白い雨
 三崎亮は殆どの者に普通の高校生、天涯孤独で一人暮らしの少年だと思われている。
 成績優秀かつ無口でおとなしいというよりかは無表情で無反応な少年だとだ、だがそれは彼の表での世界でのことだ。
 彼は一旦連絡を受けると裏の世界に入る、彼が天涯孤独になり孤児院に入ったその孤児院が国が密かに関わっているものだったのだ。
 国家は諜報部員、国内のテロや騒乱行為を行う組織を密かに潰すことが出来る人材を探していた。三崎はそれが出来る者だと国家に見いだされたのだ。
 それで彼はスカウトを受けた、報酬はよく生活も完全に保障されることもあって彼は受けた。
 そのうえで仕事をしていった、彼が調査し特殊部隊の様な活動で破壊し倒していく組織は日本にもあった。
 カルト教団や過激派、そういった者達だ。その中で今度は。
「国会議員の蟻田吉富ですか」
「はい、この人物ですが」
 連絡役の女が三崎の前に出て来て話した。
「実は過激派と関係があり」
「某国ともですね」
「太いパイプがあります」
「噂では聞いていましたが」
「噂以上にです」
 女は三崎にさらに話した。
「太いパイプがあり密かにです」
「あの国が行ってきたテロ行為にもですね」
「関係があります」
「そうでしたか」
「あの国は麻薬の密輸にも関わっていますが」
 このことは国際社会で密かに有名になっている。
「それにも関わり」
「利益もですか」
「得ています、今あの国で問題になっている核兵器の開発にも」
「日本からですか」
「密かに資材や情報を送り」
「助けているのですね」
「そうしています、そして今度は」
 女はさらに話した、顔はよく見えないが切り揃えた髪の毛とスーツのタイトのミニスカートから見える脚は実に見事なものだ。胸も目立っている。
「沖縄において」
「まさかと思いますが」
「基地に対してテロを行うつもりの様です」
「過激派、あの国の工作員と共にですね」
「そうです、これまでは泳がせていましたが」
「もうですね」
「放置出来なくなりました」
 そうなったというのだ。
「ですからここはです」
「僕にですね」
「お願い出来ますか」
 女は三崎に言った。
「手段は問いません、蟻田をです」
「消す」
「物理的でも社会的でも構いません」
 女の言葉は冷徹だった、そこには一切の感情が見られない。
「必ずです」
「わかりました、では」
「任務が終了すればボーナスが出ます」
 女は三崎にこのことも話した。
「そうなります」
「いつも通りですね」
「今回は三百万です」
「三百万ですか」
「不服ですか」
「どうでもいいです」
 三崎は女に無表情な顔と声で答えた。
「生活出来ていますから」
「そうですか」
「はい、とにかくですね」
「蟻田を消して下さい」
「手段を問わず」
「お願いします、最も効果的な方法で」
 女はこのことを伝えた、そうしてだった。
 三崎の前から姿を消した、三崎は早速任務にかかった。
 とはいっても彼は蟻田自身の近辺には赴かずまずは彼のプライベートを調べた、その交友関係や事務所のスタッフもだ。
 そして彼の事務所や交流のある過激派の面々のパソコンやスマホ、携帯のことまで情報を掴むとハッキングを開始した、そのハッキングで。
 蟻田だけでなく彼の仲間やスタッフ達の『明かされてはならない』情報を全て手に入れた。そしてその情報をだった。
 第三者の正体不明の人物としてネットに出した、すると。
 忽ちのうちに蟻田のことは大騒ぎとなった、過激派との交流は知る者こそ知っていたが麻薬や武器の密輸、テロ行為の計画が明るみになってだ。
 日本中で大騒ぎになった、蟻田自身は事実を必死に否定したが。
 それでもだ、事実である確かな証拠も三崎は公開していてだった。
 彼は逃れられずテロ等準備罪や麻薬取締法等で逮捕された、それは彼の関係者にも及び。
 蟻田は社会的に完全に抹殺されテロも防がれた、それでだった。
 女は再び三崎に会い彼に言った。
「お見事です、これでです」
「蟻田のことはですね」
「問題なくなりました、任務は成功です」
 三崎にこのことを伝えるのだった。
「ボーナスは振り込みましたので」
「そうですか」
「はい、それでは次の任務があるまでは」
「待機ですね」
「そうされて下さい」
「わかりました」
 三崎は女に無表情な声で答えた。
「そうさせて頂きます」
「はい、それで聞いたことですが」
 女は顔の上半分が陰に隠れた状態で三崎にあらためて問うてきた。
「貴方は今も孤児院に行かれていますね」
「僕が入っていた」
「他の孤児院にも」
「それが何か」
「探しているのですね」
 三崎を見つつだ、女は彼にさらに問うた。
「そうですね」
「僕が失くしたものを」
「そうですか、だからですね」
「そこにある様な気がしますので」
「だからですね」
「時々ですが」
 それでもとだ、三崎は女に答えた。
「そうしています」
「そうですか」
「駄目でしょうか」
「日本という国が貴方に求めるのは任務の成功です」
 女は三崎にはっきりと告げた。
「他のことは何もです」
「求めていませんか」
「はい、ですから貴方が孤児院に行くことを止めません」
 そうだと言うのだった。
「むしろそれが貴方にとっていいことなら応援させて頂きます」
「僕をですか」
「はい、よいことがあることを祈ります」
「この場合は有り難うと言うべきでしょうか」
「そう思われてもいいです」
 女は三崎に感情を消した声で言葉を返した。
「日本としては」
「そうですか」
「ではまた」
 女は三崎の前からまた姿を消した、まるで影がそうなる様に消え去ってしまった。三崎もまた彼の部屋に帰った。表の世界に。
 三崎は任務が終わると必ず次の日は何処かの孤児院に行った、そこで彼が得たボーナスで買ったお菓子やおもちゃを子供達にあげていた。
 そして彼等と共に遊んだ、この日は雨だったが。
 窓から見える雨を見つつだ、彼は子供達に孤児院の中で言った。
「今日はお部屋の中で遊ぼうね」
「うん、そうしよう」
「今日はね」
「楽しくね」
 表情はないがこう言ってだ、彼は子供達と共に遊んだ。
 そしてだ、ふとだった。
 その雨、孤児院の建物が白いせいか白く見えるその雨を見つつだ。三崎は子供達にこんなことを言った。
「お兄さんにはお姉ちゃんがいたんだ」
「お姉ちゃんがいたんだ」
「そうだったんだ」
「うん、いつも守って可愛がってもらっていたんだ」
 子供達にこのことを話した。
「そうして雨の日はね」
「こうしてなんだ」
「お部屋の中でお姉ちゃんと遊んでいたんだ」
「そうだったんだ」
「そうだよ、覚えているんだ」
 人のことは長く覚えられない、しかし姉のことだけは特別でこのことも覚えているのだ。
「ずっとね」
「そうなんだ」
「お姉ちゃんのこと覚えているんだ」
「そうなんだね」
「こうして遊んでいたんだ」
 子供達に話した。
「雨の日はずっとね」
「じゃあ今はだね」
「お兄さんが僕達と遊んでくれるんだね」
「お兄さんのお姉ちゃんみたいに」
「そうしてくれるんだね」
「そうさせてもらうよ、僕は姉さんみたいに優しく出来ないけれど」
 自分ではこう思っている、彼の中で姉は何処までも優しく暖かい存在だったからこそ。
「それでもね」
「うん、じゃあね」
「一緒に遊ぼう」
「僕達とね」
「そうしよう」
「うん、今日は皆で楽しく遊ぼう」 
 三崎は自分の心の中にあるものを感じた、それはとても小さいがそれでいてこれ以上はないまでに暖かいものだった。
「雨だけれど暖かくね」
「そうしようね」
「楽しくね」
「外は雨だけれど」
「お兄さんがお姉ちゃんになってね」 
 子供達は三崎に言った、自分といつも遊んでくれる彼に。彼等にとっては三崎は何処までも優しく暖かいお兄さんだった。三崎はこのことに気付いていないがそうだった。彼はそのことに気付かないままこの日は子供達と遊んだのだった。姉と共に見た白い雨を見ながら。


白い雨   完


                 2018・2・25

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