漫画家の妹
 綿民未穂の姉は漫画家をしている、だが漫画家であると共にまだ大学生でありそちらも忙しい状況にある。
 しかも漫画家として売れっ子で連載をストーリーもの二本に四コマも持っていてとにかく多忙だ、しかも今回は。
「イラストのお仕事もなの」
「頼まれてね」
 姉は家で未穂に話した、目の下のクマが多忙さを物語っている。外見は妹とは正反対で眼鏡の知的な顔立ちで黒髪ロングにすらりとした長身だ。彼女は父親似で未穂は母親似なのだ。
 その姉がだ、こう言うのだった。
「出版社に。しかも原稿料よかったし」
「受けたの」
「そう、ラノベのイラストね」
「じゃあこれからはそっちもなの」
「描くわ、けれどね」
「お姉ちゃん今連載三つ持ってるわよね」
「今度読み切りも描くわ」
 そちらの仕事もあるというのだ。
「それで大学の方もね」
「あの、大丈夫?」
 未穂はここまで聞いて姉に問い返した。
「お仕事も大学も」
「正直に言うとね」
「辛いの?」
「アシスタントさん欲しいわ」
 これが姉の返事だった。
「実際ね」
「そうなの」
「ええ。冗談抜きで募集しようかしら」
 本気で検討していた。
「これからね」
「募集してそして」
「助けて欲しいけれど募集しても」
「今のお仕事には」
「間に合わないし」
「連載三本と読み切りと」
「イラストね。同人誌の方もあるし」
 仕事ではないがこちらもあるというのだ。
「だからね」
「もう今大変なのね」
「徹夜覚悟よ」
「徹夜はよくないわよ」
 未穂は姉を気遣ってそれはと言った。
「やっぱり」
「身体に悪いわよね」
「凄くね」
 言うまでもなくとだ、未穂は姉に答えた。
「だからそれだけはね」
「これまでしたことないから」
 その徹夜はとだ、姉も答えた。
「私だって」
「受験の時もよね」
「これまで締め切りが幾ら大変でも」
「寝てはいたわよね」
「少しでもね」
「そうよね」
「私だってしたくないわ。けれどね」
 今回ばかりはというのだ。
「もうね」
「そうも言っていられないのね」
「今の状況はね」
「そんなに大変なの」
「大学は出るわ」
 これは絶対だった。
「ただ。もう電車の中でもね」
「描くしかないのね」
「一ページでも多く仕上げないと」
 切羽詰まった、まさにその顔での言葉だった。
「本当にそんな状況だから」
「それでお家に帰ったら」
「もうお風呂も御飯もね」
 生活、それもというのだ。
「徹底的に削って」
「それでなの」
「描いていかないと」
「そこまでしないとなの」
「正直どうにもならないわ」
「じゃあね」
 それならとだ、未穂は姉に心から気遣う顔で提案した。
「私がお手伝いしていい?」
「アシスタントしてくれるの?」
「そうしていい?」
 もう申し出たのだった。
「それなら」
「あんたこれまでも私のアシスタントしてくれたけれど」
 時々だ、姉の仕事を手伝ってきたのだ。未穂はお手伝いは結構万能タイプで漫画のアシスタントも出来るのだ。
 それでだ、未穂もこう申し出たのだ。
「だからなの」
「うん、そうしていい?」
「いいけれど大変よ」
 姉は未穂に真剣そのものの顔で問い返した。
「今回はね」
「大変だから」
 それ故にというのだ。
「どうかなって思ったけれど」
「そう。それじゃあ」
「そうしていい?」
「お願いするわ」
 姉にしても冗談抜きで忙しい、それならだった。
「特にね」
「特に?」
「お風呂の時も」
 この時もというのだ。
「私は身体洗うから髪の毛お願いね」
「洗ってあのね」
「洗って乾かして」
 そちらもして欲しいというのだ。
「正直髪の毛洗って乾かすのも大変でしょ」
「女の子はね」
「だからよ。あんたも長いけれど」
 自分の黒髪のロングへアを右手で触りつつだ、姉は妹に言った。
「それでもね」 
「ええ、じゃあね」
「お願いするわね」
「お風呂の時もね」
「アシスタントはね」
 姉は漫画の方の話もした。
「出来ることでいいから」
「それだけでいいの」
「それだけで全然違うから」
 未穂にそうしたことをしてもらうだけでもというのだ。
「だからね」
「わかったわ、じゃあね」
「お願いするわね」
「漫画、全部描こうね」
「イラストもね」
 こうしてだった。未穂は今度は姉の仕事を手伝うことになった。姉は早速漫画とイラストの方にかかった。
 未穂を自分の部屋に呼んで描いていく、そうしつつだ。
 妹にだ、こう言った。
「CGの方はね」
「もうCG描きにして随分よね」
「こっちが楽だから」
 それでというのだ。
「だからね」
「今はこれで描いているのね」
「そうよ、他の人は知らないけれど」
「お姉ちゃんはね」
「こうして描いているの」
 パソコンを使ってというのだ。
「Gペンや消しゴムはね」
「使わないのね」
「そう、だからあんたにもね」
「パソコンを使って」
「これまで通り描いてもらうわ」
「それじゃあね」
 未穂は頷いた、そしてだった。 
 彼女も姉の原稿を手伝った、姉は彼女のパソコンに自分の原稿を送ってそのうえでだった。仕事を手伝ってもらった。
 未穂は仕事をこなしていく、一緒にお風呂に入っても。
 姉の髪の毛を洗って乾かす、それだけでだった。
「時間がね」
「かなりよね」
「短縮出来て」
「お風呂にも入られて」
「それでね」
 こう未穂に言うのだった。
「気分転換も出来て」
「漫画を描くことが出来るわね」
「効率よくね。それでね」
「今日寝られそう?」
「少しだけれど」
 時間にして二時間でも三時間でもというのだ。
「出来そうよ」
「よかったわ。じゃあね」
「寝ないと駄目よね」
「寝てね」
 そしてというのだ。
「そうしてね」
「身体も休めもして」
「そしてよね」
「漫画描いてね。お風呂に入らない寝ないじゃ」
「よくないからね」
 姉もwかあっているのだ、このことは。
「だからね」
「そう、じっくり寝てね」
「そうさせてもらうわね、少しでも」
「ええ。幾ら大変でも」
「お風呂に入って気分転換をして」
「寝て休んでね」
「描いていくわね」
 妹に髪の毛を洗ってもらいながら言った、自分も妹の髪の毛を洗おうとしたがその間に身体を洗っていてくれと言われて止めた。
 それでお風呂から出ると髪の毛を拭いて乾かしてもらってからだった。
 パジャマを着てまた描いた、そうした日が続いてだった。
 どの仕事も締め切り前に出来た、それで姉は未穂に言った。
「有り難う、あんたのお陰でね」
「お仕事出来たのね」
「ええ、無事にね」
「それはよかったわ」
 未穂は姉の言葉に微笑んで返した。
「締め切りに間に合って」
「漫画の連載もイラストも同人誌もね」
 その全てがというのだ。
「終わったわ、それでね」
「それで?」
「お礼をさせてもらうわね」
「そんなのいいわよ」
「よくないわ。今回はあんたのお陰で助かって」
 それでと言うのだった、遠慮する妹に。
「ほっと出来たから。だからね」
「お礼をなの」
「美味しいもの食べに行きましょう」
 これが姉の言うお礼だった。
「あんたの好きなもの何でもね」
「食べさせてくれるの」
「好きなだけね。お金は私が出すから」
「それじゃあ」
「好きなの言って」
「それならね」
 未穂は姉の気持ちを受け取った、そしてその気持ちを汲もうと思ってだ。
 今自分が食べたいものを告げた、すると姉はすぐに彼女をそのお店に連れて行った。そのうえでお礼をした。


漫画家の妹   完


                   2018・8・28

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