天才と呼ばれなくても
篠生瑞樹は何をやらしてもソツなくこなせる、このことで万能タイプとよく言われている。しかし。
彼自身は笑っていつもこう言っていた。
「僕何でも一番になったことはないんだ」
「勉強でもスポーツでも芸術でも遊びでもか」
「何でもか」
「うん、二番にはなっても」
それでもというのだ。
「一番はないんだよね」
「じゃあ天才じゃないのか?」
「一番になったことがないっていうのは」
「そうなんだな」
「うん、神とか天才とか言われたことは」
こうしたことはというのだ。
「本当にないんだ」
「そういう奴も珍しいな」
「人間絶対に何かの能力で天才っていうけれどな」
「じゃあ御前はソツなくこなす天才か?」
「そうなるのか?」
「そうかもね、何か本当にね」
実際にというのだ。
「僕は一度も一番になったことがなくてね」
「二番ばかりか」
「一番にはなったことがないんだな」
「神とか天才とか呼ばれたことはないか」
「うん、例えばモーツァルトみたいなね」
あまりにも有名な音楽家だ、その作曲した曲に駄作は一作もなく歌劇の登場人物に端役はないと言われている。
「何かにそうした才能はないんだよ」
「まあモーツァルトは極端か?」
「あそこまでいくとな」
「冗談抜きで作曲特化だからな」
「そこに全振りの」
「あと霍去病とかアインシュタインとかでもないし」
軍事や科学の天才達とも違うというのだ。
「あらゆる方面で天才だったレオナルド=ダ=ヴィンチとか」
「そうした人でもないか」
「そう言うんだな」
「何かの能力で天才とか神とか言われたことはないよ」
それこそ一度もというのだ。
「僕はそんな人間なんだ、けれどね」
「御前はそれでもいいんだな」
「器用貧乏でも」
「それで困ったことはないし何でもソツなくこなせたら」
それならとだ、瑞樹は微笑んで言うのだった。
「それでいいよ」
「そういうものか」
「勉強でもスポーツでも芸術でも遊びでもか」
「ソツなくこなせたらいい」
「そうなんだな」
「うん、それで満足だよ」
実際にそれで満足している瑞樹だった、それで彼は日々を彼なりに楽しく過ごしていた。だがある日のことだ。
インターネットの動画をスマホで観てだ、瑞樹は友人達に対して心からほっとした顔になってこんなことを言った。
「僕天才とか神じゃなくてよかったよ」
「いや、それいつも言ってるだろ」
「それで何で急に言い出したんだよ」
「何だ?スマホで動画観てるな」
「何の動画だよ」
「これだよ」
瑞樹は便利屋の仕事の中で知り合った、友人達にその動画を見せた、便利屋はよく言えば万能悪く言えば器用貧乏な彼にとって天職で仕事が止まることはない。お客さんは順番待ちと言っていい状況でもある。
「この動画ね」
「?これ国会か」
「国会じゃないか」
「与党と野党が言い合ってるな」
「議員さん同士がな」
「ほら、出てるじゃない」
瑞樹は友人達に嫌そうに話した。
「ここにね」
「ああ、野党の大阪出身のおばさん出てるな」
「運動家あがりの」
「このおばさん相変わらずだな」
「タレントあがりの白づくめの爬虫類みたいな顔したおばさんも出てるな」
見れば動画ではそうした女性議員達が喋っている、それも相手に対して上から目線で居丈高な調子で。
瑞樹は友人達に彼女達の動画を見せてそうして言うのだった。
「ほら、この人達ってあれじゃない」
「ああ、大阪のおばさんは前科あったな」
「昔逮捕されてたな」
「相手を疑惑の総合結社とか言ってな」
「自分も捕まったよな」
疑惑どころか確定だった。
「よくそれで平気な顔して出てるな」
「相変わらず他人責めるの好きだよな」
「東北の震災の時何かやったよな」
「あと怪しい団体と今でもつながりあるんだよな」
「また捕まる様なことしているんじゃないのか?」
「逮捕されているんだよ、この人」
瑞樹は友人達にこの事実を話した。
「しっかりとね、その白づくめの人も」
「一番じゃ駄目なんですかとかな」
「スパコンの予算削減で言ってたな」
「僕は確かに一番になったことはないよ」
それでもと言った瑞樹だった。
「けれどだよ」
「いつも一番目指してるよな」
「そうして努力してるよな」
「何でもな」
「学生時代もそうだったし今もだよ」
その通りだとだ、瑞樹も答えた。
「一番目指さないと結果は出ないよ」
「それなのにそんなこと言うとかな」
「よく言えたな」
「後ではやぶさが戻ってきて面子潰れたけれどな」
「その言葉撤回しないよな」
「この人も疑惑あるじゃない」
瑞樹はさらに指摘した。
「国籍でね」
「ああ、あるよな」
「国会議員でそれまずくないか?」
「このおばさん何処の国の人なんだ?」
「何か色々言われてるよな」
「正体不明のおばさんだよな」
「それで相手は嘘だとか誤魔化すなとか言うから」
自分は誤魔化しているがというのだ。
「ちょっと凄いよ」
「悪い意味でな」
「大阪のおばさんと一緒だよな」
「自分はどうなんだ?ってなるよな」
「本当にね」
「この人達はあれだね」
瑞樹は心からこう言った。
「恥知らずの天才だよ」
「そっちの天才か」
「恥を知らないことでの天才か」
「厚顔無恥ってやつだな」
「それの天才なんだな」
「そうだと思うよ、僕は天才じゃないけれど」
どのことでもとだ、瑞樹はまたこのことを話した。
「けれどね」
「それでもだよな」
「そんな才能はいらないよな」
「恥を知らないことでの才能とか」
「そんなことは」
「人間恥を恥と思わなくなったら本当に怖いっていうから」
瑞樹は昔誰かに言われた言葉を思い出した。
「だからね」
「それでだよな」
「人間恥知らないと駄目だよな」
「やっぱりな」
「人間はな」
「こんな才能絶対にいらないよ」
瑞樹はまた言った。
「こんなことで天才になりたくないよ」
「全くだな」
「人間この世にいらない才能もあるな」
「悪いことで天才でもな」
「仕方ないよな」
「こんな人達になれないことは感謝しているよ」
自分も動画を観つつ心から思う瑞樹だった、彼は確かに一番になったことはなく何かのことで神や天才と呼ばれたこともない。だがこうしたことで神や天才でなくてよかった、今はこのことを心から思ったのだった。
そしてだ、彼は友人達にこう言った。
「じゃあこれからもソツなくね」
「何でもやってか」
「仕事していくか」
「そうするんだな」
「うん、皆の為にね」
笑顔で言ってだ、瑞樹は働くのだった。その何でもソツなくこなせることに対して心から感謝して。
天才と呼ばれなくても 完
2018・6・24
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