首はなくても
 フェーミネス=ケリーはデュラハンだ、デュラハンは首が肩と肩の間にはなく小脇に抱えているものだ。尚ちゃんと然るべき場所に置くことも出来る。
 だが今フェーミネスは頭を失っている、それで周りの妖精達に首を傾げさせつつこう言うのだった。
「私首何処にやったのかしら」
「それわからないの?」
「どうしても」
「自分では」
「首を何処にやったのか」
「わからないの」
「そうなの」
 こう仲間達に言う、身体は小柄な身体を白いドレスで包んでいる。履いているヒールは銀のものである。
「これがね」
「それでその首どんな首?」
「一体ね」
「その首がどんな首かわかったら探しやすいけれど」
「首だけだと只でさえ目立つけれど」
「どんな首かわかったら余計に探しやすいから」
「ちょっと言って」 
 どんな首かとだ、妖精達はフェーミネスに尋ねた。
「それでね」
「どんな首なのよ」
「一体ね」
「どんな首?」
「金髪の長いツインテールよ」
 フェーミネスは皆に右手の人差し指を立たせて話した。
「目は青、もう美少女よ」
「いや、自分で言う?」
「自分で言うのはどうかな」
「自分で自分を美少女とか」
「それはどうかしら」
「私嘘言ってないわよ」
 フェーミネスは首のない状態で一同に話した。
「妖精の神々に誓ってね」
「それ本当?」
「本当かしら」
「美少女って」
「本当にそうかしら」
「そうよ、美少女の首だけだから」 
 それ故にというのだ。
「絶対に見付けやすいわよ」
「だといいけれどね」
「じゃあ金髪のツインテールの首ね」
「目は青」
「それで自称美少女ってことね」
「自称じゃなくて本当にそうよ」
 そこは力説するフェーミネスだった。
「だから一緒に探してね、お礼はちゃんとするから」
「お礼何?」
「それで何なの?」
「美少女の投げキッスよ」
 見付けた首でのというのだ。
「それするから」
「直接のキスじゃないんだ」
「せめて魚の鱚だったらいいのに」
「日本で食べるっていう」
「あのお魚だったら」
「じゃあ皆にジャガイモ料理ご馳走するわよ」
 アイルランド名物のこれをというのだ。
「それでいいわね」
「まあそれならね」
「是非探させてもらうよ」
「ジャガイモは美味しいから」
「それじゃあね」 
 仲間の妖精達もここでやっと納得した、そうしてだった。
 皆でフェーミネスの首を探しはじめた、金髪ツインテールに目は青そして自称美少女のその首をだ。すると。
 何と妖精達のサッカーグラウンドの横にある倉庫の中にサッカーボールと共にあった、ピクシーが持って来たその頭を見てだった。 
 フェーミネスはその首を指差してこう言った。
「そう、この首がね」
「フェーミネスの首だね」
「そうなんだね」
「そうよ、その首よ」
 こう皆にも言うのだった、首のない身体で。
「いやあ、見付かってよかったわ」
「じゃあ大事に小脇に抱えてね」
「それか肩と肩の間に置くか」
「もう二度となくさない様に」
「そうしてね」
「気をつけるわね」 
 こうしてだった、フェーミネスは首を見付けてもらった。そうして皆にお礼のジャガイモ料理を振舞うことになった。
 だがそのジャガイモ料理を食べながらだった、妖精の皆はフェーミネスが小脇に抱えている彼女自身が言う通り美少女の顔を見つつ彼女に問うた。
「あの、ちょっといいかな」
「首は無事に見付かったけれど」
「ずっと気になってたことあるけれど」
「ちょっといい?」
「ええ、何?」
 フェーミネスは仲間達に応えた、彼女自身その首でジャガイモ料理を食べている。
「気になることって」
「いや、首なかったけれどさ」
「フェーミネス普通に喋ってたよね」
「言葉を発していたよね」
 仲間の妖精達は彼女のこのことを指摘した。
「首別の場所に行っていたのに」
「サッカーグラウンドの倉庫の中にね」
「お口はそこにあったのに」
 首ごとだ。
「そこにあったのに」
「何で喋ることが出来たの?」
「あの見ることも出来たよね」
「ちゃんと首も見えてたし」
「それだって言ってたし」 
 フェーミネス自身が首を確認したその時にというのだ。
「ちゃんとね」
「目がないのにね」
「首と一緒にあるのに」
「何で見えてたの?」
「そういえば僕達のお話も聞こえていたよね」
「ちゃんと」
「しかもね」
 妖精達はフェーミネスにさらに話した。
「首の方は見えていなかったし」
「何でなの?」
「何処で話して何処で見て聞いてるの?」
「首がないのに」
「そういえばそうね」
 言われてだ、フェーミネスもそのことに気付いた、今は小脇の首で喋って見て聞いている。匂いも嗅いで料理のそれを楽しんでいる。
「私首なくてもね」
「喋ってたし」
「見て聞いてたし」
「何でそれが出来たの?」
「どうして出来たの?」
「ちょっとわからないけれど」
「さて」
 その小脇の首が怪訝な顔になった、そのうえでの言葉だった。
「どうしてかしら」
「いや、自分もわからないの?」
「ひょっとして」
「フェーミネス自身も」
「そうなの」
「ええ、どうしてかしらね」
 首を傾げさせたまま言うフェーミネスだった、それでこう仲間達に言った。
「私もわからないわ」
「自分がわからないんだったらどうしようもないね」
「何か色々と変な話だけれど」
「何でそうなるのか」
「本当に意味不明だけれどね」
「どうしてかしらね」
 そこがわからないフェーミネスだった、そして彼女はこの時からすぐにまた首をなくしたがその時もだった。首がない状態で喋って見て話すのだった。デュラハンという妖精の実に不思議なことである。


首はなくても   完


                 2018・5・20

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