血の味
 パウロは陰のある外見の美男子だ、職業は情報屋兼仕事人と完全に裏の仕事だ。表の世界では一応は喫茶店の駄目店長となっている。だがそれはあくまで表向きのことで彼が住んでいるのは裏の世界だ。
 そこでの彼は神出鬼没で晴らせぬ恨みを晴らし法で裁けぬ外道を裁く死刑執行人である。だがその彼の好物は。
 血だ、その血を好む彼に裏の世界での仕事仲間達は聞いた。
「何で血なんだ?」
「血が好きなんだ?」
「吸血鬼でもないっていうのに」
「どうしてなんだ?」
「それは決まっているだろう」
 陰のある顔に暗い笑みを浮かべてだった、パウロは彼等に答えた。
「それはな」
「それは?」
「それはっていうと?」
「どうだっていうんだ?」
「美味いんだよ」
 こう言いつつまた血を飲む、グラスに入れたそれをワインの様に。
 そうしてだ、彼は仲間達にさらに話した。
「とてもな」
「血が美味いか?」
「また変わった味覚だな」
「血が美味いなんてな」
「吸血鬼でもないのに」
「俺にとってはそうなんだよ」
 ここでまた血を飲んで言うのだった。
「こうして血を飲んでな」
「そしてか」
「そのうえでか」
「また飲んでか」
「これからも飲んでいくんだな」
「そうしていくさ」
 美味いからだとだ、そうして実際にまた血を飲む彼だった。
 だがその血が具体的に何の血かだ、仲間達は今度はこのことが気になってそれでパウロに対して言った。
「それ何の血だ?」
「美味いっていうけれどな」
「具体的に何の血なんだ?」
「まさか人間の血?」
「違うよな」
「自分の血を舐めてみな」
 これがパウロの返事だった。
「そうしてみな」
「鉄の味するぜ」
「自分の血舐めたなら」
「血には鉄分あるからな」
「そんな味だぜ」
「まずいだろ」
 正直言ってとだ、パウロは問い返した。
「そうだろ」
「ああ、確かにな」
「言われてみればな」
「人間の血はまずいぜ」
「本当にな」
「そうだろ、人間の血なんて飲まないさ」 
 その通りとだ、パウロも返した。
「俺はな」
「そう聞いてほっとしたぜ」
「吸血鬼でもないのに血が好きっていうからな」
「まさか人間の血かって思ったけれど」
「そうじゃないのならな」
「だから自分の血を舐めてまずいからな」
 それでというのだ。
「俺は人間とか他の種族の血は飲まないんだよ」
「じゃあ何の血なんだ?」
「人間や他の種族でないなら」
「それならな」
「何の血を飲むんだよ」
「ああ、それはな」
 パウロはその彼等に話した。
「牛が一番多いな」
「牛か」
「牛の血か」
「牛の血を飲んでるのか」
「そうなんだな」
「ああ、あと羊の血も飲むぜ」
 こちらの血もというのだ。
「馬もな。あとな」
「あと?」
「あとっていうと何だよ」
「スッポンの血も飲むな」
 この生きものの血もというのだ。
「吸うからな」
「ああ、スッポンな」
「スッポンの血も飲むんだな」
「あれは有名だな」
「飲むと精がつくってな」
「そう言われてるな」
「だからな」
 それでと言うのだった。
「色々飲むな」
「一口に血といってもか」
「牛とか羊とか馬か」
「あとスッポンか」
「色々飲むんだな」
「そうしてるんだな」
「そうさ、ただな」
 ここでだ、パウロは彼等にこうも話した。
「豚の血は飲まないな」
「あれっ、豚は飲まないのか」
「それは何でだよ」
「豚の血は飲まないのか」
「それはどうしてなんだ?」
「豚には虫が多いだろ」
 それでというのだ。
「だからな」
「それでか」
「豚の血は飲まないのか」
「虫が多いからか」
「だからか」
「そうさ、飲む血は選ばないとな」
 例え好きにしてもというのだ。
「生でこうして飲むにはな」
「御前としては美味くて精がついてもか」
「それでもか」
「飲む生きものの血は選んでるか」
「そうしてるか」
「ちゃんとな」
 こう言ってだ、また血を飲むパウロだった。仲間達がその血は何の血かと聞くとそれは牛のものだった。
 だがその血を飲みつつだ、パウロはふと遠くを見る目になってだった。仲間達にこう言ったのだった。
「妹ゲテモノ好きでな」
「ああ、あの生き別れになったっていう」
「あの妹さんか」
「妹さんがか」
「料理好きでその中でもな」
 料理のその中でもというのだ。
「ゲテモノが好きで得意でな」
「それでか」
「血もか」
「料理に使ってたのか」
「ああ、まあゲテモノって言えないものもあるな」 
 一口に血の料理といってもとだ、パウロは述べた。
「肉料理のソースにしたりソーセージにしたりするしな」
「ああ、結構あるよな」
「血を使った料理もな」
「肉料理にも使うし」
「そういえばそうだな」
「それで俺にも血の料理を出してくれてな」
 その生き別れの妹がというのだ。
「生で飲むこともな」
「教えてくれたんだな」
「その妹さんが」
「そうだったんだな」
「ああ」
 そうだとだ、パウロは仲間達に答えた。
「あいつと一緒に住んでいた時にな」
「そんなことがあったんだな」
「御前も色々あったんだな」
「血を飲むことは妹さんとの絆か」
「それでもあるんだな」
「親父もお袋も死んだ」
 遠い目でだ、パウロは話した。
「それからは妹と二人だったがな」
「その妹さんが作ってくれてか」
「それで教えてくれたからか」
「今も飲んでか」
「味も楽しんで栄養も摂って」
「絆も確かめてるんだな」
「そうさ、再会したらな」
 若しそうなれば、その時のことも話したパウロだった。
「一緒に飲むな」
「そうか、そうしろよ」
「折角だからな」
「その時はな」
「一緒に飲めよ」
「そうするな」
 実際にとだ、こう言ってだった。
 パウロはまた血を飲んだ、飲むと妹の笑顔が頭の中に浮かんだ。今は生き分かれているたった一人の肉親と。


血の味   完


                     2018・5・20

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