寝ると何でも
ねむきの趣味は寝ることだ、それでいつも友人達ににこにことして言うのだった。
「やっぱり人間寝ないとね」
「駄目だっていうんだな」
「寝ていないと」
「そうしていないとか」
「そうだよ、寝るとね」
人間の欲求の中に絶対にあるものの一つであるこれを果たすと、というのだ。
「頭も休められるし体力も回復するし」
「嫌なことも忘れられるしか」
「起きていることからも解放されて」
「こんないいことはないよ、寝ると」
それこそというのだ。
「これ以上はいいことはないからな」
「だからか」
「それでか」
「御前はいつも寝ているんだな」
「寝るのが趣味なんだな」
「そうだよ、気楽にしてすぐに寝たら」
それこそというのだ。
「起きた時最高に幸せだからね」
「それでいつも寝てるんだな」
「暇さえあれば」
「そうしているんだな」
「もう寝不足なんかね。想像しただけで」
ねむきが経験したことのないことだ、彼は生まれてからずっとよく寝ていてそれでだったのである。
「恐ろしいよ」
「いや、寝不足の経験ないのか?」
「それはかなり凄いぞ」
「毎日それだけ寝ているってことか」
「寝不足感じたことがない位に」
「そうだよ、何でも生まれた時からよく寝る子で」
このことは彼の両親にも言われていることだ。
「幼稚園の時も小学生の時もそうで」
「それで今もか」
「今もよく寝るんだな」
「そうだよ。童話で眠れる森の美女ってあるけれど」
童話の中でもとりわけ有名なものの一つであろう、アニメにもなっていてそちらでも有名になっている。
「ああしてね」
「ずっと寝ていたいか」
「そこまで寝たいんだな」
「そうだよ、もう一生寝られるなら」
それこそ死ぬまでとだ、ねむきは彼独特のほわんとした和やかな感じの顔と口調で友人達に対して話した。
「本当に幸せだよね」
「本当に寝るの好きだな」
「何処まで寝るのが好きなんだ」
「幾ら何でも好き過ぎるだろ」
「確かに寝るのは気持ちよくてもな」
友人達はねむきの言葉に呆れるばかりだった、だが彼はあくまで寝ることを趣味にしていてとかくよく寝ていた。
それでだ、夏の暑い時もだ。
家や移動の際の電車やバスの中でもよく寝ていた、それでだ。
暑さに参る者が多い中でも彼はいつも元気だった、それで塾の夏期講習から温和かつ健康的な感じで帰って来た彼に夏バテが顔に出ている母が言った。
「あんたいつも元気ね」
「それがどうかしたの?」
「やっぱりあれ?」
親だけあって彼のことをよく知っていて言うのだった。
「いつもよく寝てるからなの」
「そうだと思うよ。寝ているとね」
「頭も身体も休められて」
「気力も体力も回復するからね」
自分から言うのだった。
「だからね」
「この夏でも元気なのね」
「そうだと思うよ、僕も」
「そうなのね」
「お母さんいつもお昼とか夜どうしているの?」
「夜は寝ているけれど」
流石にそうしているとだ、母もねむきに答えた。
「けれどお昼は」
「この暑い中でなの」
「家事をしてそうしていない時は」
ねむきが寝ている様なその時はというのだ。
「ドラマ観たりしているわ」
「寝ていないの」
「ええ、ちゃんと食べる様にはしていても」
このことは気をつけている、夏でもしっかりと食べる様にして家族にも自分にも健康にいいものを出している。
「そうしているけれど」
「寝てないよね」
「最近夜も暑くて中々寝られなくて」
寝苦しい、そうだというのだ。
「それでお昼はね」
「それよくないから」
すぐにだ、ねむきは母に言った。
「そんな時はお昼にもね」
「寝ないといけないの」
「テレビ観るよりもね」
「そうなのね」
「だってテレビ観なくても死なないけれど」
それは確かにだ、テレビを全く観なくても体力に関係しない。
「寝ないとね」
「死ぬっていうのね」
「だからね」
それでというのだ。
「夏バテにならない為にも」
「寝ないといけないっていうのね」
「お昼も寝たら随分と違うよ」
「あんたみたいになのね」
「そうだよ、だから寝ようよ」
「そうね。じゃあそうしてみるわ」
母は息子の言葉に頷いた、そしてだった。
昼寝をする様にした、すると数日でだ。
夏バテはかなりましになった、それで母は息子に言った。
「お昼寝する様になって随分変わったわ」
「そうだよね」
「ええ、夏バテがね」
問題のそれがというのだ。
「随分楽になったわ」
「そうでしょ、夏バテにもね」
「寝ることなのね」
「食べることも大事だけれど」
それだけでなくというのだ。
「寝ることもやっぱり大事だよ」
「その通りね、いつも寝てばかりって思っていたけれど」
実際にその通りだ、ねむきはとにかく寝てばかりだ、
「その寝ることもいいのね」
「だから僕いつも元気なんだよ」
「そうね。じゃあね」
「これからはだね」
「夏の暑い時はテレビを観ないで」
「寝るんだね」
「そうするわ。考えてみればテレビの番組って」
最近のそちらについてもだ、母は思って言った。
「正直全く面白くないし」
「そうなんだ」
「何かコメンテーターや司会の人が適当なことばかり言って」
思えばそうだった、昨今のテレビ番組は。
「何の為にもならないしね」
「しかも面白くないから」
「スマホで情報見ればすぐだし」
所謂奥様同士の井戸端会議の話題もそれでネタを仕入れられるというのだ、テレビでチェックしなくても。
「それじゃあね」
「もうテレビよりもだね」
「これからはあんたみたいに寝るわ」
「それがいいよ。じゃあ僕今からね」
「今日もお昼寝するのね」
「ゆっくり寝て」
そしてというのだ。
「楽しむよ」
「寝るのが一番ってことね」
「ええ、そうよ」
二人で話してだ、そうしてだった。
ねむきはこの日も寝た、その寝顔は実に気持ちよさそうで楽し気なものだった。
寝ると何でも 完
2018・7・23
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