虫でも好き
倉田陽菜子は変なものを集めることが好きで趣味にもしている、だがそんな彼女の嫌いなものは皆によく知られていた。
「あんた虫嫌いよね」
「どんな虫でも嫌いよね」
「蜘蛛とかダンゴムシもね」
「ええ、蜘蛛やダンゴムシは虫じゃないけれど」
陽菜子自身もこう答えた。
「虫みたいなものよね」
「はっきり言えばそうなのよね」
「蜘蛛やダンゴムシって生きものの分類で言うと虫じゃないけれど」
「正直言って虫よね」
「虫と一緒よね」
「あとゲジゲジとかムカデとかミミズも駄目なの」
そうした生きものもというのだ。
「どれも見ているだけで嫌になるわ、特にね」
「ああ、ゴキブリね」
「ゴキブリ嫌いね」
「そうよね」
「うち洋菓子屋さんでしょ」
陽菜子は自分の家のことも話した。
「だからあの虫はね」
「お店に出たらアウトだしね」
「もうその時点で」
「だからいつも退治してるのね」
「もう最初から出ない様に徹底して」
「そうしているわ、ゴキブリホイホイも退治する餌も用意しているしお店の中はいつも奇麗にしているから」
とかくゴキブリのことは徹底しているというのだ。
「蠅とか蟻もね」
「何かと大変ね、食べものやってるお店も」
「虫には要注意なのね」
「そうよ、もう虫は駄目」
それに近い生きものもというのだ。
「見たくもないわ」
「カエルとか蛇は平気でも」
「そういうのは駄目なのね」
「どうしても」
「カエルは虫食べてくれるじゃない」
この生きものについてはこう言うのだった。
「だからね」
「いいのね」
「カエルについては」
「そうなの」
「ええ、それに可愛いでしょ」
カエルについてはだ、陽菜子はあくまで好意的だった。
「私カエルのグッズも持ってるし」
「それで余計になの」
「カエルは好きなの」
「大丈夫なの」
「ええ、それで蛇はね」
陽菜子はこの生きものについては自分から話した。
「鼠食べてくれるじゃない」
「ああ、鼠も食べもののお店には困るわね」
「ゴキブリと同じで出たらアウトだから」
「その鼠を食べてくれるから」
「蛇もいいのね」
「それに皮を持ってたら」
蛇が脱皮する時のそれだ。
「金運アップするし私も持ってるわよ」
「実際に持ってるの」
「蛇って確かに商売繁盛のご利益があるっていうけれど」
「蛇の皮も持ってるの」
「ああしたものも好きだから」
変なものを集めることが好きというその趣味も見せるのだった。
「だから蛇はいいのよ」
「成程ね」
「だからカエルや蛇はいいのね」
「そっちの方は」
「そうよ。あと最近トッケイのぬいぐるみ買ったわ」
虫から離れてだ、陽菜子はこちらもだと話した。
「あの生きもののね」
「トッケイって何?」
「何の生きもの?」
「聞いたことないけれど」
「オオヤモリよ。東南アジアにいるの」
その地域にいる生きものだというのだ。
「トッケイ、トッケイって鳴くからこの名前になったの」
「そうなの」
「そんな生きものもいるの」
「それでその生きもののぬいぐるみもなの」
「買ったの」
「そうなの、これがまたいいのよ」
まさにという陽菜子だった。
「可愛くてね」
「ヤモリ可愛いの」
「そうかしら」
「ヤモリも気持ち悪くない?」
「ちょっとね」
「そうかしら。ああした生きものがね」
陽菜子は自分の言葉にいぶかしむ友人達に自分の趣味から話した。
「いいと思うけれど」
「虫とかは駄目でも」
「そうした生きものはいいのね」
「まあそこはね」
「人それぞれっていうけれど」
「陽菜子ちゃんもそういうことかしらね」
友人達は陽菜子の言葉を聞いてこう考えた、だがある日のことだった。
陽菜子は自分からだ、クラスで友人達に笑ってこんなことを言った。その言ったことはどういったものかというと。
「昨日水族館の動画観たのよ」
「ネットで?」
「そうしたの」
「ちょっとヤモリとかを観ていたら」
そうした生きものの動画をというのだ。
「水族館の動画もあったから」
「ああ、ユーチューブとかにあるわね」
「あそこ関連動画も画面の右に出るからね」
「そこに水族館の動画もあって」
「それで観たのね」
「そうなの、それで観たけれど」
水族館の動画をというのだ。
「いやあ、ダイオウグソクムシって面白いわね」
「えっ!?」
友人達は陽菜子の今の言葉に思わず全員こう声をあげた。
そしてだ、陽菜子に次の瞬間一斉に尋ねた。
「あんた今何言ったのよ」
「ダイオウグソクムシがいいって?」
「今そう言ったわよね」
「聞き間違いじゃないわよね」
「言ったわよ、深海生物の動画だったけれど」
その動画で観てというのだ。
「面白い生きものね、可愛いし」
「いや、あれ虫じゃない」
「生物学的には虫じゃないけれど」
虫即ち昆虫は頭、胸、腹に身体が三つ分かれていて足が六本ある生物だ、これから外れる生物は昆虫ではないのだ。
ダイオウグソクムシは足がかなり多い、誰がどう見ても昆虫ではない。だから友人達もそれはと言うのだ。
「けれどね」
「あれも似た様なものじゃない」
「ダンゴムシそっくりだし」
「というか深海にいるダンゴムシ?」
「そのままよね」
「そうよね」
「それであの生きものはいいって」
それはというのだ。
「おかしくない?」
「そうよね」
「ちょっとね」
「有り得ないわよね」
「いや、それでもよ」
陽菜子はいぶかしむ友人達にさらに話した。
「あの生きものいいって思ったの」
「その理屈がわからないわ」
「確かに変な生きものだけれど」
如何にも陽菜子が好きそうなだ、友人達もこうは思った。
だがそれでもだ、虫なのでだ。
「虫は虫でしょ」
「実際グソクムシっていうし」
「それでいいっていうのは」
「矛盾しない?」
「けれど深海にいて私達と会わないし」
それがないというのだ。
「ゴキブリやムカデと違って」
「まあそれはね」
「絶対にないわね」
「そんな深い海人間が普通には行けないし」
「あの生きもの自体まだよくわかっていないらしいし」
「水族館にいても何年も食べないとかね」
「そんな凄い話もあるし」
死んだ時調べると死因は餓死ではなかった、餌をやっても足でどけるまでで食事を何年も摂らずにそれだったのだ。
「色々不思議な生きものよね」
「実際に」
「深海って変な生きもの多いけれど」
「あの生きものは特によね」
「凄く変よね」
「興味を持たずにいられないわ」
本当にというのだ。
「これは」
「だからなの」
「好きになったの」
「そうなのね」
「ぬいぐるみとか売ってるらしいから」
それでというのだ。
「今度通販で買うわ」
「そうするの」
「虫大嫌いでも」
「あの虫についてはなの」
「いいのね」
「それでなの」
「ええ、絶対によ。今日家に帰ったら」
そうしたらというのだ。
「ネットで注文して」
「そうしてなの」
「そのぬいぐるみ買うの」
「ダイオウグソクムシのを」
「そうするわ」
こう言って実際にだった、陽菜子はダイオウグソクムシのぬいぐるみをネットで注文して買った。その数日後だった。
陽菜子は友人達に満面の笑顔で話した。
「ダイオウグソクムシのぬいぐるみ凄くいいわ」
「本当に買ったのね」
「あれも虫だと思うけれど」
「それはいいのね」
「ダイオウグソクムシの方は」
友人達はにこにことして言う陽菜子に応えた、彼女の好き嫌いや苦手がどうもわからなくなってだ。だが陽菜子は上機嫌だった。ダイオウグソクムシのぬいぐるみを手に入れることが出来て。
虫でも好き 完
2018・8・22
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