雀鬼との勝負
 コレット=フランベールは学生だが学生をしつつ凄腕のギャンブラーとしても知られている、特にルーレットが好きだが。
 その彼にだ、彼を雇っているカジノのオーナーが笑って言ってきた。
「麻雀もですか」
「そうだよ、これからはね」
「うちの店でやるんですか」
「君麻雀はするかな」
「いえ」
 首を傾げさせてだ、コレットはオーナーに答えた。
「東洋のギャンブルとは聞いていますが」
「テーブル、向こうでは卓というがね」
「それを使うゲームですか」
「そうだよ、牌というものを使ってね」
「牌ですか」
 そう言われてもコレットの知らないものばかりだった。
「どんなのでしょうか」
「まあ具体的にはね」
「それはですか」
「かなり複雑なゲームで」
「説明しにくいですか」
「かく言う私もね」
 オーナーにしてもだ。
「ルールを理解しているか」
「オーナーもですか」
「言えないよ」
「そこまで難しいですか」
「そうなんだよ、しかもね」
「強い人もいますか」
 直観でだ、コレットはこのことを察して述べた。
「そうですか」
「鬼とまで言われるそうだよ」
「鬼ですか」
「麻雀もね」
「それでその鬼も」
「若しうちで麻雀をはじめれば」
 その時はというのだ。
「その鬼も来るだろうね」
「そうですか」
「おそらくだがね」
「じゃあ僕は」
「今はルールを知らなくても」
「ルールを知れば」
「やってもらうかも知れない、当店のやり方はわかっているね」
 オーナーは穏やかだが強い声でコレットに声をかけた。
「負け過ぎのお客さんは作らない、そして」
「勝ち過ぎのお客さんもですね」
「だからだよ」
「その麻雀においても」
「勝ち過ぎのお客さんが出たら」
 その時はというのだ。
「負けてもらわないといけないからね」
「その時に備えて」
「よかったら麻雀も勉強してくれるかな」
「わかりました」
 コレットはオーナーの言葉に頷いた、そしてだった。
 麻雀の本を何冊か買って勉強をした、確かに難しいゲームだったが生粋のギャンブラーである彼は麻雀のことを完全に頭に入れた。
 後は実戦による実力を備えることだったが。
 四人で店員達の間で練習として打ちながらだ、彼はこんなことを言った。
「トランプやルーレットとは」
「また違うな」
「どうにも」
「別のゲームみたいだな」
「はい」
 一緒に卓を打った先輩達に言うのだった。
「ギャンブルとはいっても」
「全然違うな」
「四人で打つところといい」
「牌のあがり方といいな」
「何ていいますか」
 どうにもと言うのだった。
「コツを掴むことも」
「大変だな」
「二人じゃないしな」
「相手も三人いると」
「どうにも」
 微妙な顔で言うコレットだった。
「難しいですね、ただ」
「ただ」
「どうしたんだ?」
「何かあったのか?」
「麻雀は鬼と呼ばれる人がいるそうで」
 オーナーに言われたことを言うのだった。
「ですから」
「その鬼とか」
「そこまで強い人と打ってみたい」
「そうなんだな」
「そうも思います、うちの店は勝ち過ぎのお客さんも出さないですし」
 ある程度は負けてもらうのだ、店員の力で。
「そのこともあって」
「麻雀にしてもな」
「勝ち過ぎ許さないんならな」
「俺達も強くならないと駄目か」
「ですから。それで僕も」
 中の牌、右手の中にそれを置いて見つつ言うのだった。
「強くなりたいですね」
「そうか、じゃあな」
「コツを掴む為にやっていかないとな」
「これからもな」
「そうしていきます」
 こう応えてだ、コレットは麻雀をしていった。他のギャンブルもしながらそちらもそうしていった。
 店で麻雀を置くと人気があった、それでだった。
 強い客も弱い客も出た、だが今は。
「まだ、だね」
「鬼はですか」
「うん、来ていないよ」
 オーナーは今や麻雀でも店で一番になったコレットに話した。
「幸いというかね」
「東洋にいる様な」
「そんな人はね」
 今はというのだ。
「来ていないよ」
「そうですか、ですが」
「若しもだよ」
「来ればですね」
「そして勝ち過ぎたら」
 その時はというのだ。
「今の当店ではね」
「僕がですね」
「行ってもらうよ」
 そうなるというのだ。
「いいね」
「はい」
 まさにとだ、コレットは答えた。
「そうさせて頂きます」
「勝ち過ぎはよくないからね」
「勝ち過ぎますと」
「こちらの儲けが減るよ、そして負け過ぎると」
 オーナーはその場合のことも話した。
「気の毒だしギャンブルから離れるか借金をしかねないから」
「ギャンブルで身を持ち崩したりするので」
「普通の人がそうなるとね」
 悪人ならともかくだ、コレットはギャンブルを通じて悪人狩りをしているがオーナーも悪人が負け過ぎることはいいとしている。
「よくないからね」
「だからですね」
「若し鬼が来たら」
 雀鬼がというのだ。
「宜しく頼むよ」
「勝負させてもらいます」
 コレットも答えた、そうして麻雀の腕を磨きつつそのうえで機を待った。すると東の島国からある男がやって来た。
 その男は見ただけで普通ではなかった、やや小柄で痩せた猫背の男だが持っている気配が尋常ではなかった。
 それでだ、オーナーはその客を見てすぐにコレットに囁いた。
「東の方から来たというし」
「何かギャンブル全体に」
「あれはプロだよ」
 間違いなく、というのだ。
「もうわかるね、君も」
「これが仕事ですから」
 コレットはオーナーにこう答えた。
「僕も」
「そうだね、あの雰囲気はね」
「目もですね」
 見れば小さなその目は尋常なものではなかった。赤く血走りそのうえ異様なまでに鋭い光を放っていた。
「あれはプロの目ですね」
「ギャンブルの、勝負師だよ」
「それでは」
「勝ち過ぎるだろうし」
「どんなゲームでも」
「ルーレットでもトランプでもね」
 そうしたギャンブルをしてもというのだ。
「強いよ、そしてね」
「麻雀もですね」
「して勝ち過ぎる様なら」
 その時はというのだ。
「頼むよ」
「一戦交えてきます」
 コレットの目も光った、彼もまたプロの目になった。
 そのうえで今はルーレット彼が最も得意なゲームに付いて働いていた、だがここで店の先輩の一人が言ってきた。
「東の島国から来たお客さんな」
「どうなったんですか?」
「麻雀のコーナーに行ったよ」
「麻雀のですか」
「それでとんでもない強さを見せているよ」
「そんなに強いんですか」
「誰も勝てない」
 そこまでの強さだとだ、先輩はコレットに話した。
「冗談抜きで鬼だ」
「そうですか、それじゃあ」
「ああ、オーナーが言ってる」
「僕はこれからそっちに行くんですね」
「俺はこっちに入るからな」
 ルーレットの方にというのだ。
「そのお客さん頼むな」
「わかりました」
 コレットは先輩に応えてそうしてだった。
 彼は麻雀のコーナーに行った、すると実際にその客は恐ろしい強さで勝っていた。それでその客の卓にだ。
 コレットは入り勝負をした、だが店で一番の雀豪である彼もだった。
 苦戦しそうして何とか勝ち過ぎと言っていいまでには勝たせない様にさせるだけで精一杯だった、その客はその勝ち過ぎないぎりぎりでだった。
 閉店時間に店を去った、そうして言うのだった。
「ここでも麻雀が出来るなんてよかったな」
 こう言ってその猫背で去るのだった、痩せた顔にある目はまるで地獄の鬼のそれだった。
 その彼が去ってからだ、オーナーはコレットに言った。
「あの男、どうやら」
「相当な強さでした」
「うん、プロ中のプロで特に」
「麻雀については」
「鬼だった様だね」
 文字通りのそれだったというのだ。
「君がかろうじて勝ち過ぎを止められた位だからね」
「すいません」
「謝る必要はないよ」 
 オーナーは笑ってそれはよしとした。
「あれは流石に相手が悪いよ」
「そうですか」
「そう、あまりにも強かったからね」
 オーナーから見てもそうだったからだ。
「それはいいよ」
「左様ですか」
「ただ、次にうちに来たら」
 その時はとだ、オーナーはコレットに意を決した目で告げた。
「今回よりはね」
「勝たせない様にしないと駄目ですね」
「だから君には今以上に」
「麻雀も強くなります」
「頼んだよ、では最後の掃除だ」
 店員達の間のそれをとだ、店長は言ってだった。
 彼自身も加わり店員全員での掃除に入った、コレットもその中にいたが彼はこの日のことを忘れまいと誓った。そうして掃除をしつつ捲土重来を誓った。この日から彼は麻雀の方でもその力を知られる様になったがそれはまた別の話である。


雀鬼との勝負   完


                   2018・8・19

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