正義戦士ジャスティスマン
 正義サトシは普段は商店街の肉屋を経営している、店はいつも客が来てくれていて生活には困らない。
 父はもう他界していて母と二人暮らしだ、その母には口癖があった。
「あんたももう一度ね」
「結婚しろっていうんだな」
「ええ、もう一度ね。そしてね」
「それはな」
 どうにもとだ、サトシは母にこう返すのが常だった。
「もうちょっと待ってくれよ」
「相手がいないのかい?」
「いるにはいるよ」
 それは事実だというのだ。
「俺にだって」
「それじゃあその人と結婚してだよ」
「また所帯持てっていうんだな」
「綾戸さんいい人だったし相思相愛だったのに」
 前の妻のことも話すのが常だった。
「どうして別れたんだよ」
「仕方ないだろ、それは」
 サトシは母に困った顔で返す、これも常だった。
「止むに止まれぬ事情があったんだから」
「私にも言えないことだね」
「そうだよ」 
 それでというのだ。
「別れるしかなかったんだよ」
「綾戸さんとは今も会ってるんだよね」
「いつも会ってることは会ってるよ」
 それは事実という返事だった。
「実際に」
「じゃあよりを戻すとか」
「そんなの絶対に無理だよ」
 サトシは母にこのことは強く否定した。
「何があっても」
「いつも会ってるのにかい?」
「そうだよ」
「綾戸さんに新しい相手がいるとか」
「いや、いないよ」
 このことはサトシも知っていた。
「絶対に」
「それじゃあいいんじゃないかい?」
「よくないよ、とにかくあいつとはもう」
「よりを戻せないんだね」
「それで再婚も」
 それもというのだ。
「まだ考えられないよ」
「やれやれだね」
「仕方ないだろ、ヒーローなんだから」
「ヒーロー?」
「いや、何でもないよ」
 自分が正義の戦士ジャスティスマンであることは隠した、そしてだった。
 サトシは肉屋として正義の戦士ジャスティスマンとして生きていた、そしてこの日もよく食うそれも脂っこい肉料理が好きな割にガリガリの身体をタイツとベルト、スカーフで包み顔は丸出しの赤モヒカン姿で戦うのだった。
 彼を助けた蛙はいつも左肩にいて言ってくる。
「ジャスティスマン、今日もね」
「ああ、フォークマンズがまた出て来たからな」
「戦おう」
 蛙はサトシ、今はジャスティスマンである彼に告げた。
「そしてそのうえで」
「ああ、街の平和を守ろう」
「是非共ね、しかしフォークマンズもしつこいね」
「ああ、本当にな」
 サトシは蛙に苦い顔で応えた、顔は丸出しでも正体は誰にもわかっていない。一人だけは例外として。
「何度も何度もな」
「出て来てそうして」
「街の平和を乱そうとしてくるからな」
「今日も首領自ら出て来ているのかな」
「絶対にそうだろ」
 それは間違いないとだ、サトシは蛙に答えた。
「あの首領前線に出るの好きだし」
「やれやれだな」
「やれやれか」
「本当にあの首領さんはあれだよ」
「あいつのことは言うなよ」
 サトシは蛙に少しバツの悪い顔で言った。
「どうもな」
「ああ、あの人はね」
「あれだからな」
 それでというのだ。
「あまり話されるとな」
「嫌な気持ちになるね」
「何でこうなるんだよ」
「人生ってわからないね」
「御前と会ったこともあいつとのこともな」
「いや、本当に不思議だね」
「全くだよ、けれどな」
 サトシは蛙に今度は毅然とした声で告げた。
「フォークマンズがこの世にある限り」
「ジャスティスマンは戦う」
「そうするからな」
 こう言ってだ、サトシはフォークマンズが出た場所に家のママチャリで全速力で向かった。フォークマンズが出たのは小学校だ。小学校の鶏小屋の前で鶏に卵を産め、産まないと焼き鳥にするぞと脅して嫌がらせをしていた。
 そのフォークマンズの戦闘員達、全身黒タイツに覆面で顔の前に三又のフォークが描かれている彼等に言った。
「それ以上のことは許さないぞ!」
「フォ!?」
「ジャスティスマンか!」
「そうだ、街の為商店街の為に戦う正義の戦士ジャスティスマンだ!」 
 サトシはバックに旭日旗を出して名乗った。
「御前達の悪事止めてみせよう!」
「やれるものならやってみろ!」
「俺達を止められるならな!」
 すぐにだ、彼等は。
 鶏達への嫌がらせを中断してサトシに向かった、だがサトシは自慢のカポエラやジャスティスソードで戦い。
 戦闘員達を瞬く間に倒してしまった、そしてさらに身構えて言った。
「首領エビル!出て来い!」
「言われなくても」
 青髪を長く伸ばした妖艶な美女が出て来た、派手なグラビアアイドルが着る様な前が大きく開き胸がかなり露わになっていて臍も見えている黒い水着の様なレオタードに黒い太腿までのブーツに裏地が赤の黒マント、肘まで完全に覆っている黒手袋には鞭を持っている。切れ長で赤い唇に濃い目のメイクの美女だった。スタイルはかなりいい。
 その首領エビルが出て来てだ、サトシに言った。
「出て来てあげたわ」
「エビル、今度こそ決着をつけてやる」
「生憎だけれどそうはいかないわ」
「何っ?」
「急用が入ったのよ」
 こう夫に言うのだった。
「今から引っ越しのお手伝いよ」
「実家の仕事か」
「そうよ、残念だけれど今日はこれで終わりよ」
「くっ、何てことだ」
「あなたとはいい加減決着をつけたいとは思っているわ」
「俺もだ、いいか織戸いやエビル」
 ついつい言い間違えを訂正した。
「次こそは御前を倒す!」
「それはこっちの台詞よ」
「全くですよ」
 首領エビルの右肩にいる山椒魚が言ってきた。
「いい加減こっちも腹が立っていますからね」
「ええ、私達の活動の邪魔をするなんて」
「あのね、あんたそもそも旦那さんでしょ」
 山椒魚は智に言ってきた、山椒魚だがオオサンショウウオではなく小さい種類だ。
「自分の奥さんが私を助けて悪の首領になったんですから」
「手伝えっていうのか」
「それが筋でしょ」
「馬鹿を言え、俺はその前の日に正義の戦士になっていたんだ」
「そうです、私を助けて」
 蛙が言ってきた。
「そうなったんですから」
「それはこちらも同じこと」
 山椒魚は蛙に反対する様に言葉を返した。
「偶然我が主に助けて頂き」
「それでだったな」
「我が力を得たのだ、フォークマンズ首領の力をな」
「私はこの力で悪を尽くすのよ」
 首領エビルはサトシを見て彼に告げた。
「嫌がらせ、悪戯、寄り道、買い食い、夜遊び、あらゆる悪事をね」
「くっ、何て悪い奴等だ」
 サトシは首領エビルの言葉に歯噛みした。
「その悪事、俺が決して許しはしない」
「私を倒すというのね」
「そうしてやる、悪は許さん!」
「まら私は正義を許さないわ」
「望むところだ、正義は必ず勝つ!」
「悪は不滅よ!」
 二人で小学校の中で言い合った、だが首領エビルには実家の仕事が入った。それで家が経営している会社の社員達である戦闘員達を全員起こしてから連れて行ってだ。
 この日は大人しく引き下がった、だがサトシは元妻を見送ってから蛙に言った。
「俺は絶対にだ」
「はい、負けないですね」
「正義が負ける筈がないからな」
 だからだというのだ、明日も明後日もそれからもフォークマンズと戦う決意を固めるのだった。
 二人の戦いは一年間続いた、丁度テレビ番組の放送期間にして四クールに渡った、その最期の方は何だかんだで二人は和解して夫婦に戻ることが出来た。しかしすぐに今度は二人と蛙、山椒魚を脅かす新たな悪の組織が出て来た。サトシの戦いは終わらないのだった。


正義戦士ジャスティスマン   完


                  2018・6・20

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