助っ人は多忙
山本凛子は日常生活の中では文武両道で眼鏡が牛乳瓶のそれである以外は外見もよく学校の人気者だ。それであらゆる部活に何かあると助っ人を頼まれている。
この日は新体操部から頼まれた、この部活の二年生が彼女のところに来てそのうえでこう言ってきたのだ。
「あの、凛子ちゃん今度ね」
「うん、学校の皆の前でよね」
「部活の皆で団体演技を披露しないといけないけれど」
それがというのだ。
「昨日うちの娘が一人足を挫いて」
「演技に間に合わないのね」
「そうなの」
困った顔で言うのだった。
「これがね」
「それでよね」
「悪いけれど」
神に頼む様にだ、凛子に述べた。
「代わりに出てくれる?」
「ええ、それじゃあね」
凛子は新体操部の娘ににこりと笑って答えた。
「私でよかったら」
「それじゃあね」
「出させてもらうわ」
こう言ってだ、凛子は新体操部の助っ人として出た。するとその演技は素晴らしく誰もが特に男子が魅了された。
「いいよな、山本さん」
「演技よかったな」
「動きが凄い自然でな」
「新体操部の娘達と変わらなかったな」
そこまでよかったというのだ。
「あれだとな」
「ああ、合格だな」
「しかもスタイルよかったしな」
「レオタード姿最高だったぜ」
このことでも評判だった、そして新体操部の後はだ。
卓球部の練習試合で欠員が一人出たのでそちらの方を頼まれた、それでそちらも快諾してであった。
見事活躍したがここで言われた。
「卓球も出来るからな」
「フットワークも打ち方もよくて」
「体力もあるし」
「よかったな」
「ああ、山本さんが代打で出てくれて」
本当によかったとだ、卓球部の面々も喜んだ。その他の部活でも凛子は代打として活躍し評判だった。
だがある日だ、凛子のところに生徒会長が来て彼女にこう言った。
「山本さんいいかな」
「何でしょうか」
「実は最近書類仕事が多くて」
それでとだ、彼は言うのだった。
「それがあんまりにも多くなって生徒会だけでは」
「処理がですか」
「出来なくなってきたんだ」
もう顔に疲れが出ていた、疲れきっているとも言ってよかった。
「これがね」
「それでは」
「うん、よかったらね」
図書委員会や厚生委員会の仕事も出来ていてそちらでも評判の凛子に白羽の矢を立てたのだ、要するにそういうことなのだ。
「生徒会の仕事手伝ってくれるかな」
「私でよければ」
凛子は微笑んでこう答えた、そしてだった。
凛子は生徒会の溜まった書類仕事を手伝った、すると主に彼女が書類整理を行ってだ。
山の様な書類の決裁も処理も瞬く間に行った、この事態に生徒会長も唖然として言った。
「いや、まさかね」
「これだけの仕事がですか」
「一瞬で終わるなんて」
「まあこれ位なら」
「出来るんだ」
「まだ」
こう言うのだった。
「出来ます」
「それは凄いね。じゃあ生徒会は」
「いえ、それは」
生徒会に入ることは断った、そしてあらゆる部活もだった。
凛子は断った、彼女は常に代打専門だった。だが。
凛子は今住んでいる部屋に帰るとだ、そこにいた男にこう言った。
「今日は何もないですね」
「ああ、ないよ」
大柄でむさ苦しい中年男だ、傍にいるとそれだけで酒や煙草そして汗の匂いがしそうだ。そんな彼が凛子に言ったのだ。
「だから休んでいいよ」
「では今からお風呂に入って勉強をして」
「トレーニングは朝早くして」
「日課ですので」
「そうするんだね」
「はい、いつも通りです」
凛子はその男に不機嫌そうに答えた。
「そうします」
「料理あるからさ」
「カロリーと栄養を計算した」
「それ食べてね」
「わかりました、ただ」
「ただ?」
「お風呂とか絶対に覗かないで下さいね」
凛子は学校では誰にも見せない警戒する顔で男に言った。
「いや、俺ホモだから」
男は凛子に笑って返した。
「そんなことはしないから」
「その言葉信じられる程です」
「女の子は甘くないんだね」
「指一本でも触れたり覗いたりしたら」
それこそとだ、凛子は男に警戒を露わにさせてさらに言った。
「その時はすぐに携帯で司令と他の方々に連絡しますから」
「警務部にもだね」
「絶対にそうしますからね」
「厳しいねえ、凛子ちゃんは」
「結婚するまでは誰にもお肌を触られたくありません」
凛子は菱sの顔で言い切った。
「ですから」
「それでなんだ」
「はい、何があっても」
それこそと言うのだった。
「私に触れないで下さい」
「ホモにそう言うのもなあ」
「ホモでも誰でもです、同居するだけで」
「嫌なんだね」
「全く、結婚する人とだけしかしたらいけないのに」
まだ言う凛子だった、やはり必死に。
「どうして貴方と」
「だから仕事のパートナーだからね」
「それで貴方が女性に興味がない同性愛者だからですね」
「上も許可したんだよ」
「やれやれです、では」
「うん、御飯食べてね」
「お風呂に入って勉強して寝ます」
仕事がないからだ、そうすると言ってだった。
凛子は実際に着替えてから食事をはじめた、それから彼女の夜の日常を過ごしてベッドに入って一日を終えた。日常の彼女はこうしたものだった。
助っ人は多忙 完
2018・7・18
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