駄目な後輩に
 深江橋みなみは最近毎朝校門である一年の女子生徒に注意している、その女子生徒の格好に対してだ。
 ネクタイの締め方はいい加減、髪の毛は金髪に赤や青のメッシュを入れて派手なメイクにネイルアート、アクセサリーは幾つも付けていてだ。
 制服のスカートは極端に短い、その一年生にいつも言うのだった。
「貴女、本当にね」
「ファッションがですか?」
「何、今日もって」
「あっ、ちゃんとなおしてきましたよ」 
 一年生はみなみに笑って返した。
「昨日言われたところは」
「何処がよ」
「ほら、ブラウスちゃんとです」
 制服のそのブラウスを指し示して言うおだった。
「学校指定のにしてきました」
「それだけじゃない」
 みなみは一年生に目を顰めさせて返した。
「その他はどうなの?」
「駄目ですか」
「ブラウス以外はね」
 それこそというのだ。
「全部駄目じゃない」
「だからですか」
「今日も言うわよ」
「先輩厳しいっすね、あたしこれでもですよ」
「無遅刻無欠席でなのね」
「はい、授業もさぼらないし寝ないですし」
 そうしたことはしっかりしているというのだ。
「煙草もお酒もドラッグもしてないっすよ」
「それは普通よ」
 みなみは一年生に怒って返した。
「あといじめとかもよね」
「万引きとかカツアゲもしてないっす」
「それで部活にも出てっていうのね」
「はい、テニスに汗を流してるっす」
 部活の方もさぼっていない。
「赤点も取らないしいいじゃないっすか」
「服装が駄目なの」
 みなみが言うのはそこだった。
「校則違反の塊じゃない」
「これあたしのファッションっすよ」
「それが全部校則違反だからよ」
「言うっすか」
「そうよ、ブラウス以外は全部駄目よ」
「ニーハイもブーツもなおしたっすよ」
「その他もよ」
「髪型とかメイクとかっすか」
 自分ではわかっている返事だった。
「そういうのも」
「そう、爪もスカートも」
「先輩厳しいっすね」
「校則を言ってるだけよ」
 学校で定められたそれをというのだ。
「私は」
「いやあ、別に人として筋を守っていれば」
「服装はっていうのね」
「いいじゃないですか」
「よくないわよ、もうどれだけ校則違反してるのよ」
「人間杓子定規じゃ駄目ですよ」
「規則は守るものよ」
 みなみは笑って言う後輩にあくまで厳しく言う、しかし一年生の娘はみなみの言葉にも笑って返して。
 そうして平気な顔で校舎の中に行く、みなみはその彼女を睨んで送るだけだった。
 風紀部の面々はそのみなみにあえてこう言った。
「ねえ、もうね」
「アクセサリーとか没収したらいいじゃない」
「先生に言うとか」
「あの娘何言っても笑って聞き流すし」
「それじゃあね」
「そういうことはしないから」
 みなみは風紀部の面々にも真面目な口調だった、そしてその真面目な口調で言うのだった。
「私は」
「それがあんたのポリシーだからよね」
「それでよね」
「あのアクセサリーは没収しないし」
「先生にも言わないのね」
「あんな恰好なのに」
 それでもとだ、みなみは風紀部の仲間達に話した。
「不思議と生活とか学業は真面目だから」
「部活にしてもね」
「遅刻は絶対にしないし」
「いじめとか意地悪はしなくて」
「授業はいつもちゃんと出て」
「お掃除も何があってもさぼらない」
「真面目なところは真面目なのよね」
「そうした娘だから」
 自分で言う通り真面目なところは真面目だからだというのだ。
「言い続けるわ」
「真面目になの」
「そうしていくのね」
「ええ、あの娘も服装以外は真面目だから」
 それでというのだ。
「私もよ」
「真面目になのね」
「正々堂々と対して」
「毎朝注意していくのね」
「そうしていくわ、あの娘がちゃんとした格好になるまでね」
 こう言ってだ、実際にだった。
 みなみは一年生を毎朝注意していった、すると次第にだった。
 その一年生はメイクを薄くしてスカートの丈も短くしていってだ、アクセサリーも減らしていった。そうしてだった。
 いつも自分に注意するみなみにだ、笑って言った。
「どうです?あたし真面目になりましたね」
「何処がよ」
 みなみは一年生の言葉と顔にむっとした顔で返した。
「髪の毛は相変わらずだし」
「メイクとかもですか」
「まだしてるし」
「すっぴんじゃ駄目ですか」
「そう、アクセサリーもね」
 そちらもというのだ。
「完全にね」
「外してですか」
「登校してきなさい、そんなのだとね」
 まだと言うのだった。
「駄目よ」
「まだまだですか」
「校則はちゃんと守ることよ」
「三分じゃ駄目ですか」
「十分よ」
 つまり完全だというのだ。
「そんなのだと駄目よ」
「難しいところですね」
「難しくないわよ、そもそもね」
「校則はですね」
「いつも言ってるでしょ、ちゃんと守る」
「そうしないとですか」
「全く、どうして服装だけそうなのよ」
 他のことは出来てもとだ、みなみは一年生に眉を顰めさせて言った。爽やかな朝からいきなり怒っている。
「他のことは真面目でも」
「ですからこうしたこと位はハメを外してもって思って」
「真面目なことは真面目にして?」
「はい、そういうのは駄目ですか」
「学校では止めなさい」
 これがみなみの最大限の譲歩だった。
「学校を出たら幾ら派手にしてもいいから」
「あっ、そっちはですか」
「パンクにしてもヘビメタにしてもね」
「学校の外で、ですか」
「少なくともそんな派手な格好は完全に校則違反だから」
 こう言って注意し続けるみなみだった、するとやがて一年生の娘は髪の毛を金髪に染めていることとスカートの丈が普通に短いこと以外は普通になった。みなみはそのことによしと思ったが正月に住吉大社の初詣で彼女と会ってだった。その派手なギャルもギャルの極端なそれを見てだ、こう本人に言った。
「本当に学校の外ではなのね」
「はい、先輩に言われてこうなりました」
「どうかと思うけれど学校の外ならいいわ」
「じゃあそういうことで一緒にお参りしますか」
「ええ、いいわよ」
 みなみは一年生の娘に微笑んで応えた、学校の外ではみなみも何も言わなかった。それで一年生もこのことに笑ってだった。
 二人で仲良く初詣をした、そして最後はまた学校でと話してそうして別れた。みなみは別れた後不思議と心地よい気持ちだった。


駄目な後輩に   完


                2018・7・25

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