれどそれは温度が低い火ならだよ」
「高温の火ならか」
「そう、水が幾ら火を消そうとしても」
「水が消しきれないか」
「そう、だから今は」
大雨の中ではというのだ。
「あえて高温の炎を出して」
「戦ったのか」
「そうだよ、僕の全力だったよ」
先程の白い炎を出して自分に襲い掛かった彼等を焼き尽くしたことは。
「そしてその全力で」
「大雨にも我等にも勝ったというのか」
「今の様にね」
「おのれ、何ということだ」
「全力だから疲れたけれど」
それでもというのだった。
「君達には勝ったよ」
「この様なことになるとは」
「じゃあ次は君と戦うよ」
ガス太郎は指揮官を見据えて彼に宣言した。
「いいね」
「誰かいるか!」
指揮官は部下を呼んだ、しかし返事はなかった。他の戦士に向けた戦力も一人残らず倒されてしまっていた。
残るは指揮官一人だった、その状況を確認してだった。
指揮官はガス太郎に背を向けてだった、自分のところに来た飛行船に慌てて跳び乗って逃げようとした。だがそこで。
ガス太郎がまた白い炎を放った、その炎で飛行船は灰になった。あまりにも高温の炎だったので消し炭どころか瞬時に灰になってしまったのだ。
大阪二十六戦士とジャビット団の戦いは今回も戦士達の勝利に終わった、それで戦士達はガス太郎のところに集まって彼に言った。
「連中は御前を侮っていたな」
「大雨の中では力を出せないとな」
「そして侮ってな」
「敗れたな」
「いや、本当にお水は苦手だよ」
ガス太郎は彼等にこう答えた。
「それは事実だよ」
「ああ、しかしな」
「戦えない訳じゃない」
「今みたいに戦えるからな」
「全力を出せばな」
「戦えるからな」
「白い炎でな」
「それが出来るからな」
「長い時間は戦えないけれど」
全力でそれはだ、ガス太郎の体力にも限界があるのだ。
「けれどね」
「戦うことは出来る」
「そして敵を倒し大阪の街と人達を護ることは出来る」
「連中はそれがわかっていなかった」
「それが連中の今回の敗因だ」
「苦手なものがあってもそれに打ち勝つ」
ガス太郎は仲間達にこう言った。
「それが戦士だよね」
「そうだ、俺達だ」
「大阪二十六戦士だ」
「苦手なものはある」
「誰でもな」
「しかしそれにも打ち勝てる」
「いざという時にはな」
まさにそれがというのだ。
「だから御前も出来た」
「そして勝ったんだ」
「大雨にも」
「うん、疲れたけれど」
炎の中で最も熱い白い炎を全力で出した為にだ、それも二度も。
「勝ったね、そして大阪の街と人達を護れたよ」
「そのことを祝おうな」
「勝ててな」
「御前がいないと東成区を護る戦士がいなくなるんだ」
「この東成区もな」
「だから僕は負けないよ、これからも」
例えどんな状況でもとだ、ガス太郎は仲間達に笑顔で約束した。そして彼等と共にだった。
雨が止んだので空を見上げた、厚い雲と雲の間から眩い太陽が姿を見せていた。
大雨の中でも 完
2018・1・23
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