祭りに出れば
 九条ひかりは蕎麦が大好きだ、だが蕎麦だけでなくたい焼きやソーセージも好きだ。それでだ。
 祭りがあるとだ、いつもこう言った。
「ソーセージ、フランクフルトにたい焼きがあったら」
「行くんだな」
「そうするのね」
「ええ、この二つがあったらね」
 家で兄と姉にも言うのだった。
「絶対に行くけれど」
「その二つは絶対にあるだろ」
 それこそとだ、兄はひかりに返した。
「お祭りの出店にな」
「そうよね」
「だから御前お祭りにはいつもだな」
「行ってね」
 家の近所、ひいては大阪の主な祭りにだ。これは初詣の時も同じだ。初詣はその年によって行く神社が変わるが必ず大阪市内の大きな神社に行っている。
「他のものも色々食べるけれど」
「ソーセージとたい焼きはだよな」
「食べてるわ」
 この二つは何といってもというのだ。
「欠かさずにね」
「そうだよな」
「おそばもよね」
 今度は姉が言ってきた。
「やっぱり」
「ええ、焼きそばをね」
 それをというのだ。
「買ってね」
「そうしてよね」
「食べてるわ」
 まさにというのだ。
「焼きそばもね」
「結局おそばもなのね」
「あれはお蕎麦じゃないから」
「蕎麦粉を使ったものじゃないから」
「また違うのよ」
 『そば』といってもとだ、ひかりはこのことは断った。
「けれどね」
「やっぱり食べるわね」
「それでソーセージとね」
「たい焼きは」
「絶対に食べるから。今度のお祭りでも」
 家の近所で行われるそれにもというのだ。
「行ってね」
「そうしてよね」
「食べるわ」
 絶対にという返事だった。
「学校の皆と一緒に行くから」
「じゃあな、楽しんで来いよ」
「お母さんにお小遣い貰ってね」
 兄と姉はひかりに優しい声をかけた、末っ子のひかりは二人に子供の頃から可愛がられているのだ。それでだった。
 ひかりはその祭りの日母に浴衣を着せてもらってからそのうえで祭りに出た、そうして待ち合わせ場所で友人達と合流してだった。
 出店の列の中に入った、そして目指すものは何といってもだった。
 ソーセージ、つまりフランクフルトとたい焼きだった。ひかりは最初にその二つを買って食べて満面の笑顔で言った。
「やっぱりお祭りの時はね」
「それだっていうのね」
「ソーセージとたい焼き」
「その二つがないとなのね」
「ええ、出店のを食べないと」
 それこそとだ、ひかりはフランクフルトを満面の笑顔で食べながら友人達に話した。
「お祭りに来た気がしないわ」
「本当に好きね、ソーセージ」
「それにたい焼き」
「ひかりちゃんお祭りに出たら絶対に食べてるけれど」
「本当に好きなのね」
「そうなの、じゃあこの二つを食べたし」
 最も食べたいこの二つをというのだ。
「それじゃあね」
「お祭り回っていきましょう」
「皆でね」
「そうしていきましょう」
「ええ、皆でね」
 こうしてだった。ソーセージとたい焼きを食べ終えたひかりは友人達と共に祭りの中を巡って楽しみはじめた。その中で。 
 ひかりは色々なものを食べた、焼きそばにたこ焼きにお好み焼きにクレープにかき氷にとだ。色々食べてだった。
 祭りを巡って行った、だが二時間程度回ってだ。食べているうちに。
 ひかりは不意に蹲ってこんなことを言いはじめた。
「ちょっとね」
「まさかと思うけれど」
「食べ過ぎ?」
「それでお腹痛くなったの?」
「そうなったの?」
「ええ、かき氷食べて」
 そうしてというのだ。
「またソーセージとたい焼き食べたじゃない」
「今ね」
「そうしたわね」
「それとは別にいか焼きといかの姿焼きも食べたから」
 大阪ではいか焼きは二つある、いかを切ったものを小麦粉と卵の生地に入れて焼いたものと他の地域で言う普通のいか焼きだ。ひかりは両方食べたのだ。
「ちょっとね」
「かき氷でお腹冷えて」
「しかもソーセージとかいかとか消化悪いのばかり食べて」
「お腹壊したの」
「そうなったの」
「しかも今浴衣じゃない」
 ひかりは今着ている服のことも話した。
「だから実はね」
「あっ、下着ね」
「下着着けてないの」
「浴衣だから」
「多分そのせいで余計にね」
 下着を着けていないせいでというのだ。
「身体余計に冷えて」
「それでなのね」
「今やばいの」
「そうした状況なの」
「そうなの、ちょっとおトイレ行って来るわ」
 幸いトイレは近くにあった、実はなければ茂みの中に入ってと考えていた。それですぐにだった。
 ひかりはトイレに行った、そうして暫くそこから出なかった。出た後ももうこの祭りでは食べることはせず友人達と一緒にいた。
 そしてだ、その後でだった。
 ひかりは家に帰って兄と姉にこのことを話した、すると二人はひかりにやれやれといった顔で話した。
「ひかりにしては珍しいミスだな」
「そうよね」
 こう二人で言うのだった。
「どうも」
「食べ過ぎるなんてな」
「しかもお腹冷やすって」
「こんなことなかったのにな」
「迂闊だったわ、ついついね」
 好きだからとだ、ひかりは兄姉達に応えて話した。
「食べ過ぎてね」
「それでか」
「ついなのね」
「危なくなったわ、けれどね」
「近くにトイレあってよかったな」
「運がよかったわね」
「若しなかったら」
 その時のこともだ、ひかりは話した。
「茂みの中でだったわ」
「そんなに危なかったんだな」
「急にきたのね」
「いや、幾ら好きでも他のも食べたし」
 出店の定番のたこ焼きやら何やらもだ。
「しかもその二つ二回ずつ食べたし」
「本当に食べ過ぎだな」
「そりゃお腹にくるわよ」
「失敗したわ、浴衣だから下着着けてないからその分冷えるし」
「浴衣用の下着あるわよ」
 姉は妹にこのことをここで話した。
「ちゃんとね」
「えっ、そうなの」
「半ズボンみたいな形した下着のラインが出ないね」
「そうなの」
「それかティーバック穿けばいいし」
「ティーバックはちょっと」
 まだ中学生のひかりはそちらの下着にはどうかという顔になった。
「いいわ」
「じゃあその半ズボンみたいなパンツね」
「今度から穿けばいいのね」
「浴衣の時はね。まあとにかく今回はね」
「ええ、近くにおトイレあってよかったわ」
「あと食べ過ぎにはね」
「幾ら好きでもね」
 ひかりも実感した、何とか難を避けたうえで。
「よくないわね」
「これからは気をつけなさいね」
「そうするわ」
 苦笑いで言うひかりだった、今回の祭りは彼女にとっていい教訓となるものだった。


祭りに出れば   完


                     2018・7・26

作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov153261414022040","category":["cat0008","cat0010","cat0016"],"title":"\u796d\u308a\u306b\u51fa\u308c\u3070","copy":"\u3000\u304a\u796d\u308a\u306b\u51fa\u3066\u597d\u304d\u306a\u3082\u306e\u3092\u98df\u3079\u308b\u4e5d\u6761\u3072\u304b\u308a\u3002\u3060\u304c\u3042\u307e\u308a\u306b\u3082\u98df\u3079\u904e\u304e\u3066\u3057\u307e\u3063\u3066\u3002\u590f\u306a\u306e\u3067\u304a\u796d\u308a\u3092\u610f\u8b58\u3057\u3066\u66f8\u304b\u305b\u3066\u3082\u3089\u3044\u307e\u3057\u305f\u3002","color":"#4fcbb8"}