高校生と金魚
 長堀恵里佳の趣味の一つに金魚を飼うことがある、家の金魚の世話は彼女が全てしている位である。
 その金魚についてだ、恵里佳は姉達によくこう言っていた。
「金魚っていいわよね」
「可愛くて奇麗で、よね」
「しかも頑丈で」
「飼いやすくて」
「そうだっていうのよね」
「そう、本当にね」
 金魚達を入れている水槽を見つつ言うのだった。
「こんないいお魚他にないわよね」
「けれどね」
 ここで上の姉が恵里佳にこう言った。
「金魚って色が違うだけで」
「鮒っていうのね」
「実は近い種類なのよね」
「そういえば鮒を金魚の群れの中に入れて一緒に飼ってたら」
 下の姉もここで言った。
「色が変わるっていうわね」
「金魚の色にね」
「外見はもう色違い位の違いだし」
「そうでしょ、だからね」
 それでというのだ。
「金魚って結局はね」
「鮒なのね」
「色違いよ」
 それに過ぎないというのだ。
「結局は」
「鮒って思うとね」
「どうもとも思うけれど」
「けれど金魚って可愛いじゃない」
 妹は姉達にいつもこう返していた、金魚は鮒に近いというかただ色違いに過ぎない肴と言われるとだ。
「そうでしょ」
「ええ、それでもね」
「鮒に近くてもね」
「鮒っていうとその辺りにいるお魚に思えるけれど」
「金魚は赤くてきらきら光ってね」
「その赤くきらきら光るのがいいの」
 まさにと言う恵里佳だった。
「私としては」
「だからなのね」
「いつも世話してるのね」
「そう言うの」
「そうなの、本当にね」
 恵里佳はさらに言うのだった。
「私あの赤くきらきらした感じが好きなの」
「だから金魚飼ってるのね」
「水槽の中に入れて」
 勿論餌も用意していつもあげている。
「それでお水も奇麗にして」
「空気も入れてるのね」
「器具もちゃんと揃えて」
「時々水槽も交換して洗ってるの」
「そうしてるの、本当にね」
 実際にというのだ。
「私金魚飼うの好きなのよ」
「観て飼う、そうして育てる」
「そのこと自体がなのね」
「そう、好きなの」
 こうしたことを言って恵里佳はいつも金魚を飼育していた、その飼い方は真面目でかつ丁寧なものだった。
 その中でだ、恵里佳は家で母にこんなことを言われた。
「ちょっとご近所であんたのこと話題になってたわよ」
「私のことで?」
「そう、あんた金魚飼うの好きでしょ」
 夕食後食器を一緒に洗いつつ話していた、父はまだ家に帰っていなくて姉達はそれぞれ食器を拭いて収めている。
「それでね」
「それで?」
「実はお隣の山田さんがね」
「ああ、あの人ね」
 恵里佳も知っている人だ、気さくなお婆さんでご主人と二人暮らしだ。
「あの人がどうかしたの?」
「山田さんデメキン飼ってるらしいけれど」
「そうなの」
「最近身体の調子が悪くなったらしくて」
 それでというのだ。
「もう世話をするのが辛くなってるらしいの」
「そうなの」
「ええ、だからね」
「ひょっとして」
「そのひょっとしてよ。あんた金魚好きだから」
「貰って欲しいの」
「そうお話されてたのよ」
 これまで飼っていた金魚をというのだ。
「そうね」
「そうなのね」
「それでどう?」 
 母は食器を洗いつつ恵里佳に尋ねた。
「デメキンも飼う?」
「そうね、それじゃあね」
「まだ飼えるわよね」
「ええ、ちゃんとね」
 水槽には今十匹の金魚がいる、だが水槽は大きくまだ十匹は充分に飼える位の余裕がある。それで恵里佳も答えたのだ。
「それだけの余裕があるわ」
「だったらね」
「ええ、じゃあそのデメキンね」
「あんたが譲り受けてくれるのね」
「そうさせてもらうわ。ただ山田さんそんなにお身体悪いの」
「何でも最近腰が痛くて」
「あっ、腰が痛いと」 
 どうかとだ、恵里佳もすぐにわかった。
「水槽持てないから」
「そうでしょ、あんた水槽すいすい持ってるけれど」
「腰が痛いとね」
「水槽盛ったり出来ないでしょ」
「お水も時々替えてね」
「水槽を洗うことも」
 こちらのこともというのだ。
「どうしてもね」
「痛いと出来ないでしょ」
「だからなのね」
「山田さんもね」
「金魚飼えなくなったのね」
「それであんたにお願いしたいっていうの」
「わかったわ」
 ここまで聞いてだ、恵里佳も頷いた。
「それじゃあ有り難くね」
「引き受けてくれるのね」
「そうさせてもらうわ」
 恵里佳は母の言葉に頷いた、こうしてだった。
 お隣の山田さんからデメキンを譲り受けた、そしてそのデメキンを水槽の中に入れたが姉達はデメキンを観て言うのだった。
「何かね」
「違和感あるわよね」
「他の金魚は普通の金魚なのに」
「鮒の形のね」
 オーソドックスな金魚だというのだ。
「それでね」
「その中にデメキンが入るとね」
「目立つわね」
「一匹だけ違うから」
「そう?デメキンもね」
 恵里佳は姉達のその言葉に落ち着いた顔で応えるだけだった。
「いいでしょ」
「いいの?」
「そうなの」
「ええ、私デメキンも好きよ」
 こちらもというのだ。
「だってデメキンも金魚でしょ」
「まあそれはね」
「デメキンも金魚だしね」
「そのことは事実だし」
「それでいいのね」
「ええ、いいわ」
 全く平気という返事だった。
「私はね」
「そうなのね」
「じゃあデメキンも飼ってくのね」
「これからは」
「そうしていくのね」
「勿論よ。けれどあれよね」
 ここで姉達にだ、恵里佳はこんなことも言った。
「何か水槽風情ないと思わない?」
「風情?」
「風情っていうと」
「だから水槽だけあって」
 見れば酸素を出すタンク以外は何もない、水槽自体も水も奇麗だが他には何もない感じであるのは確かだ。
「それで中に何もないでしょ」
「ああ、水草とか砂とか」
「そういうのがないのね」
「だからね」
 それでというのだ。
「今度お小遣い出来たら買うわね」
「水草とかそうしたのを」
「買ってきて中に入れるの」
「そうするわね、さて何を買おうかしら」
 早速こちらの考えに至る恵里佳だった。
「一体ね」
「まあそこはね」
「ちょっと私達にも考えさせて」
「ペットショップに行って」
「それで三人でね」
 色々話をして考えて決めようとだ、姉も言ってきた。そしてだった。
 三人で笑顔でデメキンが加わった水槽とその中にいる金魚達を観て楽しんだ、金魚を楽しんでいるのは恵里佳だけではなかった。
 そしてペットショップで姉妹で話して買った水槽や砂や他の水槽の中を飾るものを入れた水槽の中で泳いでいる金魚達を観てだ、恵里佳はこう言った。
「いや、何か竜宮城みたいね」
「竜宮城は海でしょ」
「金魚は海の中では住めないわよ」
 姉達は笑って言う恵里佳にすぐに突っ込みを入れた。
「だったら竜宮城じゃないでしょ」
「それに浦島太郎も出ないし」
「そういえばそうね、けれどこれで余計にいい感じになったから」
 恵里佳は姉達の言葉に頷きながらも水槽の中を観続けてそのうえで二人に応えた。
「だからね」
「それでなの」
「これからも飼うのね」
「ええ、そうするわ」
 まさにとだ、こう言ってだった。 
 恵里佳は金魚達、勿論デメキンにも餌をあげた。そして餌を食べる彼等を観て余計に笑顔になるのだった。


高校生と金魚   完


                 2018・4・20

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