理解可能
 #;*@%&と言われても読んでも何が何だかわからない、それでそのパソコンの持ち主も最初はこう彼女に言った。
「いや、それじゃあわからないから」
 何を言っているのか全くわからなかった、それでだ。
 彼女とパソコンでやり取りをするうちに彼女wこう名付けたのだ。
「ノイズにしたよ」
「それがその名前か」
「うん、そう名付けたよ」
 持ち主は通っている大学の友人にこう話した。
「とりあえずに」
「ノイズっていうとあれか」
 友人は持ち主にこう返した。
「何を言っているかわからないからか」
「そうなんだ、画面に出て来る顔は可愛いけれど」
 それでもと言うのだ。
「もう何を言っているのか」
「全くわからないからか」
「それでだよ」
 まさにと言うのだ。
「そう名付けたんだよ」
「そうか、しかしね」
「しかし?」
「彼女はそう君に言われてどう言ったんだい?」
「相変わらずだよ」
 持ち主は友人に肩を竦めさせてから答えた。
「もう記号を適当に書いた文章で返事をしてね」
「わからないんだ」
「そうなんだ、何を言いたいのか」
「やれやれだね、しかし」
「しかし?」
「ほんの少しずつだけれど」
 それでもと言うのだった。
「何か日本語らしき言葉が出来てきたよ」
「日本語なんだ」
「英語もあるかな、しかしね」
「記号以外にも出て来たんだ」
「そんな感じだよ」
「そうか、しかしよくネットアイドルとかいうけれど」
 友人はここでだ、持ち主にこうも言った。
「実際にね」
「そうした存在がパソコンに出て来るとかだね」
「AIのバグかな」
「そうかな、まあそれはそれでって思って」
「そのままやり取りを続けているんだ」
「そうなんだ、しかしね」
「やり取りがだね」
「全くわからないままだよ」
 日本語らしき言葉が出てきだしてもだ、それでもというのだ。
「何時かわかる言葉書き込まれるかな」
「そのことに期待かな」
「何か遠い期待みたいだね」
「僕もそう思うよ」
 こうした話を友人としたその日もだった、持ち主は彼女、ノイズと名付けたパソコンの中の少女とキーボードで文字を入力して会話を試みた。だが。
「9kanz;@:mahiahe」
「いや、そう書かれてもわからないから」
 持ち主はこう返すしかなかった。
「とてもね」
「k;-93dm;azna;@」
 返事は相変わらずだった、とかくだ。
 ノイズとはこうしたやり取りばかりだった、それでもだ。
 彼はやり取りを続けた、そして大学で友人に話した。
「昨日は全くだったよ」
「会話をしてもなんだ」
「全くだよ」
「わからなかったんだ」
「日本語らしき言葉もね」
 それもというのだ。
「なくてね」
「やり取りもなんだ」
「わからなかったよ」
 そうだったというのだ。
「これはね」
「そうだったんだね」
「ひょっとして何か古代の言葉かな」
 持ち主はここでこうも考えた。
「ひょっとして」
「古代のかい?」
「シュメールとかインカとか」
「それを記号で出しているのかい?」
「そうかな」
「どうかな。しかし記号をだね」
「うん、相変わらずね」
 それをというのだ。
「出してくるだけで」
「文章はおろか言葉にも」
「なっていないんだ」
「そして昨日は日本語らしき言葉もだね」
「なかったよ、漢字とか片仮名、平仮名も」
 こうしたものが日本語らしきものなのだ。
「なかったよ」
「それでも君に応えてくるんだね」
「ということは僕の言葉はわかって」
「会話をしようとしているんだね」
「そのことはわかるんだ」
 持ち主にしてもだ。
「それはね。けれどね」
「記号ばかりの返事で」
「わからないよ、というかそもそも名前の表記も」
 これもというのだ。
「もうわからなくてノイズって名付けた位だから」
「その言葉の意味がわかりたいところだね」
「全くだよ、本当に古代の言葉をね」
 自分達が全く知らないそれをといのだ。
「書きこんでいるのかな」
「その可能性もあるかな」
「その中でも全く未知の文明の言語とか」
 持ち主はこうも考えた。
「それかな」
「その可能性もあるんだね」
「若しくは本当にね」
「ただのノイズに過ぎないか」
「まあとにかく僕達にわかるか」
「それはだね」
「困難、というか」
「不可能だね」
「そう言っていいものだろうね」
 こう友人に言うのだった。
「結局のところは」
「そうだね」
「そう、まあそれでもね」
「彼女とはだね」
「会話は続けていくよ」
 このことはと言うのだった。
「これからもね」
「それで何かわかればいいね」
「そうだね」
 二人でこうした話をしてだ、そのうえで。
 持ち主はノイズと会話を続けた、そうしているうちにだった。ノイズは持ち主にパソコンの画面からこう文字を出してきた。
「マスター」
「マスター?」
「そう、マスター」
 こう言うのだった。
「マスター」
「マスターっていうと」
 すぐにだ、持ち主にもわかった。
「僕のことかな」
「・・・・・・・・・」
 ノイズは今度は文字を出さなかった、だが。
 こくりと頷いた、そしてだった。
 暫く手話も出した、持ち主は手話はわからなかったが。
 このやり取りをだ、友人に話すと友人は驚いて言った。
「あれっ、それじゃあ」
「うん、やり取りがね」
「出来る様になれるかもね」
「まさか彼女が手話を覚えるなんてね」
「パソコンの中で学んだのかな」
「パソコンの世界に入ってね」
「あの中は学べるものの宝庫だからね」
 検索すればそれこそだ、興味のあるものを幾らでも学べるというのだ。
「だからだね」
「手話も覚えたのかな」
「そうかもね」
「じゃあ君も覚えて」
 友人は持ち主に話した。
「彼女とそれでやり取りをするといいよ」
「その通りだね」
「そしてね」
 友人はさらに話した。
「彼女君をマスターと言ったね」
「うん、そのことは正直驚いたよ」
「そうだね、遂に言葉をだね」
「出したんだよ」
 例え一言でもだ、そうしたというのだ。
「凄いことにね」
「それは凄いね」
「意味がわかる言葉もね」
「遂に出したんだね」
「そうだよ、ひょっとしたら」
 それこそとだ、持ち主は友人に希望に満ちた目で話した。
「これから徐々にでもね」
「君とだね」
「やり取りが出来るかも知れない」
「そうなるかもね、それじゃあ」
「うん、今日もね」
「彼女と意志の疎通を図っていくね」
「そうするよ、勿論手話も覚えて」
 そしてと言うのだった。
「彼女と話していくよ」
「応援させてもらうよ」
 笑顔でだった、持ち主は友人に話した。そして手話の本を買って読むのだった。


理解可能   完


                 2018・7・18

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