寝起き
阿倍野未亜の寝起きはかなり悪い、それでいつも起きた時は家族に言われる。
「早くシャワー浴びて目を覚ましてきなさい」
「・・・・・・うん」
未亜もまるで地獄から抜け出てきた様な顔で応えてそうしてシャワーを浴びる、シャワーを浴びて身体も奇麗にしてだった。
服も着て出て来るころには普通の顔になっていてそこから一日をはじめる。ここから先はしっかりしているが。
とかく朝の寝起きが悪くてだ、ある日母に言われた。
「あんた本当に寝起きどうにかならないの?」
「寝起き悪いわよね、私」
「悪過ぎよ」
こう言われた。
「幾ら何でもね」
「何か朝起きた時はね」
「調子悪いの」
「ベッドからすぐに出られるけれど」
それでもとだ、未亜は母に話した。
「けれどね」
「起き立て本当に不機嫌ね」
「不機嫌っていうか」
自分から言う未亜だった。
「寝惚けててしかも本調子じゃなくて」
「それでなの」
「ああなの」
「あの寝起きなのね」
「そういうことよ」
まさにというのだ。
「私としてはね」
「そうなのね」
「そう、本当にね」
それこそというのだ。
「もうこれはどうしようもないから」
「寝起きのことは」
「体質だから」
「それ子供の頃からだけれど」
母は未亜がまだ小さい頃のことも話した。
「大学に入ってから特によね」
「どうしてかしら」
「何か原因があるでしょ」
母はこのことはクールに返した。
「そうじゃないと悪くならないでしょ」
「じゃあ何が原因かしら」
「自分で思い当たることない?」
「特に」
首を傾げさせてだ、未亜は母に返した。
「ないわ」
「あんた自身ではなの」
「別にね」
これといってとだ、またこう返した未亜だった。
「ないわ」
「そうなの、けれどよく考えてみたらいいわ」
「原因は絶対にあるのね」
「本当に大学に入ってから特にだから」
寝起きが悪くなったというのだ。
「ベッドかお布団か何かに原因があるのでしょ」
「ベッドかお布団ね」
「それかね」
さらに言う母だった。
「パジャマとか」
「パジャマだったら」
それならと言う未亜だった。
「別にね」
「変わらないの」
「だって絹よ」
この生地のパジャマだからというのだ。
「アルバイトで貯めたお金で買った」
「高級なものだから」
「そう、着心地もいいし」
そうしたパジャマだからだというのだ。
「それ着て寝起き悪いのはね」
「ないっていうのね」
「そんな筈ないじゃない」
こう母に反論した。
「パジャマは違うわよ」
「じゃあ別の理由ね」
「ベッドかお布団か」
「そういうのになるわね」
「ベッドは奇麗だし寝心地いいし」
「お布団も?」
「掛け布団もね」
こちらもと言う未亜だった。
「快適だし」
「そっちも寝心地いいのね」
「凄くね、だからこっちもね」
ベッドもというのだ。
「ないわよ」
「それじゃあ理由は他にあるのよ」
「他のっていうと」
「それはわからないけれど」
「そうなの、いや」
ここで未亜はふと気付いた、それで母に言った。
「ひょっとしてだけれど」
「寝起きが悪い原因わかったの」
「あの、パジャマにベッドにお布団でしょ」
この三つ、先に話が出たそれ等を挙げた。
「そうきたら残るわね」
「あっ、あったわね」
「そうでしょ、一つね」
「枕ね」
それだとだ、母も応えた。
「枕あったわね」
「そうよ、枕がね」
「あんた枕はどうなの?」
「確か十歳の時に買ってもらって」
「小四の時じゃない」
「その時からね」
「今も使ってるの」
「それのせい?」
「ちょっと見せて御覧なさい」
母は娘にむっとした顔で告げた。
「その枕をね」
「そこに原因があるかも知れないから」
「そう、その枕ね」
「それじゃあ」
未亜は母に応えすぐにだった、一旦自分の部屋に戻ってそのうえで自分が使っているその枕を母に見せた。
するとだ、母はその枕を見てすぐに言った。
「もうボロボロじゃない」
「そうよね、もう十年使ってるし」
「それ位ね、それ位使ってたら」
それこそというのだ。
「もう完全にくたびれてるし」
「この枕で寝ていたら」
「寝心地がそれだけ悪くなるわよ」
「それでなの」
「そう、あんたその分ね」
枕、寝る時に頭にやるその分だけというのだ。
「寝心地悪くてよ」
「寝起き悪かったのね」
「全く、じゃあ今からね」
「枕買いに行けっていうのね」
「あんたが使いやすくて寝やすそうな枕を見付けて」
そうしてというのだ。
「買ってきなさい」
「今すぐによね」
「明日も童話の悪い魔女が出て来たみたいな顔見たくないから」
未亜の寝起きの顔をこう表現した。
「だからね、お金あげるから」
「アルバイト料出たけれど」
「いいの、これ位出してあげるから」
「有り難う、お母さん」
「その分あんたの寝起きには困ってるの」
その寝起きの悪さにはというのだ。
「だからいいわね、今からすぐによ」
「枕買って来るわ」
「それじゃあね」
「行ってきます」
未亜は母からお金を貰ってすぐにだった、枕を買いに行った。そしてお店の人と相談をして出来るだけ使いやすそうな枕を買ってその日からその枕で寝た。すると。
翌朝未亜はやはり寝起きが悪いが昨日より五十パーセントはましな様子で出て来た、それで母は笑って言った。
「枕替えてよかったわね」
「うん」
未亜は顔を洗って出て来た、寝起きがましな分顔を洗うだけで覚醒することが出来たのだ。彼女にとっても幸いなことに。
「お陰でね」
「いい寝起きね」
「昨日よりずっとね」
「まあそれでも悪いけれど」
普通の人の寝起きと比べればそうだった。
「それでもずっとましなのは事実だから」
「いいのね」
「ええ、枕もね」
「大事ってことね」
「そうよ、枕も大事なのよ」
「枕一つで寝起きも随分変わるのね」
「寝ている間も気持ちよかったでしょ」
母は未亜にこの時のことも尋ねた。
「そうでしょ」
「ええ、かなりね」
「そう、枕次第でね」
「寝起きも変わるのね」
「そうよ、じゃあこれからはね」
「あの枕で寝るわね」
「そうしなさい、というかよくあんな枕ずっと使ってたわね」
子供の頃からのそれをとだ、母はここで首を捻って言った。
「あんたも」
「いや、特に何とも思わなかったから」
「枕のことは」
「それでね」
「これまで使ってきたの」
「そうなの」
未亜は母に何でもないといった顔で答えた。
「意識もしてなかったし」
「それが駄目だったのよ」
「だからなのね」
「寝起きも悪かったの、変な夢も結構見たでしょ」
「そういえば」
「夢もね、寝起きに関係するの」
このことも言う母だった。
「寝ている間頭が変な感じだとね」
「夢にもなのね」
「そう、影響してね」
「変な夢を見て」
「それが寝起きにも影響するのよ」
「悪い夢を見るなってことね」
「そうよ、だから枕にも気をつけなさい」
ベッドや布団、そしてパジャマだけでなくというのだ。
「これからは。いいわね」
「ええ、わかったわ」
未亜は再び母に応えた。
「これからそうするわね」
「寝起きが完全によくなることはなくても」
それでもというのだ。
「ましにはなるから」
「ええ、それじゃあね」
「これからはいい枕で寝ることよ」
それを使ってとだ、母は未亜に言った。そして未亜は極端な寝起きの悪さはなくなった。枕を替えたお陰で。
寝起き 完
2018・3・21
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