苦しみと救い
伊崎みなみは学園の中で一人しか気付いていないことだが彼女が通っている超難関中学のスクールカーストのトップにいる、生徒会書記として生徒会長を支えつつ部活でもバスケ部にいる至って普通の成績のいい学生だが。
裏であれやこれやと策略を巡らせて学園を動かしている、そうして学園からいじめをなくすことに務めている。
つもりだった、だが彼女はよくその学園で彼女の考えと実態に一人だけ気付いている理事長にこう言われていた。
「子供は所詮子供なんだよ」
「だからですか」
「ああ、わかる奴にはわかるんだよ」
こうみなみ自身に言うのだった。一九〇近い長身と端整なマスクに整えられた黒髪と高級なスーツのすらりとした三十位の男だ。
「すぐにな」
「理事長にはですか」
「ああ、俺にはわかるんだよ」
みなみにいつもこう言っていた。
「それも簡単にな」
「言いますね、じゃあこの学園の実態がわかっていますか」
「わかってるさ、だからここにいるんだよ」
理事長は自分を睨んで言って来るみなみに平然と返した。
「理事長の席にな」
「前の理事長さんは叔父さんでしたね」
「あの馬鹿叔父には引退してもらってな」
実際は蹴落としている、理事長は自分の叔父だった前の理事長のスキャンダルを掴んでそれをタテに無理矢理引退させて後釜に座ったのだ。
「今は俺がここにいる、そしてな」
「学園をですか」
「少しでもよくしようと思っているんだよ」
「この学園は腐っています」
みなみは誰にも両親にも可愛がっている妹にも見せない顔で理事長に言った。
「何mかもがです」
「いじめか」
「はい、姉さんはこの学校に殺されたんですよ」
怒りが顔に出ていた、歯を食いしばり目は怒りに燃えていて顔は憎悪で歪んでいる。そこには鬼の心があった。
「いじめで」
「七年前の事件だな」
「理事長もご存知ですね」
「知らない筈がないだろ」
これが理事長の返事だった。
「俺はこの学園の過去で知らないことはないんだよ」
「だったら」
「それで御前はこの学園に入ったんだな」
「そうです、姉さんをいじめた連中の身元を突き止めて」
それは既に行いいじめを行った者全員の名前と住所それに電話番号を把握して事件の全貌と関係者の個人情報をネットでそうしたことを行うサイトに匿名で知らせてネットに拡散して犯人達を事件の全貌に怒り狂ったネットユーザーの攻撃に晒して果たしている。
「そして学園のいじめもです」
「なくしているっていうんだな」
「そうです、私はいいことをしているんです」
こう言うのだった。
「姉さんを殺したいじめをなくす為に」
「立派なものだな」
理事長は自分の正義を語るみなみにシニカルな声で応えた。
「本当に」
「それは嫌味ですよね」
「そうさ、正義ってのは残酷で一方的なものなんだよ」
璃事情はみなみに冷めた目で返した。
「ちょっと間違えると独善になって独善はすぐに悪になるんだよ」
「私が悪いことをしているっていうんですか」
「あのな、御前が個人情報ネットでばらまいた御前の姉さんをいじめてた連中どうなったか知ってるのか」
理事長はみなみに冷めた目のまま問うた。
「全員家にまで馬鹿が殺到して家を荒らされて親は失業して一家離散したり自分も失業や退学になっていったんだよ」
「自業自得ですよ」
「そうだな、いじめには報いがあるんだよ」
それは事実だとだ、理事長も認めた。
「因果応報ってな、しかし家族まで巻き込んだらな」
「駄目だっていうんですか」
「御前は姉さんを殺した連中と関係のない奴まで不幸のどん底に落としたんだぞ。一家離散した家族もあったし引っ越したり挙句には一家心中図った家族もいたんだ」
「けれど誰も死ななかったですよね」
「死にかけたんだよ、いじめてた連中は今でも個人情報ネットで流れてるぞ」
そうしたホームページやブログが存在しているのだ。
「お天道様の下歩けなくなってるんだぞ、一生な」
「あの人達の家族もですか」
「人殺しの親兄弟だってな、本人はよくても家族に罪はないだろ。それにな」
理事長はみなみにさらに言った。
「御前学園でいじめをしていた連中虱潰しに探していってるよな」
「いじめは許せないですから」
「それでどうだ?いじめしていた連中に何をしている」
学校の情報や人間関係を操ってだ、みなみが彼等を追い詰めてスクールカーストの最下層に追いやって報いを受けさせていることを言っているのだ。
「御前それ同じだろ」
「同じ?」
「御前の姉さんを殺した連中とな」
「私があの連中と同じ・・・・・・!」
そう言われてだ、みなみは。
その顔をさらに怒らせた、そして目に憎悪の炎を宿らせて全身に怒りのオーラの炎を燃え上がらせて理事長に言った。
「言っていいことと悪いことがありますよ!」
「ああ、そうか」
「そうかですって!」
「幾らでも怒れ、しかし御前が何をしてもな」
理事長は氷だった、みなみの炎に対して。
その氷の態度でだ、みなみに言うのだった。
「俺に何か出来ると思うなよ」
「理事長だからですか」
「この地位がない只のおっさんでも御前には負けないんだよ」
実力が違う、そうだというのだ。
「確かに社会ってのは格差があるさ、人間ってのはそれがないと秩序を保てないのはやっぱり事実なんだよ」
「じゃあ私の言うことは」
「正しい面もあるさ、しかしな」
「私がですか」
「そうさ、御前の姉さんをいじめていた連中と同じになってるんだよ」
またこう言うのだった。
「むしろもっと酷い、自分がやるんじゃなくてシステム作って他の連中にやらせてるんだからな」
「だから私が間違っているっていうんですか!」
「ああ、間違ってるよ」
その通りという返事だった。
「はっきり言うがな、御前はずっと姉さんのことを想ってるが」
「とてもいい姉さんでした」
みなみにとってはだ、本当に最高の姉であった。
「頭がよくて優しくて」
「凄くいい人だったんだな」
「その姉さんですから」
「そうだよな、しかしな」
「それでもですか」
「今の御前を見たら姉さんがどう思うか考えてないだろ」
「仇を取ってくれて学園を正しくしてくれて喜んでいます」
「そんな筈ないだろ」
即座にだ、理事長はみなみに返した。
「絶対に」
「どうしてそう言えるんですか」
「御前の今の顔、鏡で見たらわかるさ」
これが理事長の返事だった。
「鬼みたいになってるぞ、まともな人間が自分の妹がそんな顔になっていて嬉しい筈ないだろ」
「鬼ですか」
「そうだよ、歪みきった鬼だよ」
それが今のみなみだと言うのだ。
「その顔、御前自分で見る時があるがな」
「そんな時は来ないです」
「いいや、絶対に来る」
理事長はまた冷たく言い返した。
「そして御前は御前を知るからな」
「その時にですか」
「自分がどれだけ酷くて醜い奴かな、あとな」
会話は完全に理事長のペースになっていた。
「さっき俺は社会に格差は必要だって言ったな」
「はい、確かに」
「それでもな、出来るだけそれは緩やかな方がいいんだよ」
こう言うのだった。
「誰でも普通に上下してな、そして最下層の奴だってそれなりにだよ」
「いじめをしていた連中でも」
「自殺に追い込まない限りは救いがあるべきなんだよ」
これが理事長の言葉だった。
「ましていじめはだよ」
「それはですか」
「御前みたいに報いでやらせても同じだろ」
「違います、あれはそもそも」
「いじめじゃないっていうんだな」
「報いです、自業自得の」
「相手がそう言うと思うか?」
今度はこう言った理事長だった。
「そんな筈ないだろ」
「悪事に報いがあるのは当然です」
「そうか、じゃあ御前も報いがあるからな」
「正しいことをしていてもですか」
「言ったな、正義はすぐに独善になってそこから悪になるんだよ」
「何度も何度も私の言うことを!」
またみなみは怒った、目は完全に吊り上がり完全に鬼のものになっていた。
「許さない、許さない!」
「そうか、じゃあ精々俺も憎め」
理事長はその憎悪を闘牛士の様にかわした。
「御前位じゃ俺に何も出来ないからな」
「この学園の間違いを正せなくてもですか!」
「今から正すさ、御前の誤りを正してな」
スクールカーストの頂点にいる彼女をとだ、そしてだった。
理事長はすぐに動いた、理事長の権限を以て信頼出来る教師達既に彼が無能な教師達を免職させて外部から引き入れた彼等に生徒の悩みを何でも話させて話せない生徒には理事長室の前に悩みを打ち明ける相談箱を置き。
自分も学園の隅から隅まで歩いて情報を収集し自分も相談を受けたり部活や委員会の問題を解決しどうしようもない生徒には厳罰も下した、そうして。
みなみのスクールカーストを壊し学園に新たな秩序穏やかでしかもみなみが裏で操るのではなく理事長が堂々と生徒達と向かい合うものにした。そうしてだった。
みなみにだ、こう言ったのだった。
「文句があるか?」
「こんなことをしても」
「実際学校はずっとよくなったがな」
「すぐに問題が起こります、そして」
「問題ってのは何時でも起こるんだよ」
理事長は今も冷静に返した。
「その都度対処していくものなんだよ」
「芽を事前に摘むべきです」
「そうだよな、しかしそれをしてもな」
「問題は起こるっていうんですか」
「芽を摘み忘れてな」
その結果としてというのだ。
「そうなるんだよ、今の問題は御前だったんだよ」
「まだそう言うんですか」
「これで御前の歪んだスクールカーストはなくなったぞ」
「くっ・・・・・・!」
「まだやるか?受けて立って勝ってやるぞ」
「こんなやり方私は認めません」
「そうだろうな、しかし御前の今の顔はな」
ここでまた彼女の顔を言った。
「相変わらず鬼の顔だな」
「それがどうかしたんですか」
「その顔本当に鏡で見ろ、見られたものじゃないからな」
そこまで醜いものだというのだ。
「あと本当に御前も報いがあること覚悟しとけよ」
「そんなことは絶対にないです」
「その言葉覚えておけよ」
そして実際にその通りになった、みなみはこの後大変なことになり一度何もかもを失う様なことになった、そうして。
そこから両親や妹、彼女の傍にいた友人達に支えられて復活した。そうしてだった。
それから理事長のことを知った、理事長は姉が自殺した時たまたま学園に教育研修としていたのだ。学園の経営者一族としてやがて学園に携わる者として。
そしてそこから学園の理事長になって学園の誤りを正すべく動く様になったことを。そのことを知ってみなみは愕然とした。そしてそこから彼女の黒いものは消えていったという。憎悪に歪んだそれが。
苦しみと救い 完
2018・7・22
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