リンゴ1つで世界が滅びかけるそんな話があった様な気がする。
どうせまた記憶違い、うろ覚えであろうとも思う。
何かの比喩だったかもしれないし、格言的な、何かの様な気もする。
そもそもそんな話なんか何処にも無かった様な気もするし、図書室で読んだ様な気もする。
無駄な事を考えていたせいか、罫線が引かれたノートには、シャーペンをトントンと、何度も軽く押しては離しを繰り返した回数分だけ、小さな点が汚れとして存在感を増している。
それでも教師の真上にある時計は、思ったほどに進んでいないのがもどかしい。
ログだか指数関数だか聞き覚えたところで、テスト直前まで忘れても問題ないような字の羅列を見て、教師と真面目な生徒のチョークとシャーペンのカツカツ、カッカッと音が重なるのを聞く。
あぁ真面目に生きているんだなと、思う反面、自分自身は何をやっているのだろうと急かされて脅されているようで、イラッとするのもまた事実だ。
取り残されているとも思えないけれど、こういう時間が訪れると思う事は、何時だってひとつで、幸せになりたいと思う。
別に絶望する程に不幸なわけでもない。
なんとなく幸せになりたい。
富とか権力とか恋愛とか満たされた幸せを感じてみたい。
あぁリンゴで、世界が滅びかけた話もそうだっけ。
一つしかない貴重なリンゴをその象徴の女神授けると、どれかの幸せを手に入れることが出来て、どの幸せを選んでも、選ばれなかった誰かから、その幸せを奪われる話だった気がする。
それで、世界滅びかけるとは、なんともね。
幸せになろうとすると世界滅ぶんだなと漠然と思うしかないわけで。
そりゃあ、うろ覚えにもなるか。
まぁその話になぞらえると、どうやら僕は世界を滅ぼしたいらしい。
幾分、物騒すぎやしないか。
なんとなく幸せになりたいと思っていたら、世界を滅ぼしたいとか、今黒板から消された数式よりも意味がわからない事間違いなしだ。
別にほんの少し満たされて幸せになりたいだけで、世界を滅ぼしたいわけではない。
いやでも、もしリンゴ一つで世界が滅ぶのと引き換えに、富とか権力とか恋愛とか少しでも満たされた幸せを感じることができるなら、それはそれでとも揺らいでしまうのは、間違いないだろう。
誰に、奪われたいだろうとか。
どれを手に入れたいだとか。
世界が滅びかけさせるなら恋愛が起因というのは中々美しいだとか。
世界を滅びかけるのが富とか権力ではありきたりすぎるだとか。
恋愛で満たされたいとか。
富とか良いよねとか。
様々な満たされた未来が浮かんでは消える。
いやいや、よく考えたらそんな未来など現実ですらないし。
現実に引き戻すかのように、真面目な委員長の号令とともに授業が終わる。
最後に考えた事は、リンゴがあったとして幸せを選べずリンゴを腐らせる、そんな愚者めいた自分の姿だ。
汚れたノートをバタンと閉じる。
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