ピンクの戦車
 ピクトリア=パレットはその手に持っている魔法の筆で無機質のものなら何でも実態か出来る力を持っている、その力で自分の国を助けているお姫様だ。
 そのピクトリアのところにだ、国防大臣が困った顔で将軍や提督達と共に王宮でこんなことを言ってきた。
「兵器が古くなっています」
「戦車も戦闘機も軍艦もです」
「軍人はいるのですが」
「兵器がどうしようもなく旧式化していて」
「このままでは何かあれば」
「他の国が攻めてきたりモンスターが暴れれば」
 そうなった時はというのだ。
「どうすればいいのか」
「魔法使いだけで国は守れません」
「やはり兵器も必要です」
「ですがその兵器が」
「今我が国お金ないのよね」
 ピクトリアは大臣達のこのことから話した。
「災害が続けて起こってね」
「はい、そのせいで」
「そのせいで、ですね」
「災害救助と復興にお金を使って」
「国全体が被害を受けました」
「国民も困っていましたし」
「我々も災害救助に奔走しました」 
 災害救助には軍隊だ、その多くの人手と技術に物資を迅速かつ的確に運べて届けられる能力に組織力はこうした時には欠かせない。
「そしてそのせいで」
「今は国庫に余裕がないですね」
「ですから兵器については」
「予算が回らないですね」
「教育費と社会福祉費は減らせないし」
 このことはピクトリアの父である国王と母である王妃も言っている、勿論首相をはじめとした主な大臣達も議会もだ。
「それで軍事費は減らして」
「兵器まではです」
「回らなくなっていまして」
「今年度の予算で兵器を一新する予定でしたが」
「その分を災害救助と復興に回しています」
「ですから」
 兵器が旧式なままだというのだ、そしてそのせいでだ。
「国防に不安があります」
「それで姫様にお願いがあります」
「魔法の筆で兵器を出して下さい」
「最新型の兵器を」
「わかったわ」
 ピクトリアは大臣や軍人達に笑顔で答えた。
「じゃあまずは最新の兵器のカタログ読んでね」
「そうしてですね」
「兵器を描いてくれますね」
「そうしてくれますね」
「どんどん描くから、描けばね」
 それでというのだ。
「その兵器が実体化して使える様になるから」
「ではですね」
「早速ですね」
「カタログを読んで頂いて」
「描いて頂けますね」
「どんな兵器もどんどん描くよ」
 にこりとした笑みでだ、ピクトリアは大臣と軍人達に答えた。そうして今世界で最新鋭と言われている戦車や航空機、軍艦のカタログを読んでだ。
 これはという兵器をモデルにしてどんどん描いていった、戦車も戦闘機も軍艦もだ。
 気付けばピクトリアは国を守るに充分な兵器を描いていた、大臣達はこのことに喜んだ。
 実際に乗ってみて使ってみると性能もかなりのもので整備性も安全性もしっかりしている。これで国の安全は守られると確信した。
 しかしだ、大臣はピクトリアに残念そうにこうも言った。
「あの、描いて頂いたことは感謝していますが」
「どうしたの?」
「あの、兵器ですから」
 言いにくそうだがそれでも言うといった感じだった。
「それで」
「兵器だからなの」
「あの、姫様の好みは存じています」
 それはというのだ。
「我々も。ですが」
「あっ、戦車とかによね」
「フリルやレースを付けて」
 丁度ピクトリア達の横に戦車があった、確かに最新鋭の戦車だが。
 あちこちにフリルやレースが付いていてカラーリングはピンクだ、可愛いキャラクターの絵も描かれている。
 それは戦車だけでなく他の兵器もだ、それで大臣は言うのだった。
「ピンクで可愛いキャラクターを描かれていることは」
「駄目なの?」
「何と申しましょうか」
 難しい顔での返答だった。
「兵器にそれは」
「性能は確かだよ」
「それは存じていますが」
 それでもというのだ。
「兵器にフリル等は」
「駄目なの」
「女の子のお部屋にあるものではないので」
「いいと思うのに」
「宜しければ」
 大臣はピクトリアに言いにくそうなままさらに言った。
「フリルやカラーリングを本来のです」
「兵器のものにしてなの」
「そうして頂ければ」
 こう言うのだった。
「我々はより有り難いですが」
「けれどこのフリルや色がね」
 それがとだ、ピクトリアは大臣に話した。
「魔力が備わっていて」
「それで、ですか」
「敵のレーダーを妨害したり防御力を高めているから」
 ピクトリアは趣味で描いたがそうした力も加えていたのだ。
「それがなくなるとね」
「兵器の性能が落ちますじゃ」
「そうなるわよ」
「そうですか」
「だから普通の色とかにしたら」
 ピクトリアの好きなフリルやレースを取り除くこともしてだ。
「よくないわよ」
「そうなるのですか」
「それでいいのならするけれど」
「性能が落ちるのなら」
「魔力で速度や機動性も上がってるけれど」
「それでは」
 大臣は致し方ないという顔になってだ、そしてだった。
 ピクトリアが描いたまなでいた、かくしてこの国の兵器はピンク等の可愛い色で可愛いキャラクターが描かれフリルやレースが付いた乙女チックなものになったが。
 性能自体は素晴らしくモンスター退治にも賊の征伐にも活躍しおかしな国も警戒して手出しをしなくなりこれまで以上に平和になった。
 それで大臣は将軍や提督達に首を傾げさせながらも言った。
「確かに兵器の外観は平気らしくないが」
「それでもですね」
「性能はよくなっていますから」
「それなら」
「これでいいですね」
「そうなるな、姫様のご趣味は兵器に合わないところもあるが」
 それでもというのだ。
「性能がいいのならな」
「それでいいですね」
「兵器は性能が第一ですから」
「それなら」
「このままでいこう」
 こう言ってピクトリアが描いた兵器をそのまま使っていくのだった、フリルやレースが付いた可愛いカラーリングの兵器達を。そしてこうした兵器達が他国の注目を集め観光資源となるのだから彼等は余計に驚き困惑するがそれはまた別の話である。


ピンクの戦車   完


                    2018・8・23

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