友達が欲しい
柚木小太郎には心から望んでいることがある、それは友達が欲しいということだ。
その為不幸にも健康には恵まれておらずよく風邪をひいたり身体がだるかったりするがそれでも毎日登校してクラスメイトでも誰でも話しかけていた。だが。
友達は中々出来なかった、それで家で夕食を食べている時に家族にも言っていた。
「今日も駄目だったよ」
「友達出来なかったの」
「うん」
母の問いに首を力なく頷かさせて答えた。
「そうだったよ」
「そうだったのね」
「今日も駄目だった、けれど」
「明日もよね」
「学校に行って」
それこそ這ってでも行くつもりだ、どれだけ体調が悪くてもそれでも登校するのが彼の日常だ。
しかしだ、そうしてもなのだ。
「そうするよ。僕は諦めない」
「そう、諦めたらね」
「それで負けだよね」
「よく言われていることだけれど」
はじまりはあるバスケットボールの漫画だったと言われている、それからこの言葉と考えが定着したと言われている。
「そうよ」
「そう。だから」
それでとだ、お太郎はまた言った。
「僕は諦めないから」
「そうしてよね」
「僕は友達が出来る様にしていくから」
「頑張りなさいね」
「うん、明日も登校出来る様に」
「しっかり食べなさい」
夕食をとだ、母は小太郎に言った。そして小太郎もその夕食を頑張って食べた。
小太郎は日々学校で友達作りに腐心した、クラスでも部活でも誰にでも話しかけて巷の流行を勉強してその話題のネタも頭に入れていった。そうして話しかける相手一人一人をよく観察して空気も読む様にした。
しかしだ、それでもだった。
「実感ないね」
「友達出来たっていう」
「うん、ないんだ」
夕食の時にまた両親に言うのだった。
「どうも」
「いや、実感なくてもな」
父が息子に話した。
「それでもな」
「出来てるかな」
「そうじゃないか?」
「そうだといいけれど」
小太郎は俯いた顔のまま父に応えた。
「友達出来ていたら」
「クラスでよく話す子も出来てるだよ」
「何人かは」
実際にとだ、小太郎はおかずのスパムのステーキを箸で食べつつ父に答えた。
「やっと出来たよ」
「だったらな」
「その子達がなんだ」
「御前の友達じゃないか?」
「そうかな」
「そうだろ、部活でもそうした子いるんだろ」
「先輩でも後輩でも」
陶芸部に入っている、その陶芸も頑張っている。
「出来た」
「だったらな」
「その子達も僕の友達」
「そうだろ、だから実感ないとかな」
「思っていても」
「実は違うだろ、それでな」
こう我が子に言うのだった。
「そんなに実感ないとか思うことはな」
「ないんだ」
「そうだと思うがな」
「そうだといいけれど」
やはり実感を感じることなく言う小太郎だった。
「僕も」
「ああ、そんなに気にしないでな」
「友達作っていけばいんだ」
「これからもな」
「そうよね」
母もここで言ってきた、白菜と鯖の缶詰をじっくりと煮たものを食べつつ。
「小太郎も頑張ってるから」
「友達を作ろうと」
「それで出来てきてると思うわよ、お母さんも」
「普通に話をする子が出来てきて」
「そうよ、あと友達ってね」
ここで母は息子にこうも言った。
「何ていうかはっきりわかるかっていうと」
「自分が誰かの友達とか」
「そうしたものでもないんじゃないかしら」
「ああ、自分がそう思っていてもとかな」
父も母のその言葉に応えた。
「相手は思っていないとかな」
「あるしね」
「じゃあ皆も」
小太郎は両親の言葉を聞いて暗い顔で驚いた、そうして言った。
「僕を友達と思っていないとか」
「あるかもな、そして逆もな」
「僕が友達と思っていない子が僕を友達と思っている」
「そうしたこともあるだろ、結局友達っていうのはな」
「はっきりわからないんだ」
「そんなものだろ、だから難しく考えずにな」
それでと言うのだった。
「人と付き合っていけばいいんじゃないか」
「そんなものなんだ」
「難しく考えないでな」
また我が子にこう言った。
「そうしてな」
「それじゃあ」
「ああ、気楽に考えていったらどうだ」
父は我が子に暖かい声をかけた。
「これからな」
「それじゃあ」
小太郎は父の言葉に頷いた、そうしてあまり深刻に考えないで友達を作っていこうとも考えた。だがそんな時だった。
不意にだ、日頃結構話していた部活の後輩が交通事故で死んでしまった。小太郎はその知らせに驚いて言った。
「あんないい子が死ぬなんて」
「ああ、だからな」
それでとだ、部長はいつも以上に蒼白な顔になった小太郎に話した。
「彼のことは忘れない様にしよう」
「これからも」
「お通夜にも出よう、部員全員で」
「わかりました」
小太郎は部長の言葉に頷いた、そしてだった。
彼は後輩のお通夜にも出て冥福を祈った、だが彼が死んでからもだった。ずっと彼のことを思うのだった。
そうしてだ、家でも両親に彼のことを話した。
「あんなにいい子いなかったのに」
「死んだんだな、交通事故で」
「そうなったのね」
「うん、そして」
そのうえでと言うのだった。
「僕ずっとあの子が死んだこと残念って思っているんだ」
「ひょっとしてな」
ここでだ、父が小太郎に行ってきた。
「その子は御前の本当の友達だったのかもな」
「本当の?」
「前言ったな、自分が友達と思っていてもな」
「相手が友達と思っていない場合もあるんだね」
「ああ、けれどな」
「けれど?」
「友達と思っていない子が死んで残念に思うか」
こう小太郎に問うのだった。
「それはどうだ」
「そう言われると」
「思わないな」
「うん、友達と思っていない子がどうなっても」
「もっと言えば縁も何もない子がな」
「死んでもね。何も知らなくて関係ない子なら」
それならとだ、小太郎も答えた。
「思わないよ、何も」
「残念ともな」
「そうだよね」
「友達だからな。死んだらな」
それならばというのだ。
「残念に思うんだ」
「そうなんだね」
「ああ、だからな」
「その子は僕の友達なんだ」
「それで死んだ子もな」
この場合は後輩の子だ。
「その時にわかるんだ」
「死んだ時に」
「そうじゃないか?例えば御前が残念がっているのを見てな」
後輩の子を中心に置いてだ、父は息子に話した。
「御前が友達だってわかるのかもな、死んでから魂だけになった時にそれを見てな」
「つまりそれは」
「そうだ、友達ってのはお互いが生きている時にわかるものじゃないんじゃないか?」
「どちらかの子が死んだ時にわかるのね」
母も言ってきた。
「要するに」
「そうじゃないか?」
父は母にも言った。
「やっぱり」
「そうなの」
「いや、そこは俺もまだわからないけれどな」
「友達はそうしたものなの」
「実際何でもない奴がどうなっても何も思わないだろ」
「それもそうね」
母も頷いていた、そんな二人の会話を聞いてだった。
小太郎はより友達について考える様になった、そうしてそのうえでだった。
友達作りに励んでいった、多くの子と話をして付き合い遊ぶ様になった。それから彼は生きている間に多くの人と交流してだった、多くの別れも経験した。その都度残念に思うことが多かった。そしてその相手が友達だったとわかったのだった。小太郎は生涯に多くの友達を持った。そのことは彼が死ぬ時に実感出来てそのことは幸せだと思った。
友達が欲しい 完
2018・7・16
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