ブルーベリーへのお礼
瞳ねえさんの本名はデルタという、元は可愛らしい少女だったが村が焼かれた悲劇に巻き込まれホムンクルスとなり。
そしてその左目は幾つも重なってあるという不気味なものになり右の唇には塗った跡が残った。そうした実に不気味な姿になった。
だがその人柄は愛嬌があり親切でだ、姿からは想像も出来ないまでに清らかな心の持ち主のままだった。
それで彼の外見を怖がる者も多かったが慕う者も多かった、わかる者はわかるということだった。それで街の外れに暮らしていても子供や生きもの達そして心ある人達にはよくしてもらっていた。その彼女の話を聞いてだ。
天空の神々は興味を持った、それで彼等は天界で話をしていた。
「あのデルタという娘だが」
「はい、かつては人間でしたが」
「今はホムンクルスになっていますね」
「村が焼かれる悲劇に巻き込まれ」
「そこで家族も失い」
「自身は死にそうになり」
ホムンクルスになってというのだ。
「あの様な姿になった」
「そうなってしまいましたね」
「ですがそれでもです」
「あの様にです」
「清らかな心のままです」
「人に優しくしています」
天界に集う神々は天界の主神に答えた。
「あの姿故に迫害されることも多いですが」
「ですがそれでもです」
「あの様にです」
「優しい心のままです」
「清らかなままです」
「彼女は救われるべきではないか」
主神はここでこう言った。
「そう思わないか」
「はい、確かに」
「あれだけのことになりましたが心は清らかなままです」
「迫害も多く受けて来たのに」
「心は清らかなまま」
「それならば」
神々も言う、そしてだった。
主神は断を下した、彼は自ら言った。
「余自ら行ってだ」
「そしてですか」
「そのうえで、ですか」
「あの娘に恩恵を与える」
「そうされますか」
「救いをな、ではな」
そのことを決めてだ、主神はすぐにだった。
自分が一番信頼する使いの神にだ、こう声をかけた。
「供を頼めるか」
「喜んで」
使いの神は主神に応えた。
「そうさせてもらいます」
「そうか」
「はい、そして」
「そしてだな」
「二人で彼女に恩恵を与えましょう、ですが」
「その前にだな」
「我々で確かめる必要があります」
使いの神は主神にこうも言った。
「我々自身が」
「そうだな、ここで見てもわかるが」
「それだけでは足りないかと」
「我々自身があの娘の前に出てな」
「そしてです」
「娘の真を傍で見てな」
「そのうえで決めるべきです」
こう主神に言うのだった。
「この度は」
「その通りだ」
主神は使いの神の言葉をよしとして頷いた。
「ではな」
「それならばですね」
「今より我等があの娘の前に行くが」
「この姿のままでは行きませんね」
「姿を変えていこう」
「そうしましょう」
使いの神も頷いてだ、こうしてだった。
二柱の神々は姿を変えてそのうえでデルタのところに赴くことになった。そしてある日のことだった。
街の片隅でジャム職人そして花屋として暮らしている彼女の店にみすぼらしい、物乞いの様な姿の旅人が二人来た。しかもだ。
その旅人達の顔は腐り髪の毛も乱れていた、街の人々はフードに隠れているが見えるその姿に眉を顰めさせた。
「おい、疫病か?」
「そうじゃないのか?」
「身体が腐っているぞ」
「あの旅人達やばいぞ」
「近寄らない方がいいな」
「そうだな」
街の者達はこう言って旅人達を避けた、そしてその二人は。
デルタの店に入った、するとデルタは二人に笑顔で言った。
「何か御用でしょうか」
「はい、実は」
「我等は旅の者なのですが」
二人はデルタに弱々しい声で話した。
「旅の途中で病にかかり」
「そして金もなくです」
その弱々しい声で話すのだった。
「恵みを頂きたいと思い」
「この街に来たのですが」
「お恵みを下さい」
「何か頂けるでしょうか」
「はい、お身体が悪いなら」
それならとだ、デルタはすぐにだった。
店にあるものからすぐにある薬草を出して二人に渡した。
「これをどうぞ」
「薬草ですか」
「これをですか」
「お金はいりません」
旅人達ににこりと笑って言うのだった。
「ですから」
「この薬草で、ですか」
「この病をですか」
「治して下さい、その病は私も知っています」
このことも言うデルタだった。
「それでこのお店にも用意しています」
「ですがこれは」
「お店の品では」
「それを渡すなどとは」
「お金がなくとも」
「こうした時はお互い様です」
デルタは旅人達に温和な笑顔で応えた。
「ですから」
「ここはか」
「いいのか」
「この薬草で治して下さい、そして」
デルタは二人の旅人に薬草だけでなくだ、あるものも差し出した。それは一体何かというと。
ブルーベリー、彼女の大好物のそれだった。それも旅人達に出してそうして彼等にこう言ったのだった。
「こちらは栄養に」
「ブルーベリー、それもか」
「我々に渡してくれるか」
「はい、とても栄養があってしかも美味しいですよ」
だからだというのだ。
「ですから」
「ブルーベリーもくれるのか」
「そうしてくれるのか」
「どうぞ」
ブルーベリーも笑顔で差し出してくれた、そしてだった。
旅人達はデルタから薬草だけでなくブルーベリーも受け取った。するとデルタに深々と頭を下げてだった。
礼を述べた、そうして彼等はデルタにあるものを出した。それはというと。
「お薬ですか」
「薬草とブルーベリーのお礼だ」
「我々が今持っている全てだ」
「これを渡したい」
「この二つのお礼にな」
「お礼はいいのですが」
デルタはその二人に申し訳なさそうに応えた。
「それでもですか」
「貰ってくれるか」
「そうしてくれるか」
「はい、何かです」
どうにもとだ、デルタは旅人達の雰囲気からだ。
断れないものを感じた、それでこう応えたのだった。
「受け取らなくては」
「是非そうして欲しい」
「頼む」
旅人達の声は強かった、それでだった。
デルタはその申し出を受け取った、すると旅人達は彼女に言った。
「では後で飲んでくれ」
「きっとそなたを助けてくれる」
「ではな」
「我等はこれで去ろう」
旅人達はデルタに感謝しつつその場を後にした、そしてだった。
彼等はデルタがいる街を後にした、そのうえで。
彼等は街を出るとすぐに彼等が本来いるべき場所に戻った。そうしてすぐに彼等の本来の姿に戻るとだった。
主神は使いの神にこう言った。
「ここから見た通りだったな」
「はい、あの娘はです」
使いの神もこう主神に応えた。
「美しい心の持ち主です」
「そうだったな」
「はい、ですから」
「人に戻る資格はある」
「左様ですね」
「では今からだ」
主神は使いの神にあらためて述べた。
「あの娘が人間に戻る様子を観よう」
「ここからですね」
「他の神々を集めてな」
「では」
「人間に戻るがしかしだ」
「はい、あの娘の記憶はですね」
「これからだ。そして記憶が戻った時」
それからのこともだ、主神は言うのだった。
「あの娘はもう一度歩くことが出来る」
「そうですね、では」
「そのことも見守ろう」
「それでは」
二人で話してだ、そのうえで。
主神は天空の神々を集めてデルタを見た、すると彼等が与えた薬を飲んだ彼女は。
人間に戻りその姿で外に出た時にそのことを街の者達に言われ自分も水鏡に映る自分を見て歓喜していた、記憶はこれからだったがその心に相応しい救いが与えられた。
ブルーベリーへのお礼 完
2018・7・25
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