キョンシーの正体
 LOST=GF、ロストジーエフは相棒と彼の妹が仕事に出ている間に急な仕事を受けた、仕事を持ってきたのは中華街の老人だった。
 老人は彼にだ、困った顔でこう話した。
「これは内密のことじゃが」
「はい、秘密は守ります」
 ロストは探偵としての守秘義務を約束した。
「絶対に」
「なら頼む、実は中華街で近頃」
「何があったのでしょうか」
「キョンシーが出てな」
「キョンシーですか」
「うむ、知っておるな」
「中国の吸血鬼ですね」
 キョンシーと聞いてだ、ロストは老人に即座に答えた。
「屍が動きそうして」
「そうじゃ、中国にも吸血鬼がおってな」
「そうしてですね」
「夜な夜な街に出てな」
 そうしてというのだ。
「人を襲っておる」
「血を吸われた人はいませんか」
「幸いまだおらんが」
 しかしと言うのだった。
「何時出て来てもおかしくはない」
「そうした状況ですか」
「だからじゃ」
「僕にですね」
「解決を依頼したいのじゃが」
「わかりました」
 快諾を以てだ、ロストは老人に答えた。
「それでは」
「すぐにじゃな」
「中華街に向かいましょう」
「頼む、もう街の者達は恐れてな」
 そのキョンシーをだ、
「夜誰も出なくなった」
「襲われてはたまったものではないですからね」
「道士の餅米や桃やお札も効かぬ」
「キョンシーなのにですか」
 その話を聞いてだ、ロストの眉が動いた。
「それでもですか」
「うむ、しかもな」
 老人はそのキョンシーの話をさらにした。
「ウイグル辺りの血を引いているのか赤い髪で目が青い」
「赤髪で碧眼ですか」
「しかも空を飛ぶ」
「空もですか」
「随分位の高いキョンシーじゃな」
 キョンシーは歳を経ると妖力が高まりそうしたことも出来る様になるのだ、そしてさらに強くなっていくのだ。
「どうも」
「わかりました、では」
「今日からか」
「今夜終わらせます」
 まさにと答えてだ、ロストはこの日の夜に中華街の入り口で老人と会うことを約束した、キョンシーは夜の二時に出ると聞いたのでそれよりも前の十二時に落ち合うことを約束したのだった。そうしてだった。
 老人は夜の十二時にロストと会ったが。
 彼は鎌と多くの大蒜を持っていた、老人はそれを見て怪訝な顔で言った。
「キョンシーはのう」
「はい、餅米にですね」
「桃とお札が弱点じゃ」
「そして鶏の血ですね」
「知っておるではないか、鎌や大蒜はな」
「効果がないですね」
「大蒜はドラキュラ伯爵ではないのか」
 こちらではないかというのだ。
「違うか」
「そうですね、ですが」
「この度はか」
「この二つで充分です」
 こう言ってだ、彼は老人と共にだった。
 中華街の中で二時になるのを待った、そしてだった。
 二時になると街の道に出た、するとキョンシーの恰好である清代の死者の服である満州民族の服を着た男が夜空に出て来た。
 見れば髪の毛は赤く目は青い、死者の青白い顔をしていたが。
 その赤髪と碧眼を見てだ、ロストは内心確信した。そうして自分達を見付けて急降下して襲おうとしてくるキョンシーに。
 大蒜を投げつけた、するとキョンシーはその大蒜を身体に受けてその受けた部分から煙を出して焼かれ苦しみだした。
 苦しむ動きを止めた瞬間にだった、ロストは跳び上がり。
 キョンシーの身体に下から掴みかかり自分の力で風を出して。
 空を風の力で自由に飛びキョンシーごと急降下して吸血鬼の身体を地面に背中から叩き付けその身体に馬乗りになり。
 心臓に鎌を突き立てた、それも一度ではなく。
 二度そうした、するとキョンシーはすさまじい呻き声を挙げてその場で動かなくなった。それからその身体を灰にして風と共に消え去った。後には満州民族の服だけが残った。
 その一部始終を見てだ、老人は立ち上がったロストに尋ねた。
「今のは」
「はい、実はこのキョンシーはキョンシーでなかったのです」
「まさか」
「いえ、そのまさかです」
 ロストは老人のところに来て話した。
「この吸血鬼は別の種類の吸血鬼です」
「というと」
「ストリゴイイという吸血鬼です」
「ストリゴイイ?」
「東欧の方の吸血鬼です」
「ああ、あそこはのう」
 東欧と聞いてだ、老人も言った。
「吸血鬼の本場じゃな」
「とかく吸血鬼のお話が多いですね」
「さっきわしはドラキュラ伯爵を話に出したが」
「そのドラキュラ伯爵もそうですし」
「他にもじゃな」
「様々な吸血鬼がいまして」
 それでというのだ。
「この吸血鬼もです」
「そのうちの一つか」
「そうなのです」
「それがストリゴイイか」
「赤髪と碧眼、空を飛ぶことがその特徴です」
「だからあんたはその話を聞いてか」
「キョンシーではないと思いました、桃や餅米が通じないとも聞きましたし」
 このこともあってというのだ。
「キョンシーならです」
「うむ、餅米とかが効くな」
「その筈ですし赤髪で碧眼と聞いて」
 それでというのだ。
「若しやと思ったのです」
「そうだったのか」
「心臓が二つあり大蒜と鎌が苦手で」
「だからその二つを用意してきたのか」
「はい、そのうえで退治しました」
「ううむ、そうだったか」
「そして心臓が二つあるので」
「二回鎌で胸を突き刺したか」
「そうしました」
「成程のう、しかし」
 ここまで話を聞いてだ、老人はロストに首を傾げさせて尋ねた。
「東欧の吸血鬼が日本、そして中華街におるとは」
「日本も今では世界中から人が来ています」
「それで東欧からもか」
「人が来ています、そして」
「そしてか」
「東欧、ルーマニアからも」
「人が来ておってか」
「人が来ていてです」
 そしてというのだ。
「人が来ているならです」
「妖怪、吸血鬼もか」
「来ているのです」
「それでか。しかし何故じゃ」
 ストリゴイイが来るのはわかった、だが。
 それ以上にだ、老人はまだわからないことがあった。それはというと。
「キョンシーの恰好をしておったのじゃ」
「それはです」
「どうしてかわかるのか」
「化けていたのでしょう」
 ロストは老人に自分の見立てを話した。
「キョンシーに。キョンシーに化けていますと」
「皆キョンシーの退治の仕方をしようとするな」
「そうします、その辺りは知恵を使ったのでしょう」
「吸血鬼にもそんな知恵があるか」
「人間ですから。元は」
「だからか」
「はい、人間並に知恵も使います」
 吸血鬼、ストリゴイイの方もというのだ。
「そして悪知恵もです」
「使うか」
「そういうことでしょう」
「成程のう。しかしよく退治してくれた」
 老人は彼へ礼儀も述べた。
「報酬は沢山振り込んでおくな」
「では」
「そしてここに寄れば」
 中華街にというのだ。
「思いきり美味いものを食わせてやるぞ」
「そうしてくれますか」
「明日にでも来るといい」
「そうさせてもらいます」
 ロストは微笑んで応えた、そうしてだった。
 今は夜の中華街を後にした、普段は赤く賢覧ですらあるこの街は今は夜の闇に包まれ静香だった。その中今は仕事を終えて休息に入る為に家に帰るのだった。


キョンシーの正体   完


                 2018・8・28

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