NGの仕事
 如月夕也は自分をこの世界に誘った日向と共に相鳥ユニットのメンバーとして活動している。歌もダンスも素晴らしくまた知識派としてもクイズ番組で定評がありタレントとしての評価はかなり高かった。
 その為必然的に仕事も多かった、しかし。
 その彼にだ、マネージャーはこの日この仕事の話を持ってきた。
「今度ミステリ―番組の出演が来たよ」
「ミステリー?」
「そう、ミステリーのだよ」
 マネージャーは彼に明るく話した、見れば日向も一緒だ。
「依頼が来ているんだ」
「ミステリーっていいますと」
 如月はその眉を曇らせてマネージャーに尋ねた。
「どんな感じですか?」
「ああ、宇宙人とかUMAとかね」
「UMAっていうとネッシーですか」
「うん、ネッシーも出るし」
 マネージャーは怪訝な顔で自分に尋ねた如月に答えた。
「あとタキタロウもね」
「あのお魚ですか」
「東北の方にいるね」
「そうですか、それならです」
 如月はマネージャーの話を聞いてほっとした顔になった、そのうえで彼に対してあらためて言った。
「宜しくお願いします」
「俺もです」
 これまで黙っていた日向も言ってきた、見れば茶髪で小柄で如月とは違うタイプの美少年である。顔立ちは溌剌としている。
「お願いします」
「二人共それぞれのよさで番組盛り上げていってね」
 マネージャーは日向にも言った、そうしてだった。
 如月は日向と共にその番組に明るく出た、その時も如月の知識は光り番組置かれ自身もよくした。だが。
 収録の後でだ、マネージャーはスタジオを出て車で移動する時に運転をしつつ後部座席に日向と共にいる如月に尋ねた。
「あの、気になったことがあるけれど」
「何ですか?」
「如月君最初にこのお仕事の話持って来た時警戒しなかった?」
「そのことですか」
「あっ、自分で認めるんだ」
 マネージャーは如月の今の言葉からそのことを察した。
「そうなんだね」
「ええ、実は」
「ミステリー苦手なんだ」
「そうじゃないです」
「あれっ、けれど今」
「あの、別に宇宙人とかはいいんです」
 そしてUMAはというのだ。
「そうしたものは。あとは」
「あとは?」
「妖怪とか幽霊はいいんですよ」
 こうしたものもというのだ。
「俺的には」
「じゃあ問題ないんだ」
「まあミステリーは」
「じゃあ何が問題だったのかな」
「まあそれは」
 そこは誤魔化した如月だった、そしてここで日向が車窓から見えるガストの話をしたので三人はそこに話題を移した。
 だが如月が何を苦手なのか、日向もマネージャーもすぐにわかった。
 ある日のことだ、二人にファンのプレゼントである漫画が贈られていた、そこには二人にも読んで欲しいと手紙が添えられていた。
 まず日向がその漫画を見て言った。
「この漫画今度アニメ化するんだよ」
「アニメになるのか」
「ああ、月刊誌で連載しててな」
 日向は如月にその漫画、単行本のそれを見つつ如月に話した。
「話題になっててな」
「今度アニメになるんだな」
「声優さんも決まってるぜ」
 それぞれのキャラを当てる声優さん達もというのだ。
「人気声優が結構出てるぜ」
「絵柄は奇麗だな、それに」
 如月は今度は表紙を見て言った。
「タイトルも甘い感じだな」
「御前お菓子好きだしな」
「ああ、恋愛ものか?」
「そうじゃないのか?」
 日向もこう返した。
「俺この作品読んだことないけれどな」
「恋愛ものか」
「ああ、ただな」
 日向も表紙を見て述べた。
「最近男同士でもな」
「恋愛あるのか?」
「そんな漫画やアニメもあってな」
「この漫画見るとな」
 如月はその可愛らしい漫画の表紙をさらに見て日向に話した、事務所の中で今は和気藹々とした感じの中にいる。
「女の子同士か」
「そうみたいだな」
「可愛い女子高生と小学生位の娘か」
「これやばいんじゃないかな」
 マネージャーがここで言ってきた。
「ひょっとして」
「何でですか?」
「何で危ないんですか?」
「だって高校生と小学生だよ」
 マネージャーが言うのは年齢の話だった。
「それならね」
「あっ、年齢的にですか」
「危ないですか」
「小学生に手を出したら」
 どうなるかとだ、マネージャーは言うのだった。
「犯罪だよ、リアルでね」
「別にそうしたことにないと」
「いいんじゃないですか?」
 二人はマネージャーのその言葉に冷静に述べた。
「そうならないと」
「別に」
「そうかな」
「ええ、それに女の子同士なら」
「まあそういうこともないかと」
「男女ならともかく」
「男同士でもいい加減になるみたいだし」
「そうなのかな、まあとにかくね」
 さらに言うマネージャーだった。
「小学生はどうかって思ったけれどね」
「別にハードでないといいと思いますよ」
「そうした漫画みたいじゃないと」
「それもそうかな、まあとにかく可愛い絵柄だね」
 マネージャーもこのことを認めた、確かに絵柄はかなり可愛く美少女漫画と言っても充分以上に通じる。
「じゃあ読んでみる?」
「はい、そうしましょう」
「面白そうですしね」
 こうしてだ、二人はその漫画を読みはじめた。最初に如月が読んだが。
 如月は読み終わってだ、即座にだった。
 絶望を味わった顔になってだ、こう言った。
「最悪だ、読むんじゃなかった」
「えっ、どうしたんだよ」
「何があったのかな」
「この漫画読まない方がいいからな」
 こう言ってだ、如月はその漫画を日向にそそくさと渡した、それで日向は怪訝な顔になってであった。
 彼も読んだ、そして読み終わってから言った。
「これ凄いな」
「あれっ、この漫画は」
 マネージャーは自分のスマホを使って検索しつつ言った。
「恋愛漫画じゃないね」
「これホラー漫画ですよ」
 日向も言ってきた。
「幽霊とか妖怪出ないですけれど」
「おかしな人達が出ている」
「サイコだね」
 どういったホラーかとだ、マネージャーも言った。
「これは」
「はい、そうですよね」
「こうしたホラーも最近あるんだよね」
「妖怪とか幽霊出さなくてもですね」
「うん、ゾンビもあるけれど」
 ゾンビものは定番と言っていい。
「こうしたのもあってね」
「殺人鬼とかですか」
「頭のおかしなね」
「こういうのが一番怖いですね」
 実際にとだ、日向は言った。
「というかです」
「読むんじゃなかったってだね」
「正直思いました」
「俺いいですから」
 如月が言ってきた、見ればその漫画から視線を必死に外している。
「こういうのは」
「ああ、御前ホラーでこういうのは苦手か」
「そうだったんだね」
「はい、もう苦手で」
 それでというのだ。
「こうしたサイコ殺人鬼とかの話絶対無理です」
「だからか」
「そうなったんだね」
「ほら、妖怪とか幽霊ってコミカルだったりするじゃないですか」
「特に妖怪はな」
「そうだよね」
「実際にいても別に怖いと思わないです」
 彼にしてもというのだ。
「そういうのは。けれどそうした連中マジでいますよね」
「残念だけれどね」
 マネージャーは如月にこの事実を話した。
「こうした話本当にあるよ」
「たまたま会った人をぐちゃぐちゃに殺したり」
「そうしたおかしな人がいるのも世の中だからね」
「俺そういうの駄目なんで」
「現実の人間の狂気はだね」
「読んでると吐き気と寒気がします」
 そこまで駄目だというのだ。
「ですから」
「駄目なんだね」
「はい、ですから」
「この漫画はだね」
「駄目です、読んで後悔しています」
「実際に殺してるしな」
 日向も読んでいるからこそこう言えた。
「洒落になってないな」
「ああ、しかもバラバラにしてるよな」
「そうとしか思えないな」
 その描写ではだ。
「こうした狂った人間は駄目か」
「俺はそうなんだよ」
「わかったよ、じゃあこれからこうした話が関わる仕事にはね」
 マネージャーもすぐに言った。
「如月君には紹介しないから」
「それでお願いします」
「ドラマでも何でもね」
「冗談抜きでそういうの駄目なんで」
 如月はまた言った、そしてだった。
 彼は二度とその漫画を読まなかったしそうした系列の仕事はドラマでも何でも受けなかった。だが妖怪や幽霊、超常現象に宇宙人やUMAは平気で。
 そちらの仕事では豊富な知識も活かして活躍出来た、それで問題なくタレントとしての人気も上がっていった。


NGの仕事   完


                  2018・7・23

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