大阪にもいる
 緑橋莉乃は幽霊が苦手だ、それは子供の頃にその幽霊を見て怖かったからだ。
 しかしその話を聞いてだ、あるクラスメイトは莉乃に笑って言った。
「そう言うけれどね」
「幽霊はいないっていうのね」
「そんなのいないわよ」
 クラスメイトは莉乃に笑ったまま言った。
「この世にはね」
「そう言うけれどね」
 莉乃は莉乃で真剣なクラスメイトに返した。
「幽霊はいるから」
「絶対に?」
「そう、絶対によ」
 クラスメイトに強い声で告げた。
「私嘘は言わないから」
「じゃあ私に幽霊見せてくれる?」
 クラスメイトはあくまで幽霊はいると主張する莉乃に対して笑って返した。
「幽霊を」
「本当に見たいのね」
「ええ、いる筈ないから」
 あくまでそう信じているからこその返事だった。
「私宇宙人は信じるけれどね」
「幽霊はなのね」
「いないから。この目で見たら信じるけれどね」
「そうね、じゃあ幽霊が出る場所に案内してあげるわ」
「それ何処なの?」
「今から案内するから」
 こう話してだ、そしてだった。 
 莉乃はクラスメイトを大阪市内であまりにも有名な心霊スポットである某所に案内した。するとだった。
 クラスメイトは自分をそこに案内した莉乃に笑って言った。
「ここ繁華街じゃない」
「そう、大阪市内のね」
「そのど真ん中にあるのによ」
「幽霊なんか出ないっていうの」
「そうよ、こんな目立つ場所にね」
 間違ってもという返事だった。
「いないわよ」
「そう言うけれど今から案内する建物の中は出るらしいから」
「やれやれ。まあいたら本当に信じてあげるわ」
 クラスメイトは莉乃に肩を竦めさせて応えた、そしてだった。
 莉乃に案内されるままに建物の中に入った、そうして建物の中の色々なフロアーを回っている中で。
 ふとだ、クラスメイトは不意にだった。眉を顰めさせて今さっき自分が擦れ違った相手を見てだった。
 そしてだ、こう莉乃に言った。
「今の人って」
「どうしたの?」
「あの服今の服じゃなかったわ」
「そうだったの」
「ええ、昭和四十年代の服じゃないの?」
「それ何十年前よ」
 莉乃はクラスメイトに眉を顰めさせて言ったがすぐにだった。
 自分も蒼白になってだ、クラスメイトに言った。
「間違いないわ」
「えっ、あんた顔真っ青よ」
「四十年代って言ったわね」
「そうだけれど」
「さっきの間違いないから」
 こうクラスメイトに言うのだった。
「冗談抜きでね」
「えっ、それじゃあ」
「あんた幽霊と擦れ違ったのよ」
「ちょっと、じゃああんたの言ったことって」
「そうよ、私が幽霊見たのは実は他の場所だったけれど」
 それでもというのだ。
「今あんたが擦れ違ったのはね」
「本物だったの」
「リアルで幽霊だったのよ」
 正真正銘のそれだったとだ、莉乃はクラスメイトに話した。
「私は気付かなかったけれど」
「あんなにはっきり出るの!?今お昼よ」
「お昼はお昼でも出るのよ」
 幽霊はとだ、莉乃は答えた。
「特にここはね」
「洒落になってないわよ」
「ちょっと、これはね」
 かなり真剣にだ、莉乃はクラスメイトに言った。
「神社でお守り勝ってお塩でね」
「清めのお塩ね」
「それで難を避けましょう」
「いや、ちょっとね」
 流石にだ、クラスメイトも蒼白の顔になってきた。二十一世紀になって昭和四十年代の服を着た人なぞ普通に出歩いている筈がないからだ。
「私もね」
「信じた?」
「ここのこと調べていい?」
「調べたら洒落にならないことがわかるわよ」
 これが莉乃の返答だった。
「それでもいい?」
「そういうことなのね」
「そう、じゃあとにかくね」
「お守り買ってお塩でなのね」
「難を逃れましょう、本当に出たんだから」
 莉乃は見なかった、しかし幽霊を信じていないクラスメイトが言うのならそれは間違いないと思ってだ。
 それでだ、こう言ったのだ。
「だからね」
「ええ、これで私もね」
「信じるでしょ、幽霊のこと」
「信じるわよ、この目で見たから」
 それならとだ、クラスメイトも答えた。
「はっきりとね」
「そういうことね、じゃあね」
「今から神社ね」
「そこに行きましょう」
 お守りを買って清める為にとだ、こう言ってだった。
 莉乃はクラスメイトと共に神社に向かった、するとたまたまそこで出会った神主にびっくりされて無料でお祓いをしてもらった。お守りは買ったが。
 以後このクラスメイトは幽霊を否定することはなくなった、それで以後絶対にだった。莉乃が幽霊を怖がっても馬鹿にすることはしなくなった。そして彼女の怖いものも幽霊となった。


大阪にもいる   完


                   2018・7・25

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