滅びることのない絆
 最初にヘインを見てだ、その戦場に来た若い薔女達はまずはこう思った。
「あの人怖そうよね」
「黒薔薇の薔女らしいけれど」
「きつそうね」
「すぐ怒りそう」
「それで残酷そうね」
「凄く冷たそうだし」
 ヘインの薔女の美貌を見せているが冷たく厳しく険しそうな外見を見て思った、そしてすぐにだった。
 彼女達はヘインに近寄ることをしなかった、そうしてヘインの噂を聞いて彼女達の間でひそひそと話をした。
「降伏した敵を皆殺しにしたのよね」
「敵は子供でも殺すそうだし」
「平気で一般市民も攻撃するっていうし」
「スパイの拷問もするんでしょ」
「元暗殺者だっていうし」
「怖いわよね」
 その噂を殆ど真実と思い話をするのだった。
「味方にも何するか」
「そうした人敵に対してだけじゃないっていうし」
「味方の私達でもね」
「何かあったら」
「どうされるか」
 こう考えてだ、余計にヘインに近寄ろうとしなくなった。敬礼はしても彼女達から話をすることはしなかった。
 だが部隊の指揮官である白薔女である大佐がだ、こう言った。
「ヘイン少佐とお話していないわね」
「あの、それは」
「ちょっと」
「見てわかるわ」
 大佐は若い薔女達が戸惑いを見せたが先に言った。
「そのことはね」
「あの、ですが」
「何ていいますか」
「少佐の噂聞きますと」
「最初見ただけでも」
「怖いっていうのね、けれどね」
 大佐は本音を見せた若い薔女達に確かな声で返した。
「噂は噂、実はね」
「実は?」
「実はっていいますと」
「少佐は捕虜や一般市民を攻撃したりはしないわ」
 噂はあくまで噂に過ぎないというのだ。
「敵兵に子供はいないし拷問もしないわ」
「本当ですか?」
「そうなんですか?」
「実は」
「そうよ、元暗殺者でもないし」
 全ての噂が実は真実ではないというのだ。
「そこはわかっていてね」
「そうですか」
「全部噂だったんですか」
「そうだったんですか」
「そう、そして実際はどうした人かは」
 このことはというのだ。
「戦場に出ればわかるわ」
「その時にですか」
「少佐が本当はどうした人かわかりますか」
「一体どんな人か」
「貴女達もわかるわ」
 このことを言うのだった、若薔女達は大佐の言葉からヘインの噂は全て噂に過ぎないものであるとわかった、だが。
 怖い雰囲気はそのままでだ、やはり彼女には近寄らなかった。だがその中で彼女達がいる部隊は薔女狩りの者達との戦いの場に赴いた。
 その戦場は市街地で部隊は市街に立て籠もり戦闘を続けている薔女狩りの部隊に市街地独特の入り組んだ場所を使って戦われ苦戦していた、その中で。
 若い薔女達はあるビルに入っていた、だが。
 そのビルが囲まれていた、敵はビルを完全に囲んでいた。若い薔女達はビルの窓から自分達を囲む敵を見て言った。
「まずいわ、囲まれてるわ」
「それも完全にね」
「皆結構傷ついてるし」
「銃弾もグレネードも少ないし」
「花言葉を使おうにも気力も残り少ないし」
「今攻められたら」
「もう全滅するしかないわよ」
 そうした状況だというのだ。
「援軍来てくれないかしら」
「無理でしょ、正直」
「司令部には無線で連絡したけれど」
 今の自分達の状況をだ。
「それでもね」
「今どの小隊も大変だから」
「私達のところまで手が回らないっていうし」
「何かヘイン少佐のおられる小隊が近くにおられるそうだけれど」
「あの人が助けに来られるとか」
「絶対にないわね」
 ヘインについては皆こう思った。
「助けられないとか捨て石にした方が戦局に有利と思ったら」
「もう見捨てるわよね」
「そうした人よね」
「絶対にそうよ」
「それならもう」
「私達は自分で何とかするしかないわね」
 生きる、何としてもそうする為にはというのだ。
「じゃあね」
「ビルの出入り口から一気に出て」
「全員で攻撃しつつ駆けて」
「一点突破で敵の囲み突破して」
「そうして味方のところまで駆けましょう」
「何人生き残るかわからないけれど」
 正直全滅覚悟だ、この状況でそうした戦術を執ることは。
 だがそれでもだ、少しでも生き残る者がいればと思い彼女達はそうすることを決めた。そうしてだった。
 今まさに突破せんとビルの入り口に集まった時にだった。
 急にだ、ビルの周りから激しい銃音と悲鳴が挙がった、若い薔女達がその音に何かと思い周りの敵達を見ると。
 ヘインが自分の部隊を率いてビルを囲む薔女狩りの部隊に攻撃を仕掛けていた、自身も武器や花言葉で戦っている。
「友軍を助けなさい!」
 こう言いつつだ、自らが先頭になって戦ってだ。 
 敵を退けて若い薔女達の部隊を救出した、若い薔女達はヘレンに助けられたがこのことに対してだ。
 信じられないといった顔で呆然となった、だが大佐が彼女達に言った。
「怖そうな外見だけれど」
「味方はですか」
「助けてくれるんですか」
「そうした人ですか」
「味方はどんな状況でもよ」 
 例えどれだけ絶望的な状況にあってもというのだ。
「救援に向かってそしてね」
「助けてきた」
「そうですか」
「あの人はそうされてきたんですか」
「そうよ、実は誰よりも仲間思いで」
 そしてというのだ。
「絆を大事にする人なのよ」
「絆、それをですか」
「一緒に戦う戦友の絆も」
「それを大事にされる人ですか」
「誰よりもね。少佐は絶対に誰も見捨てないのよ」
 それがヘインだというのだ。
「あまり喋ることもしないけれど」
「実はですか」
「そうした人だったんですね」
「絆を大事にされていて」
「仲間を大事にする」
「そうよ。だから貴女達も助けたのよ」
 若い薔女達もというのだ。
「部隊を率いてね」
「そうでしたか」
「最初お会いして怖いと思っていましたけれど」
「本当はそうした人だったんですね」
「そうだったんですね」
「そうよ。じゃあ今からね」 
 戦闘は終わっている、薔女達の勝利だった。薔女狩りの者達は多くの犠牲を出して街から撤退している。
「少佐にお礼を言ってきなさい」
「わかりました」
「そうしてきます」
 若い薔女達は大佐に笑顔で答えた、そしてヘインのところに行って礼を述べた。だがヘインは彼女に笑って別にいいわよと言ってコーヒーゼリーを出して優しい笑みで一緒に食べようと言うだけだった。若い薔女達が食べたそのゼリーは実に美味く優しい味がした。


滅びることのない絆   完


                    2018・8・20

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