忍者ガール
アデリナ=バームガルトはドイツから日本に留学してきている。時代劇や落語、漢字そして古典にも通じている。
所属している部活は陸上部と剣道部だ、ここで日本で出来た友人達は彼女に問うた。
「剣道部はわかるけれど」
「ええ、アデリナ侍好きだから」
「けれどね」
「どうして陸上部?」
「陸上部にもいるの?」
「忍者だからでござるよ」
アデリナは友人達に笑顔で答えた。
「だからでござるよ」
「ああ、忍者は駆けたり跳んだりでね」
「陸上部にいると走って跳ぶから」
「忍術のトレーニングにもいいから」
「それでなのね」
「陸上部にも所属しているでござる」
アデリナ本人もこう言った。
「そうしているでござる」
「そうなのね」
「それでどっちも励んでいて」
「修行しているのね」
「そうでござる」
アデリナは笑顔で答えた。
「今日もそうするでござる」
「外国の人手忍者や侍好きな人多いっていうけれど」
「実際にそうなろうって人はね」
「私はじめて見たわ」
「私もよ」
皆こう言う、そしてだった。
アデリナの日本での生活を見た、アデリナは修行をしているだけに非常に俊敏でしかも強い。そしてさらにだ。
心も鍛えられていて正々堂々としている、そこで剣道部の部長が部活の後で防具の手入れをしている彼女にこう言った。
「アデリナは武士ね」
「武士というと侍ですね」
「ええ、騎士と言いたいけれど」
アデリナがドイツ出身だからだ、こうも思ったのだ。
「けれどね」
「拙者は騎士よりもでござる」
「武士になりたいのよね」
「はい、侍になりたいでござる」
部長に明るい笑顔で答える、袴姿が実によく似合っている。
「是非共」
「そうよね、だからね」
「武士でござるか」
「そう言ったのよ」
実際にというのだ。
「そうしたけれど」
「拙者そう言われて感激です」
「武士が好きだから」
「そう言われて恐悦至極で」
そしてというのだ。
「感激しているでござる」
「そうなのね」
「そしてでござる」
アデリナはさらに言った。
「拙者これからもでござる」
「修行するの」
「そうしていくでござる」
「頑張ってるわね、いいことよ」
「はい、憧れの日本にも来たでござるからな」
だからと言うのだった。
「拙者これからも修行をしていきまする」
「日本のことを勉強していくのね」
「忍者も武道も古典も」
そうしたもの全てをというのだ。
「学んでいきまする」
「日本人としても嬉しいわね」
「はい、ただ」
ここでだ、アデリナは顔を曇らせた。そうしてこうも言ったのだった。
「困ったこともあるでござる」
「というと」
「食事でござる。拙者納豆も塩辛も梅干しも生ものも好きでござるが」
刺身等だ、日本人が好きなそれも好きだ。
しかしだ、刺身はよくてもというのだ。
「どうしても食べられないものがあるでござる」
「そうなの」
「そこだけが困っているでござる。絵も苦手でござるが」
そちらはというと。
「ドイツでも苦手だったから同じでござる」
「だから言わないのね」
「そうでござる。日本人は恐ろしいものを食べるでござる」
「その恐ろしいものが気になるわね」
どうにもとだ、部長はその食べものが気になった。だが聞こうとしたところで一年生に部室の掃除のことで聞かれた、それでそっちに気が向かったのでアデリナにさらに聞くことが出来なかった。そしてその夜に。
アデリナはホームステイ先の夕食の場でだ、おかずの刺身を見た。だが。
刺身の盛り合わせの中に烏賊のそれもあるのを見てだ、日本人の家族達に言った。
「申し訳ないでござるが」
「あっ、烏賊は」
「遠慮させてもらうでござる」
家の主婦に答えた、実に優しい人でアデリナにもよくしてくれる。
「こちらは」
「アデリナさん烏賊はね」
「どうしても食べられないでござる」
「お刺身はよくても」
「烏賊は駄目でござる」
「そうだったわね」
「だから他のものを頂くでござる」
「そういえばアデリナさんって」
家の娘も言ってきた、中学生でアデリナを慕っていて二人は実の姉妹の様に仲良くなっている。一緒にお風呂に入ったり寝ることもある。
「蛸も駄目よね」
「足が沢山あって柔らかくてうねうねと動くとでござる」
そうした生きものはというのだ。
「苦手でござる」
「そうなのね」
「日本人はどちらもよく食べるでござるな」
「うん、私もね」
黒髪と黒い目の典型的なアジア系の外見でだ、家の娘はアデリナに話した。
「どっちも好きよ」
「そうでござるな」
「特にたこ焼きがね」
「たこ焼き。絶対にでござる」
それこそと言うアデリナだった。
「食べられないでざる」
「美味しいのに」
「美味しいと聞いてもでござる」
アデリナにとってはだった。
「無理でござる」
「ううん、アデリナさん忍者で侍なのに」
それで強いのにとだ、家の娘はこうも言った。
「どうしてもなの」
「納豆やお刺身はいいでござるが」
見れば今日の食卓には納豆も出ている、そして梅干しもあるし瓶の塩辛もある。ただし烏賊の塩辛ではない。
「しかしでござる」
「烏賊と蛸は駄目で」
「遠慮するでござる」
「そういえばあっちでは食べないね」
家の主人も言ってきた、やはりアデリナに優しくしてくれる。
「烏賊も蛸も」
「それ言ったら納豆や梅干しもじゃない」
家の娘は自分の父にこう返した。
「そうじゃない」
「そうでござるが」
「それでもなの」
「どうしてもでござる」
どうにもと言うのだった。
「烏賊と蛸は駄目でござる」
「じゃあアデリナさんの烏賊は私が貰うね」
家の娘はアデリナに笑顔で言った。
「私烏賊のお刺身好きもだし」
「かたじけない」
アデリナは家の娘にすぐに礼を述べた。
「では食べて欲しいでござる」
「代わりに私の鮭あげるから」
彼女の嫌いなものと交換というのだ。
「そうするわね」
「鮭の方が癖ないのに」
このことに首を傾げさせたのは母親だった。
「どうして嫌いなのよ」
「いや、どうしてもね」
「嫌いなの」
「そうなの」
「拙者鮭は好きでござる」
アデリナは鮭については笑顔でこう言った。
「ではでござるな」
「交換してね」
「いただくでござる」
アデリナは笑顔で応えた、そしてだった。
二人はそれぞれ烏賊と鮭を交換して食べた、その食事の後でアデリナは家の母親にこう言われた。
「明日はラーメンにするから」
「ラーメンでござるか」
そう聞いてだ、アデリナは明るい笑顔になった。刺身の時よりも遥かに。
「ラーメンは日本の最高の麺でござる」
「ドイツでもあるの?」
「最近あるでござる、インスタントも好きでござる」
そちらのラーメンもというのだ。
「本当に最高でござる」
「だからね」
「明日はでござるか」
「ラーメンにするわね」
「楽しみにしているでござる」
笑顔で応えるアデリナだった、そしてそのラーメンを楽しみにしつつ食事を終えて日本の家族と一緒に食器を片付けてから今度は風呂に向かうのだった。
忍者ガール 完
2018・7・17
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