歯牙にかけるまでも
 此花功は大阪二十六戦士の一人であるだけでなく常に先の先を広く見据えて動く天才経営者である。
 経営している企業グループはそれこそ世界屈指の規模であり無限の富を生み出している。まさに一瞬で兆単位の金を生み出してもいる。
 儲けた金は企業の設備や技術への投資、何よりも社員達への福利厚生に回しそれ以上に社会の為に使っている。彼は常にこう言っていた。
「お金は使うもんでな」
「正しいことに使う」
「そうあるべきですね」
「企業や社会の為」
「どんどん使うべきですね」
「変に貯め込まないで」
「貯金も必要や、けどな」
 それだけではなく、というのだ。
「やっぱりや」
「正しいことに使わなあきませんね」
「それで社会をよくしていく」
「慈善事業やそうしたことの為に」
「どんどん使っていくべきですね」
「そうでなくて何の意味もない」
「そういうことですね」
 周りもそのことがわかった、功は実際に儲けた金を自分の為に使うことは家族を養う位にしか使わなかった。彼の家は此花区のマンションを一つ全部使う様なものだったが彼の儲けから見れば実に些細なものだった。
 しかしその彼を批判する者もいた、週刊キムヨウビという雑誌でありこの雑誌の編集委員達はとかく彼をあることないこと書いて攻撃していた。
 特に定佳一という元学校の教師をしていた者は功を集中的に攻撃していた、それは人格攻撃とまで言ってよかったが。
 その定佳の話を聞いてもだ、功はこう言うだけだった。
「誰や、それ」
「ですからいつも社長を批判している人ですよ」
「経済評論家です」
「もう独占資本とか軍需産業をしているとか」
「タカ派とかも言ってますよ」
「軍需産業?うち兵器は造ってへんで」
 そちらには実際一切関わってないので功も首を傾げさせた。
「何でそんな話が出るねん」
「自衛隊に物品入れてるかららしいです」
「官品のもん色々と仕入れて」
「そのせいで」
「色々言われてるみたいです」
「自衛隊は国を守ってくれるんやで」 
 功は冷静に言った。
「日本全体を、敵国や災害からな」
「はい、そやけどです」
「それが定佳って人は気に入らんらしいです」
「元々過激派系ですし」
「自衛隊嫌いで」
「元学校教師でしたし」
「学校の先生って自衛隊嫌いな人多いな」
 功もこのことを知っている、日教組という北朝鮮を愛してやまない組織のせいか日本の学校の教師は自衛隊を嫌う者が多いのだ。
「ほんまに」
「それで定佳って人もです」
「自衛隊が嫌いで」
「あと経営者とか保守系嫌いです」
「皇室も」
「何や、ガチやないか」
 功はここで定佳という輩が何者かわかった。
「それこそ」
「はい、北朝鮮好きらしいし」
「今もマルクスに愛着あるらしいです」
「社会主義がええみたいです」
「それも赤軍派とか革マル派が言ってたみたいな」
 言う方も赤軍派と革マル派の区別はついていない、それぞれの組織の構成員達にとっては自分達の主張は違うらしいが傍から見れば同じということか。
「そうした社会主義みたいですわ」
「共産主義っていうか」
「まあああしたイデオロギーですね」
「そうした考えのシンパなんですわ」
「そうか、まあええわ」
 功はここまで聞いてこう素っ気なく言った。
「今からグループの会議やからな」
「それに出席してですか」
「これからの経営を話していきますか」
「そうしますか」
「そや、それで何かあったらや」
 功は大阪二十六戦士としても話した。
「ええな」
「はい、その時はです」
「わし等もすぐに連絡します」
「そしてです」
「その時は宜しくお願いします」
「そうしてな」
 こう言ってだ、功は会議に出た。会議の時は経営のことを考えていて定佳のことは奇麗に忘れ去っていた。
 だが定佳はとかく功を攻撃し続けていた、彼が思い込んで真実と思っていることを書き殴った。彼が攻撃している他の面々に対して以上に。
 しかし功は彼を一切気にしないままだった、経営者としてそして大阪二十六戦士として働き続けていた。
 そうしていってだ、何度も定佳そして週刊キムヨウビのことを聞いたが聞いてもその次の瞬間には忘れ去っていた。
 それでだ、定佳達のことを話す周りは功本人に何故いつも彼等のことを聞く度に忘れてしまうのかを聞いた。
 するとだ、功はこう答えた。
「その人等経営や大阪の安全に関係あるか?」
「グループや大阪の街、市民の人達に」
「関係あるかどうかですか」
「そや、何か害を及ぼすんか」
 その定佳達がというのだ。
「ただ悪口言うてるだけやろ、僕の」
「はい、それだけです」
「もうあることないこと」
「それだけです」
「テロとかしてません」
「皇室や北朝鮮のことでアホなこと言うてますけど」
「それで叩かれてますけれど」
 もっと言えば功への誹謗中傷でも批判されている、自称毒舌家で辛口の批評家だが世論の評価は運動家あがりの罵り芸だけの輩だ。
「テロはしません」
「まあ運動家と関係はあるかも知れませんけど」
「社長のグループや大阪にはです」
「テロとかはしてません」
「それやったら何でもないわ」
 功の悪口をどれだけ言ってもというのだ。
「別にな」
「そうですか」
「そやからお話してもですか」
「忘れるんですか」
「そうなんですか」
「そんな奴気にしても何もならんわ」 
 功の返事は素気なくすらあった。
「そやからな」
「いつも忘れるんですか」
「そうですか」
「僕にとってその程度の人間っちゅうことやろな」
 その定佳はというのだ、そしてこの時もだった。
 功は定佳のことはすぐに忘れた、後日定佳がお仲間である運動家との付き合いで大阪に行って平和を叫ぶデモに参加していると。
 そこにたまたま功が一人で通りがかった、定佳も彼のお仲間達も功の全身から湧き出る大阪二十六戦士ならではのオーラに圧倒されて立ちすくんだが。
 功は彼等に気付かなかった、あとでそこに定佳がいたと聞いてもだった。
「そうなんか」
「それだけですか」
「ああ、どんな奴がおったかわからんかったわ」
 定佳の顔すら見ていなかった、最初から覚えてもいなかったこともあり。そうしてこの日も彼は自分のグループと大阪の為に全力で働いた。


歯牙にかけるまでも   完


                   2018・2・22

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