近代日本経済学
野田陽子は大学で経済学を専攻している、しかし彼女は今研究室で教授に本に囲まれつつ苦い顔を見せていた。
「私が前から思っていることですが」
「日本の経済学はだね」
「まだまだマルクスが残っていますね」
ソ連崩壊で否定された筈のこの理論がというのだ。
「そうですよね」
「うちの大学は違うけれどね」
教授はこう陽子に返した。
「幸いにしてね」
「はい、ですが日本全体ではまだ」
「そりゃそうだよ、新聞記者が天下りするだろ」
「はい、経済学の教授にも」
「彼等は経済学っていってもね」
「マルクスで止まってるからですね」
「そうだよ、だからね」
そうした人間が経済学の教授になるからだというのだ。
「まだ日本の経済学にはマルクスが残ってるんだよ」
「そういうことですね」
「もう世界的には否定されているんだけれどね」
「あの、そもそもです」
陽子は眉を曇らせて教授に言った。
「マスコミは官僚の天下りを批判しますね」
「いつもね」
「それでも自分達はですか」
「自分達はいいんだよ」
教授は陽子にあっさりと返した。
「天下りをしてもね」
「そうなるんですね」
「慰安婦で嘘を書いた新聞記者もじゃないか」
「あの人もそうでしたね」
「日本の大学の教授に天下りしそうだったじゃないか」
「それが批判されてなくなりましたね」
「けれど内定していたんだ」102
天下り自体はというのだ。
「実際にね」
「そのこと自体はですね」
「決まっていたんだよ、それでね」
「そうした人が大学にいて」
「今もだよ」
「日本の経済学にはマルクス主義が残っていますか」
「そうだよ、まあこんな国は日本だけだろうね」
今だに経済学でマルクス主義を堂々と肯定している学者がいる国はというのだ。
「他は北朝鮮かも知れないけれど」
「もう中国やベトナムでもですね」
「両方共もうね」
掲げている看板だけは共産主義でもというのだ。
「誰がどう見ても違うからね」
「そうですね」
「うん、だからね」
「もう日本以外はですね」
「北朝鮮だけだろうけれどまあ北朝鮮は」
教授はこの国のことも話した。
「どう見ても共産主義でも共和国でも民主主義でもないからね」
「世襲制の封建主義みたいな独裁国家ですね」
「マルクスよりもあの将軍様の一族だから」
彼等を何よりも神格化している国だからだというのだ。
「また別だよ」
「そうですよね」
「あの国はまあそうした国ということで」
「置いておいてですね」
「うん、とりあえず日本にお話を戻すと」
「日本だけですよね」
「そう思うよ、今だにマルクス主義経済を肯定的に教えている国はね」
まさにというのだ。
「本当にね」
「もう化石どころじゃないですね」
「経済は生きものだよ」
「その生きものの経済で化石というかもう駄目だってわかっている経済学を教えるのは」
「君の言う通りにね」
「どうにかしないといけないことですね」
「そうだよ」
教授は陽子に話した。
「この状況は何とかしないとね」
「本当にそうですね」
「それで君はこのことを打開するにはどうしたらいいと思うかな」
「はい、やっぱりマルクス主義が駄目なら」
それならとだ、陽子は教授にはっきりと答えた。
「どうしてなのか」
「それを検証してだね」
「論文として書きたいです」
「それが君のやるべきこととだね」
「考えていますが」
「そう、まあそんな化石そのものの教授はいなくなっているよ」
確かに日本では今もマルクス主義を肯定的に教えている教授、新聞記者が天下りしてそうなっている彼等がいるがというのだ。
「けれどね」
「そうした人は後がいないからですね」
「新聞記者の天下り自体もチェックされる様になっているし」
ネット等でだ、マスコミは官僚の天下りを批判しているが自分達の天下りがそうなるとは思っていなかったが世の中は変わったのだ。
「だからね」
「そうした人が天下り出来なくなって」
「しかも普通の経済学者が大学で育っているから」
「マルクス派の教授も減っていっていますね」
「そうなっているよ、しかしだね」
「はい、今の時点でどうにかする為に」
強い顔で、だった。陽子は教授に答えた。
「マルクス主義を検証して批判する論文を書きます」
「よし、じゃあその論文が完成したらですね」
「学会で発表するよ、ではね」
「今から検証していきます」
そうして書くとだ、陽子は約束してだった。
実際にマルクス主義を検証して研究してだった、そのうえで。
論文を書いてその論文を教授に手渡した、教授は陽子の名前をそのまま出してだった。学会でその論文を発表すると。
日本の経済学界で大きな反響を得てだった、マルクス主義経済はその分否定された。そうしてだった。
教授は陽子に笑顔でこのことを話した、そのうえで彼女にこうも言った。
「やはり君はね」
「大学院に残ってですか」
「学者になるべきじゃないかな」
「それはもう少し考えさせて下さい」
陽子はその問いには微妙な顔で返した。
「まだ」
「そうか、じゃあじっくり考えてくれ」
「はい、そうさせて下さい」
陽子は教授に言うのだった、彼女は優れた論文を書いたがそれでも未来にはまだつなげる考えには至っていなかった。こちらの検証はまだこれからだった。
近代日本経済学 完
2018・3・25
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