ヤクザ映画を観て
西長堀美紀の趣味の一つに映画鑑賞がある、だが友人達は美紀が観る映画についてよくこう言っていた。
「やっぱり戦争映画とか?」
「美紀ちゃんマーシャルアーツやってるしね」
「マーシャルアーツってアメリカ軍のだし」
「それじゃあね」
「戦争映画好きなの」
「そうなの?」
こう言うのだった、そして他にはだった。
「あと格闘とかよね」
「アクションとか」
「マーシャルアーツやってるし」
「それじゃあ」
「いや、何でも観るわよ」
美紀は友人達に映画の話をされる度に笑ってこう返していた。
「映画はね」
「戦争映画やアクション映画だけでなく」
「他の映画もなの」
「どんな映画も観るの」
「そうなの」
「そうよ、面白いと思ったらね」
それならというのだ。
「どんな映画も観るわよ」
「じゃあ恋愛映画とかも」
「ファンタジーも観るの」
「時代劇とか特撮も」
「何でもなの」
「アニメだって観るし」
こちらの映画もというのだ。
「だからね」
「本当に面白いとなの」
「何でも観るの」
「そうなの」
「ええ、観るわ」
またこう答えた美紀だった、とにかくだ。
美紀は面白いと思った映画は何でも観た、それである日友人達に対してクラスでこんなことを呟いた。
「信義なき戦いって面白いかしら」
「それヤクザ映画じゃない」
「そっちの方じゃ滅茶苦茶有名な映画よ」
「ヤクザ屋さん達が裏切り裏切られ殺し合う」
「そんな映画よ」
友人達は美紀に眉を顰めさせて言い返した。
「まさかと思うけれど」
「美紀ちゃんあのシリーズ観るの」
「ヤクザ映画も」
「そうなの」
「何か面白いって聞いたし」
それでとだ、美紀は友人達に答えた。
「だからね」
「観るの?」
「ひょっとして」
「あのシリーズ」
「そうするの」
「そうしようかしら」
こう言ってだ、そのうえでだった。
美紀は友人達にだ、あらためてその映画について聞いていることを話した。
「舞台広島よね」
「そう、呉からはじまってね」
「舞台は終戦直後からね」
「広島市でも抗争があって」
「ヤクザ屋さん同士がね」
「物凄い殺し合うのよ」
「広島のことはよく知らないけれど」
美紀は生粋の大阪人だ、広島には何度か旅行で行ったことがあるけれど住んでまでしていたことはないのでこう言ったのだ。
「それでもね」
「興味持ったの」
「その映画のお話聞いて」
「それでなの」
「そう、出ている俳優さんだってね」
今度はこちらの話をした。
「凄い豪華キャストでしょ」
「そうみたいね」
「主役の人達だけでなくね」
「脇役の人達あで錚々たる顔触れで」
「演技も凄いらしいわね」
「五作全部ね」
「しかも映像や脚本もよくて」
美紀は映画にとって重要なこの要素の話もした。
「それでよね」
「まあ実際にね」
「そうしたこともいいみたいね」
「作品としての評価は高いのよね」
「凄い興行収入で今も評判高いし」
「そう、だったらね」
それならというのだ。
「観ようかしら」
「そうするの」
「本当にあのシリーズ観るの」
「ヤクザ映画だけれど」
「女の子だけれど」
「だから面白いならね」
それならと言う美紀だった。
「観るわよ」
「そうするの」
「本当に観るの」
「女の子がヤクザ映画って」
「そうするの」
「そうするわ」
こう言ってだ、それでだった。
美紀は実際にそのシリーズを自宅の近くのビデオショップでレンタルして家で観た、するとそれを見た母もこう言った。
「女の子がそのシリーズは」
「観るものじゃないかしら」
「ヤクザ映画よ」
こう言うのだった。
「それはね」
「お母さんもそう言うのね」
「そりゃ言うわよ」
母は娘に顔を顰めさせてまた言った。
「確かにあんた映画好きだけれど」
「ヤクザ映画はなの」
「戦争映画やカンフー映画や西部劇よりもよ」
美紀はこうした映画も観ているのだ。
「けれどよ」
「ヤクザ映画は」
「幾ら何でもないでしょ」
「面白かったらね」
美紀は母にまた言った。
「何でも観るわよ」
「それでヤクザ映画も観て」
「楽しむわ」
「やれやれね、ヤクザ映画なんてね」
母は娘に自分の考えを話した。
「結局はヤクザ屋さんの世界だから」
「碌なものじゃないっていうのね」
「最近かなり減ったけれどね」
「ヤクザ屋さんは迷惑なものよね」
「だからヤクザ屋さんよ」
答えになっている様ななっていない様な返事だった。
「そんな人達の世界観てもね」
「仕方ないっていうの」
「お母さんはそう思うけれどね」
「それでも面白いならよ」
美紀は美紀で自分の考えを話した。
「私は観るから」
「それで楽しむのね」
「もう五作全部借りたし」
シリーズ全作をというのだ。
「だからね」
「ちゃんと全部観るの」
「そうするわ、まあ噂では面白いっていうし」
美紀は借りる前にネットでの評価をチェックした、するとその評価は決して悪いものではないどころかかなりいいものだった。
「一作読んで面白かったら続きどんどん観てくし」
「面白くなかったら?」
「折角五作借りたし」
だからだというのだ、その場合も。
「観るわ」
「どっちも観るのね」
「それで面白かったか時間の無駄だったか」
シリーズへの評価、それをというのだ。
「言うわ」
「やれやれ、本当に観るのね」
「今からね」
こう言ってだ、美紀は信義なき戦いのシリーズの視聴をはじめた。舞台は終戦直後の呉からはじまってだった。
広島を舞台にしたヤクザ者達の抗争が描かれていった、裏切り裏切られ信義も仁義も何もなかった。その中で多くの俳優達がそれぞれの演技を魅せていった。
美紀はすぐに真剣に観る様になりコーラもお菓子よりもそちらに熱中する様になっていた。そしてだった。
時間を見付けては観ていって休日も利用してマーシャルアーツのトレーニングも学業も欠かさなかったが熱心に視聴した、そうしてだった。
五作全部観終わってだ、美紀はクラスで友人達にこう言った。
「正直な感想言うわね」
「ええ、どうだったの?」
「面白かったの?」
「そうだったの?」
「名作って言われるだけあるわね」
美紀はまずはこう言った。
「演技も演出もストーリーも撮影も場面の細部の設定もね」
「全部なの」
「いいの」
「そうなの」
「確かにヤクザ映画だけれど」
そうした悪い世界を描いているがというのだ。
「そうしたもの全部しっかりしていて出ている役者さん達がよ」
「そっちはね、私も知ってるわ」
「私も」
「私もよ」
友人達もキャストについては口々に言えた。
「有名だからね」
「錚々たる顔触れだからね」
「もう伝説って言っていい位に」
「凄い人達出てるわよね」
「それだけのものはね」
そのレベルに至っている映画はというのだ。
「そうそうないから」
「レベル高いっていうのね」
「映画の出来は」
「そうだっていうの」
「そう、ヤクザ映画はこれまで観たことなかったけれど」
それでもというのだ。
「観てよかったわ」
「ヤクザ映画でもなのね」
「面白いものは面白い」
「そう言うのね」
「そうよ、面白かったわ」
笑顔で言う美紀だった、このことは事実だと。
「五作全部見ごたえがあったわ、じゃあ次はね」
「次は?」
「次はっていうと?」
「前から考えていたけれど」
こう前置きしての言葉だった。
「男は厳しいよのシリーズ観るわ」
「漢はなの」
「あれ観るの」
「マドンナに毎回振られるフーテンの人」
「あのシリーズ観るの」
「そう、観るわ」
美紀は友人達に笑顔で答えた。
「全作ね」
「頑張ってね」
「あのシリーズ凄い数になってるけれど」
「それでもね」
友人達は美紀に今度はすぐにエールを贈れた、ヤクザ映画の時とは違って。だがそえでも言うのだった。
「渋いけれどね」
「あのシリーズもね」
「女子高生が観るには」
「それでもね」
「ええ、面白かったらね」
ここでもこう言った美紀だった。
「観るわ」
「そうするのね」
「今回も」
「ええ、そうするわ」
美紀は笑顔で言ってだ、そしてだった。
美紀はそのシリーズも観るのだった、彼女にとって映画はまさにどんなジャンルでも面白ければいいのだった、大事なのはこのことだった。
ヤクザ映画を観て 完
2018・4・21
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