草原のメイド
アバク=バヌバジェニ=エポニーは平原が多い地域即ち草原にいる種族の娘ある。ケンタウロスによく似た外見が特徴だ。
アバクは今はある屋敷でメイドを務めているがこの屋敷には人間以外のメイドの種族もいる。それでダークエルフのメイド長が言うのだった。
「当家の旦那様は差別はされないのです」
「だからですか」
「はい、人間族のメイドもいれば」
「私達みたいに」
「人間以外の種族のメイドもいます」
こうアバクに言うのだった。
「私然り」
「メイド長さんはダークエルフでも」
「そうです」
人間以外の種族だが、というのだ。
「メイドとして優れていれば」
「それでなんですか」
「メイドとして使って頂けます」
「普通人間族の人が雇うメイドさんは」
「そうです、人間ですが」
自分と同じ人間を雇うというのだ。
「それでもです」
「この屋敷の旦那様は違うんですね」
「ですから私もメイド長です」
ダークエルフだがというのだ。
「そうなのです」
「ううん、ひょっとして」
ここでだ、こんなことを言ったアバクだった。
「愛人とか」
「雇ったメイド達をですか」
「そうした人ですか?」
「よくそうした人いますよね」
「実際はそうはいないと思います」
これがダークエルフの返事だった。
「そうした人は」
「そうですか」
「がい、そしてこの屋敷の旦那様もです」
「そうした人じゃないですか」
「誰にもそういうことはされないです」
「随分立派な人なんですね」
「はい」
その通りという返事だった。
「ですから安心するのです」
「わかりました、それでは」
「それではですね」
「これから貴女もです」
「この屋敷で、ですね」
「頑張って下さい」
こうしてだった、いい部屋と副に食事もだ。
アバクは貰ってそうして働きだした、彼女のメイドとしての働きぶりはよかったが問題はその身体った。
ケンタウロスの様に下半身は馬だ、馬の身体で首のところに人間の上半身が出ている形になっている。
それで何かと他の種族とは違う生活様式で行動になっているが。
家の主は普通にだ、こう言うだけだった。
「ケンタウロスの人もいるからな」
「だからですか」
「構わないのですか」
「何か問題があるかい?」
知人達にも平然として言った。
「普通に働いてくれているのに」
「だからですか」
「問題ないですか」
「それで」
「全くね」
何もという返事だった。
「ないよ、だからね」
「エボニ―族の娘でもですか」
「雇って働かせている」
「そうなのですね」
「そうだよ、何の問題もないよ」
あくまでこう言うだけだった、そしてアバクもその話を聞いてだった。
仕事の合間にだ、メイド長であるダークエルフにこの話をしたのだった。
「この馬の下半身の身体でも」
「旦那様はですね」
「何の問題もないってお考えなんですね」
「ゴブリンや魔族のメイドもいますね」
「翼人や蛙人の人も」
「どの種族もそれぞれ特徴があります」
それも大きなだ。
「かく言う私にしましても」
「ダークエルフだから」
「そうです、エルフの亜種ですが」
種族的にはそうなっている。
「この漆黒の肌と銀色の髪が異端視されていました」
「そうだったんですか」
「エルフには差別する人もいます」
ダークエルフ達をというのだ。
「そして人間からもです」
「ダークエルフって差別されるんですか」
「はい」
その通りだというのだ。
「そうした人がいます」
「あの、メイド長さん凄い美人さんですが」
漆黒のツヤのある肌に銀色のさらりとした長い髪、切れ長の緑の瞳とだ。スタイルもよく抜群の美貌である。
「それでもですか」
「肌や髪の毛の色、そして種族が違うので」
「だからですか」
「同じ種族の間でもありますよ」
「ダークエルフの人達の間でも」
「そうです、ですが」
そうした差別があるがというのだ。
「旦那様はです」
「差別はされずに」
「メイドとして優れていれば」
そうであるならというのだ。
「それで、です」
「雇ってくれるんですね」
「素晴らしい人だとわかりますね」
「私もよくしてもらっています」
綺麗な二人部屋に住ませてもらっている、食事は三食しっかりとしたものが出て服も提供してもらっている。入浴も洗濯も毎日出来る。生活に苦労していない。
「他の皆と一緒に」
「そうですね、ですが」
「あっ、さっき言いましたね」
「そうですね、世の中にはです」
「旦那様の様な方もいれば」
「差別する人もいます」
それを行う者もというのだ。
「そしてです」
「私達の中にはですね」
「差別されている人もいます」
そうだというのだ。
「私達は旦那様にお会い出来て幸せなのです」
「いい御主人様に雇ってもらって」
「そうなのです。しかし世の中には」
「差別を行う人もいる」
「このことはわかっておいて下さい」
アバクもというのだ。
「いいですね」
「何か実感出来ないですが」
それでもとだ、アバクは考える顔になってだ。
ダークエルフの言葉に頷いた、そしてだった。
アバクは屋敷のメイドとして働き続けた、その中で外に買い出しに出た時にだ。
彼女が店に入ってだ、髪の毛は丸坊主にしていて鋭い嫌な目をした猿の様な顔の如何にも品がなさそうな人間族の店員がこう言ってきた。
「御前何やねん」
「はい、私はです」
アバクは自分の身分をすぐに話した。
するとだ、その店員はこう言った。
「あの屋敷の人やとしゃあないわ」
「しゃあないといいますと」
「エボニーでもや」
それでもというのだ。
「しゃあないわ、そやからな」
「そやから、ですか」
「うちの店のもん売ったるわ、感謝せえ」
こう言ってアバクにものを売った、正直アバクはその店員に悪い印象を持った。それでダークエルフにこのことを話すと。
彼女は暗い顔になってだ、アバクに話した。
「それが差別です」
「私があの店員にされたことが」
「はい、差別です」
それに他ならないというのだ。
「それなのです」
「差別はあれなんですね」
「あのお店の店員ですか」
ここでこうも言ったダークエルフだった。
「まさかあのお店にそうした店員がいるとは」
「新入りの人みたいですね」
「調べてみます、丸坊主で目つきの鋭い猿みたいな顔の店員ですか」
「はい、そうです」
「喋り方は西の方の方言で」
「そんな人でした」
「わかりました」
ダークエルフはアバクの言葉を受けて調べた、そしてわかったことは。
元ボクサーでボクサー時代から素行と品性の悪さで有名な男だった、それで店でも何かと問題を起こしていた。
そして彼女が調べた時にはもう解雇されていた、それでダークエルフはアバクに言った。
「もうお店にいないそうなので」
「気にしなくていいですか」
「はい、ですが」
それでもと言うのだった。
「世の中にはです」
「ああした人がいることもですね」
「覚えておいて下さい」
「旦那様みたいに分け隔てしない方もおられれば」
「あの店員の様に」
まさにというのだ。
「差別する人もです」
「いるんですね」
「どの種族でもそうした人がいます」
ダークエルフは自分の過去の経験からも話した。
「このことはです」
「私もですね」
「よく覚えておいて下さい」
「わかりました」
確かな顔でだ、アバクはダークエルフの言葉に頷いた。そうしてメイドとしての仕事を続けていった。
やがて彼女はメイドをしつつ差別を訴える様にもなっていく、このことについては彼女の経験が大きかったことは言うまでもない。差別をしない人とする人、両方を知ったからこそ。
草原のメイド 完
2018・8・25
ミラクリエ トップ作品閲覧・電子出版・販売・会員メニュー