倒したくなくても倒す方法
 龍燕ライヤは表の世界では高校生だが実は裏では探偵をしたりモンスター退治の依頼を受けたりしている、その助手は二つ下の妹だが。
 その妹が家でくつろいでいた彼に携帯で話をした後に言ってきた。
「お兄ちゃん、仕事入ったわよ」
「ああ、どんな仕事だよ」
 ライヤはテレビのドラマを観つつ妹に応えた、自分が好きな女優さんが主演を務めているので観ているドラマだ。
「今度は」
「モンスター退治よ」
「モンスターか」
「そう、そっちよ」
 妹はこう兄に答えた。
「場所はK山で報酬は四〇〇万」
「四〇〇万か、随分大きい額だな」
「それだけ強いモンスターってことでしょ」
 妹は兄に素っ気なく返した。
「それで受けるわよね」
「もう受けるって返事したよな」
「だってお兄ちゃんどんな仕事も受けるじゃない」
 ライヤのその気質を知ってのことだ。
「だからね」
「それでか」
「お願いしますって返したわ」
 つまり受けると返事したのだ。
「そうね」
「わかった、じゃあな」
「K山に行くのね」
「今度の休みにな」
 つまり学校の授業がない時にとだ、ライヤもこう返した。そしてだった。
 ライヤはその週の土曜日に妹と共にK山に向かった、K山に着いたのはすぐで彼はすぐに依頼の対象であるモンスターが出る場所に入ったが。
 全長二百メートルはある禍々しい赤い身体のそれを見てだ、彼は仰天して隣にいる自分より二十センチは小さい妹に叫んだ。
「おい、何だよ」
「何だって何がよ」
「このモンスターだよ」
「大ムカデね」
 妹は兄にここでもあっさりとした口調で応えた。
「大きいわね、四〇〇万の価値はあるわ」
「金の話じゃない、俺はな」
「ムカデ苦手よね」
「ムカデだけは苦手なんだよ」
 こう妹に言った。
「それ御前も知ってるだろ」
「お兄ちゃんとずっと一緒にいるからね」
「じゃあどうして仕事受けたんだよ」
「どのモンスターかまでは聞いていなかったの」
「そんなの聞けよ」
「だってお兄ちゃんどんな仕事も受けるから」
 ここでもこう言う妹だった。
「だからね」
「ムカデは別だよ」
 これが兄の返事だった。
「俺は本当にムカデだけはな」
「足が一杯あってうねうね動いてね」
「顔は怖くてな」
「しかも色も気持ち悪くて」
「やけに細長くてな」
「大嫌いなのよね」
「どれか一つだったら平気なんだよ」
 彼にしてもだ。
「だから蛇とかか蜘蛛は平気だろ」
「そっちの系列のモンスターはね」
「けれどムカデだけはな」
 そうした要素が全部揃っているからだというのだ。
「駄目なんだよ」
「やれやれね」
「やれやれじゃない、こんなの相手にしていられるか」
「四〇〇万よ」
 妹はライヤに報酬の額を話した。
「これ大きいわよ」
「俺達の学費も生活費も普通に払えるな」
「一年分はね」
「これだけで相当に大きいな」
「他のお仕事も受けてるけれど」
 それでもだ。
「一回のお仕事でこれだけ入ればね」
「後滅茶苦茶楽だな」
「じゃあいいわね」
「引き受けろっていうんだな」
「そう、じゃあいいわね」
「ああ、わかった」
 嫌々といった顔でだ、ライヤは妹に応えた。
 そうしてだ、妹に対してこうも言った。
「倒すからな、今から」
「絶対にそうしてね」
「しかしな、見たくもないな」 
 巨大なムカデ、目の前で自分達に向かって蠢いてくるそのおぞましい姿を見てライヤはあらためて思ってその気持ちを言葉にも出した。
「気持ち悪いな」
「じゃあいい倒し方があるわよ」
「どんな倒し方だよ」
「目を閉じてめくらめっぽうに雷放って落雷落としまくればいいのよ」
「そうすればいいのか」
「そう、何なら私が誘導するし」
 照準を担当するというのだ。
「そうするし」
「じゃあそうしてくれるか」
「ええ、じゃあそうして倒しましょう」
 こうしてだった、ライヤは目を閉じて大ムカデを見ない様にした。そうして当たるを幸いに落雷を落として大ムカデを絨毯爆撃の要領で攻撃しつつ。
 妹の先導を受けて掌からも雷を放った、それでだった。
 大ムカデを倒した、妹が目を開けていいと言って目を開くとそこには黒焦げになって動かなくなった巨体と夥しい落雷の後があった。
 幸い山火事にはなっていなかった、それでライヤは言った。
「山火事にもなりそうにないしな」
「ええ、無事にお仕事達成出来たわね」
「ああ、しかしな」
「四〇〇万でもなのね」
「もうな」
 それこそと言うのだった。
「こうした仕事は断りたいな」
「何言ってるのよ、若しまたね」
 妹は兄に顔を向けて強い声で言った。
「ここまで高額のお仕事があったら」
「ムカデでもか」
「絶対に受けるから」
「御前酷い奴だな」
「お金になるのよ」
 それならばとだ、妹は兄に現実のことから話した。
「だったら受けるに決まってるじゃない」
「やれやれだな」
「やれやれじゃないわよ、これで四〇〇万入ったから」
「俺達の学費も当分の生活費もか」
「確保出来たわ、これからも頑張って稼いで」
 探偵やこうしたモンスター退治でというのだ。
「生きていくわよ」
「そうするか、まあ普通にアルバイトするしな」
「報酬いいしいいでしょ」
「そうだな、じゃあまたか」
「別のお仕事が入ればね」
「そっちで頑張るか」
 ライヤは何はともあれ今は仕事が終わってよしとした、しかし出来ればもう二度とムカデ関係の仕事はしたくないと思った。
 そしてその次の日だ、また携帯を受けて仕事の話をした妹にこう問うた。
「ムカデじゃないよな」
「今度は迷い猫探しよ」
「探偵の方か」
「ええ、受けるって返しておいたから」
「わかった、じゃあな」
 猫と聞いて安心してだった、ライヤはその仕事の話を暗しく聞くことにした。こちらの仕事は報酬はムカデ退治より遥かに安かったがそちらよりもずっと気持ちよくそして彼にとっては簡単に終わらせることが出来た。


倒したくなくても倒す方法   完


                     2018・7・26

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