ジンベエザメの心
 大阪の海遊館にはジンベエザメがいる、魚の中では最も大きな魚だ。
 ジンベエザメは巨大な水槽の中でゆっくりと泳いでいる、海遊館に来た子供達はそのジンベエザメを見て言っていた。
「大きいね」
「うん、凄くね」
「こんな大きなお魚いるんだ」
「人間よりずっと大きいよ」
「それにお口もとても大きくて」
「私達だったら一呑みよ」
「確かに大きいけれどね」
 引率の先生が子供達に話す。
「それでも凄く大人しいのよ」
「そうなの?」
「確かにゆっくり泳いでるけれど」
「他のお魚も全然襲わないし」
「凄く穏やかだけれど」
「そう、大人しいの」
 身体は大きいがというのだ。
「見ての通りね」
「鮫って人食べるんじゃないの?」
 子供の一人が先生に聞いた。
「そうじゃないの?」
「そうした鮫もいるわ」
 先生は子供にこのことも答えた。
「確かにね、けれどね」
「ジンベエザメはなんだ」
「そう、大人しいの」
 そうだというのだ。
「凄くね」
「そうなんだ」
「そうした鮫もいるの」
 人を襲う鮫もいればというのだ。
「大人しい鮫もあるの」
「そうした鮫もいて」
「ジンベエザメもそうなのよ」
 こうした話をしていた、海遊館のジンベエザメはとかく大人しく水槽の中をのどかに泳いでだった。
 日々を過ごしていた、しかし。
 そのジンベエザメについてだ、海遊館の飼育係の人達はいつも不安だった、それは何故かというと。
「飼育が難しいからな、ジンベエザメは」
「ちょっと目を離すと体調が悪くなるから」
「目が離せないよ」
「何時体調が悪くなるか」
「大きな水槽の中の汚れも気になるし」
「ジンベエザメの飼育は大変だよ」
「そうよね」
 こうした話をしつつだ、いつもジンベエザメを注意して見ていた。ジンベエザメはとかく飼育が大変なのだ。
 だがその彼等にだ、大阪二十六戦士の一人住吉海雄は笑顔で申し出たのだった。
「おいらに任せてくれへん?」
「海雄君にかい?」
「ジンベエザメのことは」
「そうしていいのかい?」
「ジンベエザメのことだけじゃなくてね」
 海雄は海遊館で働いている人達全員に笑顔で申し出ていた。
「ここにいる他の生きもの達のこともね」
「皆なんだ」
「任せて欲しい」
「そう言うんだね」
「そや、おいらは海の生きものの話を聞けるじゃないか」
 自分のその能力のことを言うのだった。
「そうだよね」
「ああ、そうだね」
「海雄君は海の戦士だからね」
「住吉大社の氏子だし」
 住吉大社は海の神社だ、海の神である須佐之男命を祀っている。大阪の海の神社としてあまりにも有名だ。
「あの大社の力もあるしね」
「海の生きものの言葉も聞ける」
「だからジンベエザメとも話が出来る」
「そうだったね」
「そやで、そやからな」
 海雄は海遊館の人達に笑顔で言うのだった。
「おいらが皆の話を聞かせてもらってな」
「僕達にだね」
「話してくれるんだね」
「彼等の言葉を」
「身体の何処が悪いかとか」
「そうしたことを」
「話させてもらうわ」
 海雄は笑顔で言った、そしてだった。 
 海雄は自ら水槽の中に何と赤褌一丁になって入りジンベエザメとも他の魚達とも会話をした、そうして海遊館の人達に彼等の言葉を伝えた。
「ジンベエザメは今は何処も痛くないそうやで」
「身体の何処も」
「そうなんだね」
「じゃあ身体の調子はいいんだね」
「そうなんだね」
「そう言ってたで、それで他の子達はな」
 他の魚達のことも話す、そしてだった。
 海雄は海遊館の人達に他の生きもの達と話したことを話していった、そうしたことをしてだった。海遊館の人達を助けたのだった。
 その海雄にだ、海遊館の人達は笑顔で話した。
「いや、助かるよ」
「ここの生きもの達の話がわかるとね」
「やっぱり全然違うからね」
「彼等の言葉がわかる人がいるとね」
「かなり助かるよ」
「おいらは海の精霊やからな」
 それでとだ、海雄は彼等に笑顔で応えた。
「海の生きものの言葉はな」
「わかるんだね」
「海の皆と話せて」
「それでだね」
「そうやで、そやから海遊館の人達が困ってたら」
 その時はというのだ。
「こうしてお話をするさかいな」
「それじゃあね」
「これからも頼むよ」
「私達は海の生きものと会話は出来ないから」
「だからね」
「そうさせてもらうわ」
 ここまでは笑顔の海雄だった、だが。
 海遊館の人達から海雄の活躍を聞いた大阪市長は海雄を呼んでそうしてだった、彼に満面の笑顔で言った。
「大活躍じゃない」
「海遊館のことかいな」
「そう、あそこの人達が言ってたよ」
 海雄本人に満面の笑顔で言うのだった。
「海雄さんがあそこの生きものの話を伝えてくれてね」
「それでやね」
「彼等の体調や水槽や設備の問題点もわかって」
「よく出来るから」
「本当に助かってるって言ってたよ」
 市長の席から海雄に話すのだった。
「お陰で海遊館は見違えるまでによくなったって」
「そやねんな」
「それでだけれど」
 ここで言葉を一旦止めてだ、市長は海雄にあらためて声をかけた。
「海遊館の人達からお礼がしたいってね」
「お礼?そんなん別に」
「いらないんだね」
「ええよ、そんなん」
 一行にと返す海雄だった。
「別に」
「皆そう言うね」
「大阪二十六戦士はやね」
「ロートさんは報酬要求するけれど」
「あくまで要求出来る相手だけで」
「自分からどんどん動いて」
 そしてというのだ。
「払うことが出来ん人には絶対に要求せんし」
「あくまで要求出来る相手だけで」
「そや、大阪二十六戦士は何の為に戦ってるか」
「大阪の街と市民の人達の為に」
「そやからおいら達の報酬はな」
 それは何かというと。
「笑顔や」
「大阪の人達の」
「それは市長さんも同じやろ」
「当り前だよ、僕は大阪の市長だよ」
 市長は海雄に毅然とした顔で答えた。
「それならだよ」
「一番の報酬はやな」
「笑顔だよ」
 海雄と同じことを言った。
「それだよ」
「そうや、それでや」
 まさにと言うのだった。
「おいらもやからな」
「報酬はいいんだね」
「全然な、それでやけど」
 ここでさらに言う海雄だった。
「今度の恵比寿祭りな」
「ああ、海雄さんお祭り大好きだよね」
「特に住吉さんのな」
 この大社の氏子だけあってだ。
「あれが一番好きや、それでもな」
「恵比寿祭りも他の祭りも」
「大阪の祭りやったら」
 それこそというのだ。
「何でも好きで出店の食べものも」
「君の大好物ばかりで」
「楽しみや、ほな市長さんも他の二十六戦士もな」
「皆で恵比寿祭りに出て」
「楽しもうな」 
 海雄自身笑顔であった、そうしてだった。
 海雄は海遊館の人達とそこにいる生きもの達、その彼等を見に来るお客さん達の笑顔を受け取ってだった。彼自身笑顔で今日も大阪の為に働くのだった。


ジンベエザメの心   完


                  2018・1・25

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