般若湯
 これは阿波座陽奈が大学に進学し成人式を迎えた後の話である。
 阿波座陽奈は人格者でイラストも上手で高校時代に数学以外の教科は優秀でしかも美人というハイスペックと言っていい少女だ。大学に進学し成人した今は数学の試験もなくその欠点もなくなったと思われている。
 それで友人達も陽奈のことをこう言うのだった。
「いや、陽ちゃん凄いわね」
「数学以外はいつもトップクラスだったし」
「絵も上手だしね」
「性格もいいし」
「嫌味さがないのよ」
「もうまさに尼さんね」
「修行を積んでる人よ」
 こう言うのだった、だが陽奈自身はそう言われても驕ることなくいつも自分を律していて問題のある行動は取らなかった。それで余計にだった。
 友人達は余計に陽奈は凄いと言った、だがそんな彼女は。
 そうした話を聞くとだ、いつもこう言った。
「私そんな立派じゃないから」
「いや、立派よ」
「陽奈ちゃん凄い娘よ」
「流石はお寺の娘さんよ」
「しかも美人だし」
 友人達はその陽奈に返した。
「完全無欠?」
「数学以外はね」
「まさにね」
「そうでもないから」
 あくまでこう言う陽奈だった、しかし友人達はそんな彼女の言葉を全く信じていなかった。陽奈は高校時代の数学のテストはいつもかろうじて赤点でない位ということを除けばこれといって欠点はないと確信していた。そんなある日のこと。
 友人の一人が自分の家でパジャマパーティーをしようと提案した、しかもそのパジャマパーティーにはだ。
「お酒をね」
「それぞれ持って行って」
「そしてなの」
「飲みながらなのね」
「やるのね」
「そうしましょう、休日の前に私の家に集まって」
 そしてというのだ。
「めいめい買って持って来たお菓子やお酒でね」
「楽しみながらなのね」
「やるのね」
「そうしましょう、大学生になったし皆二十歳になったしとことんまで飲んで」
 本当はよくないがあえてというのだ。
「やってみましょう」
「そうね、じゃあね」
「今度の土曜の夜ね」
「お酒やお菓子持って行って」
「パジャマパーティーしましょう」
 こうして話は決まった、そして友人達は陽奈にも声をかけた。
「陽ちゃんも来てくれるわよね」
「そうしてくれる?」
「お酒は駄目?」
「般若湯よね、煙草は駄目だけれど」
 これは絶対にと言う陽奈だった。
「けれど家じゃ般若湯はね」
「いいのね」
「飲んでいいのね」
「陽ちゃんも」
「ええ、うちでもそうなの」
 寺である陽奈の家でもというのだ。
「だからパジャマパーティーもね」
「参加してくれるのね」
「じゃあお菓子とお酒持って来てね」
「そうしてね」
 友人達はその陽奈に笑顔で言った、こうしてだった。
 話は決まり陽奈もパジャマパーティーに参加することになった、皆話が決まった通りそれぞれ酒にお菓子を持ってきた。それぞれ持って来る酒には条件があった。
「強いお酒にしましょう」
「強いお酒?」
「ビールとかチューハイじゃなくて」
「そう、ウイスキーとかウォッカとか」
 一人が笑って提案したのだ、冗談半分で。
「もうそうした強いお酒をね」
「銘々持って来るの」
「そうして皆で飲むのね」
「その強いお酒を」
「普通にビールとかチューハイじゃ面白くないじゃない」
 アルコール度が低い酒ではというのだ。
「だからね」
「それでなの」
「強いお酒持ってきて」
「それで飲むのね」
「どうせ次の日は休日だし」
 それならというのだ。
「もうね」
「そうしたお酒でとことん酔う」
「そうもなれっていうの」
「それでなの」
「そう、それでいきましょう」
 こう話してだ、そしてだった。
 全員それぞれウイスキーやウォッカ、ジンやラムといった本当に強い酒を買ってそのうえで集まった。無論お菓子も持って行って。
 そうして順番でお風呂に入ってそれからパジャマに着替えてだった。
 お菓子を食べ酒を飲みはじめた、ただ。
 誰もウイスキーやウォッカ等の強さを知らなかった。それで彼女達の殆どは少し飲むとあっという間にだった。 
 酔ってだ、倒れそうな顔で言い合った。
「ウイスキ―凄いわね」
「ウォッカもね」
「ジンもかなりよ」
「ラムだって」
 持って来たその酒達はというのだ。
「随分強いわ」
「ビールやチューハイと全然違うわね」
「もうちょっと飲んですぐにお酒回るわ」
「胃の中が熱くなるわね」
「こんなに強いなんて」
「何これ」
 殆どの者がその強さ、蒸留酒独特のそれに唖然とさえなっていた。とかくその酒の強さに戸惑っていた。
 だが一人陽奈だけは。
 ウイスキーも他の酒も平気な顔で飲んでいた、ロックにして飲んでいく。それで友人達はその彼女に驚いていった。
「陽ちゃん平気?」
「どんどん飲んでるけれど」
「ウイスキーとウォッカ空けたし」
 この二本は陽奈が殆ど一人で空けてしまった。
「それで今度はジン?」
「ジンも凄い勢いで空けてるけれど」
 それこそジュースやお茶を飲む様に飲んでいる、陽奈の酒の飲む勢いはまさにそうした感じであった。
 それでだ、友人達も言ったのだ。
「ひょっとしてお酒強い?」
「陽ちゃんってそうなの?」
「それもかなり」
「そうなの?」
「いや、うち信者さんが皆お酒好きで」
 それでとだ、陽奈自身も友人達に話した。
「お寺にも持って来てくれて」
「それでなの」
「陽ちゃんも飲む時多くて」
「それでお酒強いの」
「そうなの、飲みはじめたらね」
 陽奈はジンもどんどん飲んでいる、食べているお菓子はポッキーだ。そのポッキーを食べながら飲んでいるのだ。
「止まらないのよ」
「うわ、そうなの」
「こうした強いお酒もなの」
「大丈夫なの」
「そうなの、もうね」
 それこそと言いつつさらに飲んでいく。
「飲みだしたら止まらないの」
「そうなの」
「それでなのね」
「今も飲んでるのね」
「その勢いで」
「逆に飲みはじめたらね」
 今の様にだ、そうなればというのだ。
「止まらなくてお父さん達にも言われてるの」
「そうなの」
「飲んだら止まらないから飲むなって」
「そう言われてるの」
「だからこうした時もね」
 やはり飲みながら言うのだった。
「飲めるの、というかこうした時こそね」
「大歓迎?」
「ひょっとして」
「この流れで飲めるのが」
「ええ、お酒大好きだしね」
 にこにことしてさらに飲みつつ言う。
「それならよ」
「じゃあジンも飲んで」
「それで最後のラム酒もなの」
「飲むのね」
「そうするわ、だからお酒は安心して」
 残すことはないというのだ。
「というかまだ飲める位よ」
「うわ、ジン空けたし」
「ラム酒飲みはじめたけれど」
「まだ飲めるの」
「それだけ飲んで」
「そう、飲めるから」
 それでとだ、あらためて言ってだった。
 陽奈はさらに飲んだ、そしてそのラム酒も空けた。そして次の日起きるとだった。友人達は少し酒が残っている感じだったが。 
 それでもだ、陽奈は平気でだった。起きて友人達に言った。
「皆大丈夫?」
「いや、陽奈ちゃんこそよ」
「あれだけ飲んで大丈夫?」
「昨日物凄く飲んでたけれど」
「大丈夫なの?」
「全然平気よ」
 実際にそうした顔で返事をした、見れば本当に顔は平気だ。
「この通りね」
「凄いわね」
「けれど確かにそれだけ飲んだらね」
「止められるわ」
「陽ちゃんの短所わかったわ」
「お酒ね」
 それのことだとだ、友人達は納得して言った。
「本当にね」
「お酒飲みだすと止まらないっていうのはね」
「確かに短所よね」
「それだけ飲むと」
「ええ、だからね」
 それでと言うのだ。
「私自身気をつけてるの」
「そういうことね」
「陽ちゃんにも短所があるのね」
「お酒を飲みだすと止まらない」
「そのことがなのね」
 友人達も納得した、そうしてパジャマパーティーは終わりとなりそれからは一緒に朝御飯を食べた。陽奈はこの時も酒の残りはなかった。飲みだすと止まらなかったがそれでも平気な顔のままであった。


般若湯   完


                   2018・4・20

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