謎の素顔
 南朱雀、彼については多くの者がこう言う。
「ああ、そんな奴いるな」
「いつも隅っこでいる?」
「うちのバイト先にもいるけれど目立たないな」
「どうもこれといって」
「印象に残らないし」
「どういった奴かっていうと」
 それはだった。
「そんな人いる?」
「そんな感じだよな」
 彼を知る者、表の世界の者達はこう言うばかりだった。表の世界ではとかく彼は目立たない人物それも男だと思われていた。
 だが裏の世界ではだ、南朱雀と聞くと。
「あいつは何なんだ?」
「男か?女か?」
「わからないな」
「男だって言う奴がいるが」
「女だって言う奴もいるぞ」
「一体何者なんだ」
「会う奴によって言うことが違う」
 それでだ、温羅の世界ではこうも思われていた。
「同姓同名の別人か?」
「男女で一人ずついるんじゃないのか?」
「それで男か女か言われているんじゃないのか」
「そうじゃないのか?」
「外見も全然違うからな」
 こう話していた、しかもだ。
 彼若しくは彼女についてだ、温羅の世界の者達はこうも話した。
「あいつと一緒に仕事をして死んだ奴も多い」
「そしてあいつは絶対に生き残っている」
「おかしなことだ」
「あいつだけは絶対に生き残る」
「それも気付けばこっちが盾になる方向にいたりする」
「あいつは笑顔で何かと親切にしてくれるが」
 それで一緒に仕事をしている者もついつい気をよくして好意的になるがだ。
「それがな」
「どういうことだ」
「あいつには何かあるんじゃないか」
「おかしな奴だ」
「不気味と言うべきか」 
 こうしたことも言われていた、それで裏の世界では南朱雀については謎それに警戒が強まっていた。
 それで朱雀自身色々と感じていたがだ、それでもだった。
 朱雀自身は平気な顔でだ、隠れ家の一つで自分の執事に言っていた。
「誰が何を言おうとも」
「旦那様としましては」
「全く以てね」
 それこそと言うのだった。
「平気だよ」
「その時の目的さえ達成出来れば」
「それでね」
 まさにそれでというのだ。
「いいからね」
「では若し」
「私の秘密を知れば」
「私が知っている以上のことは」
 執事である自分のだ。
「その方は」
「その時はね」
 悪意に満ちた笑みでだ、朱雀は執事に答えた。
「いなくなってもらうよ」
「左様ですか」
「それは不都合だからね」
「旦那様にとって」
「私は誰にも知られるつもりはないよ」
 自分自身のこと、それをだ、
「絶対にね」
「左様ですか」
「私の正体は誰にもね」
 性別も本名も自分の本来の職業も全てというのだ。
「知られてはいけないからね」
「それ故に」
「誰にも何も言わず」
 そしてというのだ。
「これからも仕事をしていくよ」
「左様ですか」
「その為には何でもするしね、では」
「今宵もですね」
「仕事に行くよ」
「それでは」
「帰って来るよ、必ず」
 平気な、まるで表の世界で大学やアルバイトに行く時の様に言った。
「そして帰ればね」
「お祝いのシャンパンをですね」
「用意しておいてくれるかな」
「それでは」
 執事は自身の主にクールに頷いた、そしてだった。
 朱雀は裏の世界の腕利きだが裏の世界でも非常に評判の悪い三人の兄弟と共に仕事に出た、そうして帰って来たのは彼だけだった。朱雀は一人で帰ってから平然としてこう言った。
「惜しい人達だったよ」
「またあいつだけ生きて帰ったか」
「三兄弟を友達と言っていたが」
「その友達が死んでも平気だ」
「平気な顔でいるな」
「何処が友達なんだ」 
 このことを察して言うのだった。
「あいつにとって利用出来る相手が友達か」
「だとすれば余計に信頼出来ないな」
「あいつと仕事をすることが怖いな」
「全くだな」
「正体もわからないしな」 
 裏の世界ではこう思われていた、それでだった。
 裏の世界の者達は次第に朱雀から離れていった、しかし彼は巧言や金、色仕掛けを以てその都度「友人」達を作っていった。そうして仕事を成功させていった。だから彼はいつも多くの友人達がいる自分は幸せだと言っていた。そうして何時までも裏の世界で仕事を続けていった。世の中裏の世界でも騙される者が多いものだと彼を知る者達はぼやいたがそれで終わりだった。


謎の素顔   完


                    2018・7・18

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