昼寝三昧
五徳ねこは一見すると普通の猫だ、だがその正体は二百年生きている妖怪だ。尻尾は一本なので普通の猫にしか見えないので誰も気付かないのだ。
しかし彼の古くからの友人である犬神はよく彼のところに来て彼とお喋りをしてその時にこう言った。
「いや、あんたまただね」
「妖力が強くなったっていうんだね」
家の縁でだ、五徳ねこは犬神に応えた。犬神も彼が居候している山田さん一家の隣の鈴木さん一家の飼い犬になっているので庭の壁越しによく話せるのだ。五徳ねこは今は山田さん一家の家の壁の上に寝転がっている。
「そうだっていうんだね」
「ああ、長生きするとな」
「それだけ妖力は増すからな」
「実際にそうなったね」
「そうだね、わし自身わかるよ」
五徳ねこ自身もというのだ。
「そのことがね、しかしね」
「妖力が強くなってもか」
「今のわしにはあまり関係ないよ」
壁の上に寝転がったまま言うのだった。
「何しろね」
「今のあんたは飼い猫だからね」
「御前さんと同じだよ」
一見すると只の白い秋田犬に見える犬神と、というのだ。
「普通の人が見たらね」
「わしも只の飼い犬だな」
「そしてわしもだよ」
「飼い猫ってことか」
「只のな。鼠だっていないしな」
山田さん一家の家にはというのだ。
「御飯を貰って食べてトイレして寝るだけのな」
「飼い猫か」
「あんただってそうだろ」
「わしはいつも散歩に連れて行ってもらってるぞ」
犬神はそうだと返した。
「犬だからな」
「ははは、犬は散歩しないとな」
「駄目だからな」
犬として絶対のことだというのだ。
「そうしているけれどな」
「あんたは猫だからな」
「昼寝しかしてないな」
「ずっとそうにしてもな」
「だから妖力が強くなってもな」
「あまり気にしていないんだな」
「そうだよ」
実際にというのだ。
「これからもクーラーの効いた家の中に戻って」
「そうして寝るか」
「ふかふかのクッションの上でな」
「本当に気楽なもんだ、しかし」
「気楽な方がいいだろ、わし等が」
「わし等が妖力使う時はな」
それこそとだ、犬神も五徳ねこに言った。
「わし等自身が危ない時か」
「居候させてもらっている人達や家が危ない」
「そんな時だからな」
それ故にというのだ。
「そんなの使わない方がいいさ」
「それに越したことはないな」
「だからわしはな」
「昼寝ばかりしていられてか」
「本当にいいよ」
今のこの状況がというのだ。
「こんないいことはないさ」
「そうだな、じゃあ今からか」
「家の中に戻って」
今言った通りにというのだ。
「寝るよ」
「ぐっすり寝るか」
「気持ちよくな」
「寝ることが一番いいか」
「こんないいことはないさ」
睡眠こそがとだ、五徳ねこは犬神に笑って話した。
「あんただってそうだろ」
「ああ、もう一日どれだけ寝てもな」
それこそとだ、犬神も応える。
「明日になればな」
「また寝たくなるよな」
「それだけ寝るのが好きだよ」
「だからな」
それ故にというのだ。
「わしは今からも寝るさ」
「そうか、じゃあな」
「また明日な」
別れの言葉を最後にしてだった、五徳ねこは自分が今住ませてもらっている家に入った。そうしてクーラーが効いた部屋の柔らかいクッションの上に寝転がって。
そのまま寝た、すると暫くしてだった。
山田さんの家の子供達が部屋に入ってきてその五徳ねこを見て笑顔で話した。
「あっ、またミー寝てる」
「このクッションの上に」
「本当にこのクッション好きだな、ミーって」
「他にもクッションあるのに」
それでもというのだ。
「最近寝るのはこのクッションの上ばかりで」
「完全に占領してるよ」
「仕方ないな、別のクッション使おうか」
「私もね」
こう話してだった、子供達は五徳ねこをそのままにしてだった。
自分達のクッションを選んでそれぞれその上に座ってゲームをしだした。五徳ねこは子供達の遊ぶのを寝ながら聞いてだった。
夜になるとだ、一家の奥さんにこう言われた。
「ミーちゃん、御飯よ」
「おっ、飯か」
五徳ねこはこう言ったが人間にはニャッ、としか聞こえない。
「じゃあ食うか」
「今日はキャットフードよ」
「ああ、あれか」
あっさりとした反応だった。
「あれはな」
「好きよね」
「まあな」
心の中で呟いた。
「嫌いじゃないさ、けれどな」
「お刺身は明日よ」
「それだよ」
まさにと思った。
「わしが好きなのな」
「明日うちお刺身にするから」
「その時にだよな」
「あんたも出すから」
奥さんは五徳ねこに家の猫として笑顔で話した。
「楽しみにしていてね」
「わかったよ、明日な」
「じゃあ今日はね」
「キャットフード頂きます」
五徳ねこは猫の言葉で述べた。
そしてそのキャットフードを食べた、そうして食べてからまた寝ることを楽しむのだった。
昼寝三昧 完
2018・8・25
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