美術館の絵
 平野恵の趣味の一つに美術館巡りがある、休日等に美術館に行ってそうして絵や彫像を観ていくのだが。
 ある日だ、恵は友人の一人に言われた展覧会には眉を曇らせてこう答えた。
「ちょっとその人は」
「嫌なの」
「ええ、ゴヤはね」
 スペインの有名が画家だ、巨人等の作品が知られている。
「好きじゃないの」
「そうなの」
「ええ、だから今回は行かないわ」
「そうするのね」
「また別の人の展覧会に行くわ」
「そういえば今度はね」
 友人はここで梅田のある画廊での博覧会のことを話した、その画家の名前を聞くとだった。恵は今度は笑顔になって言った。
「その人はね」
「行くのね」
「ええ、絶対にね」
 こう言うのだった。
「そうするわ」
「そうなの、けれどね」
 話をした友人は笑顔になった恵に怪訝な顔で言った。
「この人今回が二回目の」
「展覧会は」
「そう、まだまだ無名の人じゃない」
「ゴヤと比べたらかなりね」
「それでもゴヤは行かないのね」
「絶対に行かないわ」
 恵はゴヤについては目を顰めさせて言い切った。
「何があってっもね」
「そうするの」
「そう、それでね」
「その人のところには行くのね」
「絶対にね」
「名声とかじゃないのね」
 その画家のとだ、友人は恵に言った。
「恵が画家の人を見るのは」
「ええ、そうなの」
 実際にとだ、恵も答えた。
「私が画家の人を見るのは」
「絵を見るのね」
「そうなの」
 まさにそれをというのだ。
「もっと言えば自分が好きな絵ならね」
「そうした絵を描くのなら」
「その人をの絵を観に行くわ」
 そうだというのだ。
「私はね」
「成程ね」
「そうしてるから」
「ゴヤはどういったのが嫌いなの?」
 友人は恵の彼女自身の言葉から彼女がゴヤを好きではない、もっと言えば嫌いと見てそれでこう尋ねた。
「一体」
「だって怖いじゃない」
「怖いからなの」
「ゴヤって気持ち悪いでしょ」
 その絵がというのだ。
「人間の内面描いてるって言われてるみたいだけれど」
「その内面の怖さをよく描いていて」
「それがね」
「怖いから」
「そう、好きじゃないの」
「そうなのね」
「不気味な絵とかはね」
 ゴヤだけでなく、というのだ。
「無理なの」
「不気味な絵を描く人もいるわよね」
「そういうのは駄目だから」
 それでというのだ。
「ゴヤもね」
「観に行かないのね」
「そうするわ、何があっても」
 それこそとも言う恵だった。
「ゴヤは行かないわ」
「それで別の人のところに行くのね」
「そうするわ」
 こう言ってだ、恵は実際にゴヤの方には行かず別のまだまだ駆け出しの画家の展覧会に行って楽しんだ。
 だがある日だ、恵はその友人と一緒に心斎橋の商店街を歩いていてだった。
 ヒロ=ヤマガタの博覧会が行われているのを観て思わずこう言った。
「あっ、チェックしてなかったけれど」
「ここでも展覧会やってたのね」
「これは行かないとね」
 こう友人に言うのだった。
「絶対に」
「ヒロ=ヤマガタはいいの」
「そう、この人は好きなの」
 こう友人に言うのだった。
「私はね」
「そういえば前に展覧会行った人も」
 友人はそのまだ無名の画家のことをここで言った。
「結構ファンタジーな絵を描くわね」
「幻想的なね」
「そうだったわね」
「それでね」
「ええ、ヒロ=ヤマガタもね」
 友人もこう返す、実は恵と一緒にいるうちに美術のことにも詳しくなったのだ。
「幻想的よね」
「それでなの」
「今から行くのね」
「そうしたいけれど」
「付き合うわよ」
 友人は恵に微笑んで答えた。
「時間もあるしね」
「それじゃあね」
「ええ、今から入りましょう」 
 そのヒロ=ヤマガタの展覧会にというのだ、こうして恵は友人と一緒にヒロ=ヤマガタの絵も楽しんだ。
 だがそれでもだ、ゴヤだけでなく怖い絵はだった。
 観ようとしなかった、このことは徹底していた。そのことは変わりなかったがある日のことだった。
 友人は恵が買っている漫画や小説を見て眉を顰めさせて言った。
「ホラー漫画に小説買ったけれど」
「ええ、結構好きなの」
 恵は友人にあっさりと答えた。
「ホラーはね」
「あの、その漫画家さんの作品って」
 特に漫画の方を見て言う友人だった。
「絵柄も怖いわよ」
「作風もね」
「小説それポーだし」 
 代表作の一つアッシャー家の崩壊である。
「その人の作品怖いので有名じゃない」
「もう凄いわよね」
「そういうのはいいの?特に漫画」
「そうなの」
「絵は無理でも」
「ううん、何か美術の怖さって格別じゃない」
「漫画と違って?」
 友人は眉を顰めさせたまま問い返した。
「違うっていうの」
「そうと思わない?」
「別に。というか」
 むしろと言う友人だった。
「同じでしょ」
「同じなの」
「私はそう思うけれどね」
 こう恵に言うのだった。
「実際に」
「そうなのね、けれどね」
「恵は違うのね」
「ゴヤとかみたいに人間の内面の怖さをこれでもかと出して描く」
「それはなの」
「そう、私駄目なの」
 こう友人に話すのだった。
「醜さとかおどろおどろしさとか」
「そうしたのが出ていると」
「どうしても駄目だけれど」
「漫画とか小説はいいの」
「そうなの、ストーリーとして怖いのはね」
「妖怪や幽霊やもっと訳のわからないのが出ても」
「いいの」
 恵としてはというのだ。
「別にね」
「人間の内面が嫌なのね」
「そうなの、そういえば漫画や小説でも」
 普通に買っているものでもと言う恵だった。
「人間の内面の怖いの描いてるとね」
「駄目なの」
「そうなるわ、本当にね」
 恵はまた話した。
「私は人間の内面が一番怖いわ」
「人間の心の」
「ゴヤでもそれがあるから」
 あまりにもだ、それが怖く描かれていてというのだ。
「私は駄目なの」
「そういうことね、わかったわ」
 友人もここで納得した顔になって頷いた。
「私もね」
「私が何を怖いか」
「それがね、確かに人間って怖いわよね」
「そうした一面あるわよね」
「それも相当にね」
「それが出るとね」
「アウトってことね」
「そうなの、どうしても」
 こう話してだ、恵はその漫画や小説を家に帰って読んだ。確かにどちらも怖かったがそうした怖さは恵にとっては平気でむしろ楽しめるものであった。


美術館の絵   完


                  2018・3・23

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