一五〇位何だ
マサミは中学三年生だ、だが背は一五〇しかないと自分で言っている。それもいつも不機嫌な顔で言っている。
それはこの時も同じでだ、クラスメイト達にも言うのだった。
「この背どうにかならないかしら」
「またその話するのね」
「背のお話するのね」
「小さいって」
「そう言うのね」
「この背のことはね」
自分でわかっていて言うのだった、やはり不機嫌な顔である。
「どうにかならないかしら」
「まだ伸びるんじゃない?」
「まだ中学三年でしょ」
「成長するでしょ」
「まだね」
「そう思いたいけれど」
それでもとだ、マサミはまた言った。
「けれどね」
「どうせ伸びるならっていうのね」
「すぐに伸びて欲しいのね」
「そう言うのね」
「あと六センチあったら」
それだけならというのだ。
「小柄でなくて済むのに」
「あと六センチって一五六よね」
「マサミちゃん今一五〇だから」
「そうなるわよね」
「ええ、それだけでいいの」
何度も言うマサミだった。
「六センチだけあったら」
「何か切実だけれど」
「そこで十センチって言わないのね」
「一六〇とは」
「贅沢は言わないの」
やはり切実な顔で言うマサミだった。
「それでね。小柄って言われない位でいいから」
「一五六なのね」
「けれど一五六でもそんなに大きくないわよね」
「一六〇で普通?」
「それ位じゃない?」
「それでもいいの。一六〇とは言わないから」
とにかくというのだ。
「今の一五〇からね」
「何とか伸びて欲しい」
「そう言うのね」
「それで毎日牛乳も飲んで」
「小魚も熱心に食べてるのね」
「あとお野菜も食べてるから」
つまり栄養バランスには注意しているというのだ。
「偏食が一番よくないっていうし」
「まだ伸びるでしょ」
「そうよね、中学三年だったら」
「私達にしても」
「女の子でもまだ成長期よね」
「そうあって欲しいわ。十五歳になっても」
中学三年だ、その年齢になってもというのだ。
「もっとね」
「大きくなりたいのね」
「背は大きく」
「そうなりたいのね」
「ええ、もっと大きくなって」
やはり切実な顔で言うマサミだった。
「チビとか言われたくなりたいわ」
「それで一五六なの」
「それ位になりたいの」
「今は」
「そうなの。本当にね」
こう言ってだ、マサミはいつも牛乳を飲んで小魚を食べて野菜も熱心に食べた。そして適度な運動も成長にいいと聞いてそちらも励んだ。だが彼女が見たところだ。
背は伸びている様に思えなかった、それでまた言うのだった。
「本当に伸びるのかしら」
「そう言われてもね」
「個人差あるしね」
「急に伸びるものでもないし」
「そう言われても」
「難しいところよ」
「だからあと六センチでいいの」
やはり切実な顔で言うマサミだった。
「欲しいのよ。もうこうなったら」
「こうなったら?」
「どうだっていうの?」
「ええ、神様にお願いして仏様にも」
そうしてというのだ。
「キリスト教の教会にも天理教の教会にも」
「神様にも仏様にもなの」
「困った時のって感じで」
「そうするの」
「そうよ、色々な神様や仏様にお願いしたら」
それでというのだ。
「ひょっとしたらね」
「何処の神様か仏様がお願い聞いてくれて」
「それでなの」
「背を伸ばしてくれる」
「そうしてくれるっていうの」
「そうしてくれるかも知れないから」
マサミは友人達に話した。
「お願いするわ」
「それで大きくなればいいわね」
「どんどん必死になってきているけれど」
「その願いが適えばいいわね」
「努力もね」
マサミのそれがとだ、友人は言った。そしてだった。
積極的ではないがマサミの背が伸びる為の努力やお願いを応援することにした、それでマサミは余計に励んだが。
ある日だ、マサミは家で姉にこう言われた。
「あんた一五〇しかないっていつも言ってるけれど」
「実際に小さいでしょ」
「今はね」
「今は?」
「そう、今はよ」
マサミの姉は妹にクールな目で言うのだった。
「一五〇で小さいけれど」
「何かあるの?」
「昔の人はもっと小さかったのよ」
妹に言うのはこのことだった。
「江戸時代の人とかね」
「そうなの?」
「男の人で一五四センチとかだったから」
「えっ、男の人でなの」
マサミは大人びていてクールだと言われている顔を驚かせて姉に問い返した。
「一五四なの」
「そうだったのよ」
「それで平均だったら」
「男の人で一五〇ない人とかもね」
「多かったの」
「普通だったでしょうね」
妹に平然とした口調で話した。
「そうした人も」
「男の人で一五〇ないって」
「女の人はもっとでしょ」
人間はおおむね女性の方が小柄だ、それでマサミも女の子にしてはともいつも思っているのだ。中学三年にしてはと思いながらも。
「小さいでしょ」
「どれ位だったのかしら」
「あんたが江戸時代の日本に行ったらよ」
そうすればというのだ。
「女の人では大きい方でしょ」
「私でもなの」
「そうよ。大体小さくてそんなに嫌?」
「凄く嫌だから言ってるの」
マサミは姉に即座にかつ真剣に答えた。
「いつもね」
「やっぱりそうよね」
「それ何を今更だけれど」
「けれど小柄な女の子が好きな男の人もいるわよ」
「そうかしら」
「そうした人もいるし一五〇位じゃ身長制限にもかからないでしょ」
この心配もないというのだ。
「そうでしょ」
「そうかしら」
「だから大丈夫よ、一五〇位だと」
それこそというのだ。
「全然気にしなくていいわよ、それに一五〇以下でも」
より小さいと、というのだ。
「死ぬ訳でもないし」
「いいっていうの」
「そうよ、何でそこまで言うのか」
それはというのだ。
「コンプレックスなのはわかるけれど」
「気にしてもなの」
「仕方ないって思ってふっきるのも大事よ」
「そんなものかしら」
「昔はあんたで大きな方だったし」
小柄なことを気にしているマサミでもというのだ。
「一五〇位って思うことも、そして仕方ないともね」
「ふっきることも」
「必要よ。とにかく極端に気にしても」
それでもというのだ。
「仕方ないものよ。世の中小さな人も髪の毛が薄い人も体毛が濃い人も太り過ぎの人もいるから」
「コンプレックスはそれぞれなの」
「人それぞれよ。自分だけとも思ったら駄目よ」
「そう言うお姉ちゃんにもコンプレックスあるの」
「毛深いから」
それが姉のコンプレックスだというのだ。
「これはこれで苦労するから」
「私と同じなの」
「そうよ。背が高くなる様に努力することはいいことだけれど」
姉もそれは否定しなかった。
「色々とわかったりふっきったりすることも大事よ」
「そうしたものなのね」
「そうよ、じゃあお風呂入りなさい」
話が終わったところでだ、姉は妹にこうも言った。
「いいわね」
「あっ、次私なの」
「というか私がお風呂から出たから言ってるの」
今しがたというのだ。
「わかったら今からね」
「お風呂に入って」
「身体を奇麗にしなさい、身体は奇麗にしないと」
「背も大事だけれど」
「女の子が不潔じゃ問題外よ。そこもちゃんとしなさい」
「それじゃあね」
マサミは妹の言葉に頷いた、そうしてだった。
実際に風呂に入った、そのうえで身体を奇麗にした。そのうえで中学三年生なので受験の為の勉強にも励んだ。マサミがまだ中学三年生で人生はまだまだこれからという時の彼女なりにかなり悩んでいた時の話である。
一五〇位何だ 完
2018・8・22
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