安住の地
 セドリック=ブライトンは今現在宿なしだ、その穏やかな人柄故に友達は多くてそれで彼等の家に居候させてもらって暮らしている。
 幸い仕事は法律への知識を活かしたものがあるので安定したそれも多額と言っていい収入がある。しかし。
 彼は溜息をついてだ、今泊めてくれている友人に好物の紙を食べつつ言った。
「またちゃんとした下宿先を手に入れないと」
「駄目っていうんだな」
「そうだよ」
 こう言うのだった、人間と黒山羊を合わせた姿で。黒髪は後ろで束ねていて右目は青、左目は金色の垂れ目と目立つ外見である。
「やっぱり居候ばかりじゃね」
「しかしだよ、君は」
「うん、紙を見るとね」
 どうしてもとだ、セドリックは友人に困った顔で話した。
「食べずにいられないから」
「そうだね」
「いや、普通に見る分はいいんだよ」
 それなら問題ないというのだ。
「けれどね」
「手に取るとだね」
「本もそうでね」
 読書が趣味だが読んだ傍からだ。
「読んですぐに食べてしまって」
「食事にもなっているね」
「山羊でもあるからね、僕は」
 この属性もあるからだというのだ。
「それでだよ」
「食べてしまうね」
「山羊は羊は紙が好きだから」
「その習性は避けられないね」
「どうしてもね」
「だから家賃を払おうとしても」
 その時もなのだ。
「君は支払おうとしてね」
「紙幣を出したらだよ」
「その傍から食べてしまって」
「家賃を払えなくなってね」
「追い出されているんだ」
「これで二度目だね」
「うん、けれどね」
 そうした状況だが、とだ。彼は友人に切実な顔で話した。
「僕としてはね」
「どうしてもだね」
「また下宿先を探したいよ」
「難しい問題だね、けれど君は収入もあるし」
 それでとだ、友人は深刻な顔になって自分に話すセドリックに応えた。
「その人格だからね」
「下宿もだね」
「また見付かるよ。ただね」
「ただ?」
「君のその習性は考慮しないとけないから」 
 セドリックの空腹時に紙を見ると食べずにいられないそれはというのだ。
「だからいつも紙を持っていて」
「お腹が空いたら食べる様にするんだね」
「そうすればいいし。お金の支払い方も」
 それもというのだ。
「紙幣を手渡しじゃなくてね」
「他の渡し方をなんだ」
「考えてみればどうかな」
「そうだね、考えてみるよ」
 セドリックも友人の言葉に頷いた、そしてだった。
 彼は実際に紙出来るだけ質のいいものを常に持っていて空腹の時は食事あるいはおやつとして食べる様にした。そうして手当たり次第に紙を食べることは防いだ。
 そして新しい下宿先を探したがここでだった、友人達はその彼に親身に話した。
「要するに紙幣を手渡しにしなければいいんだ」
「じゃあもう大家さんに自動的に振り込まれる様にしたらいい」
「その渡し方ならいい筈だ」
「あと普段から紙幣を持たないことだよ」
「そうだ、お金は降り込み式にして」
 セドリックも言われて気付いた、このことに。実は彼もこれまで手渡ししかないと思い込んでいたのだ。
 だがそれがだった、友人達に言われて気付いたのだ。
「普段もカードにして」
「そうだよ、そうしていけばいいんだよ」
「お金の支払い方も」
「カードを持てばいいんだよ」
「そうすればいいんだ」
「そうだね、じゃあ振り込みでいいと言う大家さんと契約して」
 セドリック自身も言った。
「そしてね」
「そう、カードだ」
「これからはカードを使ってものを買っていくんだ」
「そうすればいいんだ」
「そうだね、じゃあ今度からそうしよう」
 このことを決めてだ、そしてだった。
 セドリックはそうした大家を探して契約して新しい下宿先を手に入れてカードも手に入れた。ここまで整えてだった。
 彼は友人達に笑顔で話した。
「いや、ちゃんと家賃を支払える様になってね」
「もう追い出されないな」
「家賃を払えないからといって」
「うん、しかもね」
 さらに話した。
「カードで支払う様になってね」
「ついつい紙幣を食べることもなくなった」
「そのこともなくなったんだな」
「そうだよ、お金の支払い方も色々だね」
 このことを実感もしていた。
「振り込みやカードもある」
「そうさ、もうこれで心配いらないな」
「君は普通に暮らせる筈だ」
「ちゃんとした下宿に住めるんだ」
「君が望む様に」
「嬉しいよ、このことがどれだけ嬉しいか」
 まさにと言うのだった。
「僕はわからないよ」
「そうだよな」
「このことは本当にいいよな」
「安定して暮らせる様になって」
「本当に」
「うん、安住の地を手に入れるには」
 セドリックは友人達にしみじみとした口調で話した。
「工夫も必要ということだね」
「工夫すれば安住の地を手に入れられる」
「少し考えややり方を変えれば」
「それで手に入れられることもあるな」
「そうだね、僕がまさにそれだよ」
 笑顔で言うセドリックだった、そうして下宿先で楽しく暮らすのだった。遂に手に入れた安住の地で。


安住の地   完


                  2018・6・24

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