怖いお客さん
 家の主は飼い猫である戸田ケーコにある休日の朝言った。
「今日お客さんが来るから」
「私の知らない人?」
「だからね」
 人見知りのミーコに事前に話そうと思って今実際に話していた。
「あまり近寄らない方がいいよ」
「うん、わかったよ」
 ミーコは主の言葉に笑顔で応えた。
「そうするね」
「まあお会いしてもいいけれどね」
「そうなの」
「うん、ただね」
「ただ?」
「悪い人じゃないから怖がらないでね」
 このことも言うのだった。
「いいね」
「私人見知りするしね」
「だから言うんだよ、ミーコに怖がられたら」
 そうなればというのだ。
「その人も悲しむから」
「だからだね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「気をつけてね」
「怖がらない様にするよ」
 こう言ってだ、そしてだった。
 ミーコはお客さんを怖がらない様にした、だが。
 十時位に来たそのお客さんを見てだ、ミーコは思わず飛び上がってしまった。そのうえで家の主に問うた。
「ご主人、大変だよ!」
「ああ、お客さん来てくれたね」
「あれお客さんじゃないよ!」
 こう言うのだった。
「絶対に!」
「いや、お客さんだよ」
「だってあの人」
 パンチパーマにサングラス、顔に向こう傷にだ。
 派手な柄のネクタイに赤いシャツ、白スーツに白エナメルの靴に首には金のネックレスに金時計にだ。肩をいからせて手はズボンのポケットにある。
 そしてあちこちに睨むを利かせる仕草を見てだ、ミーコは言ったのだ。
「ヤクザ屋さんだよ」
「ああ、外見だけだよ」
 主はまだ笑って言った。
「あの人は」
「本当?」
「図書館の学芸員さんなんだ」
「嘘だよね」
 ミーコは主のその言葉に即座に否定で返した。
「それは」
「いや、趣味は読書と音楽鑑賞、アニメの視聴でね」
「お酒とギャンブルと女遊びじゃないの」
「お酒は好きだけれど煙草しないんだ」
「危ないお薬売ってない?」
 ミーコは自分の知識から主に言っていった。
「そうじゃないの?」
「全然違うから」
「あの、背中に奇麗な刺青とか」
「ないよ」
「嘘だよね」
「いや、嘘じゃないから」
 そこは否定する主だった」
「僕嘘言わないよね」
「それでも」
 その外見を見ればというのだ。
「絶対にあの人は」
「ミーコあの人を外見で判断してない?」
 主もこのことに気付いた。
「それはあまりね」
「いや、どう見たってじゃない」
 古典的なまでにというのだ。
「あの人そっちの人だよ」
「だから人は外見で判断したらいけないよ」
 こうミーコに言うのだった。
「それはよくないよ」
「いや、外見だけ見たら」
 まだ言うミーコだった、外見が如何にもであり過ぎたのでだ。
「どうしても」
「だといいけれど」
「紳士だよ、お花もお茶も嗜んでいるしね」
「本当かしら」
「本当だよ、じゃあね」
 主はまだいぶかしむミーコにさらに話した。
「これからその人と御飯食べるから」
「うちでなの」
「その前にお茶も飲んでお話をして」
「御飯何なの?」
「外でバーベキューを焼いてね」
 そしてというのだ。
「食べるんだ」
「バーベキューなの」
「ミーコのお肉も焼くから」
 主はミーコににこりとしてこちらの話もした。
「楽しみに待っていてね」
「それじゃあね、あとね」
「あの人もだね」
「どんな人か見せてもらうね」
 こう言ってだ、そしてだった。
 ミーコは実際にだ、その筋の人にしか見えないお客さんを見ることにした。するとその人の態度はというと。
 外見は確かにそう見える、だが。
 物腰は落ち着いていて紳士的でだ、口調もだ。
「はい、私もです」
「私って」
 穏やかで礼儀正しい、見れば仕草も普通にだ。
 その筋に見えないと思っていると主との会話に入るとだ。
 紳士的になった、それでミーコは思わずお客さんがトイレに行った時に主のところに来て尋ねてしまった。
「あの、あの人」
「紳士だね」
「凄く。けれど」
「外見はだね」
「あんなに怖そうなのに」
「だから怖そうなのはね」
 それはというのだ。
「外見だけでね」
「実際はなの」
「凄く礼儀正しくて大人しくてね」
「いい人なの」
「そうなんだ」
 それが今日の客人だというのだ。
「温厚で謙虚でね」
「そんな人なの」
「しかも愛妻家で子煩悩でね」
「奥さんいるの」
「凄く奇麗な奥さんがね」
「ああした人の奥さんって」
 ミーコのイメージではだ。
「派手で胆の据わった」
「そうした人だね」
「うん、いざとなればドス出す様な」
 それこそというのだ。
「そうした人って思っていたけれど」
「けれどなんだよ」
「凄いなんだ」
「可愛い感じの人でね」
「奇麗なのね」
「そうだよ」
「信じられないけれど」
 どうにもという顔でだ、ミーコはまたこうも言った。
「そうなのね」
「そうなんだよ」
「じゃあご主人とも」
「凄くよくしてもらってるよ」 
「怖くないのね」
「高校時代同級生で」
 それでというのだ。
「物凄く助けてもらったよ」
「そうだったの」
「いつもね」
「ううん、嘘みたいだけれど」
「だから僕は嘘は言わないから」
 このことをまた言う主だった。
「本当にいい人だよ。ミーコも見ていて思ったね」
「それはね」
 かく言うミーコ自身もだった、このことは。
「凄くね」
「いい人だね」
「礼儀正しくて」
「そうした人だから家にもね」
「呼んだんだね」
「そうだよ、じゃあ後でバーべーキュー焼くけれど」
「私もだね」
「さっき言ったけれど」
 それでもまた話すというのだ。
「ミーコの分も焼くから」
「うん、じゃあね」
「楽しみにしていてね」
「わかったよ」
 ミーコは主に笑顔で頷いた。
「それじゃあね」
「それを食べてね」
「そうさせてもらうね」
「あの人と一緒にね」
「うん、けれどね」
 ミーコはその人を見つつまた主に言った。
「人は外見によらないね」
「見掛けにだね」
「うん、怖そうでも」
 それでもというのだ。
「それでもね」
「凄くいい人もいるんだよ」
「じゃあこの人がまた来たら」
 その時のことをだ、ミーコは今から話した。
「一緒にだね」
「今日みたいにしてね」
「楽しく過ごすのね」
「これからバーベキューも焼くし」
 そして食べるというのだ。
「むしろこれからだね」
「本当に楽しくなるの」
「そうだよ、お酒も飲んでね」
「私お酒はいいから」
 ミーコは猫だ、身体はかなり人間の要素が出ていて言葉も喋られるがそれでも酒は飲めない。それで今もこう言ったのだ。
「ご主人はビールが好きだけれどね」
「うん、だからね」
「私にはよね」
「牛乳をお願いね」
「わかっているよ、それじゃあね」
「ご主人とあの人はビールで」
「うん、それじゃあね」
 それでというのだ。
「バーベキュー楽しもうね」
「今からね」
 ミーコは主の言葉に笑顔で頷いた、そうしてだった。
 お客さんも入れて三人で家の庭でバーベキューを楽しんだ、それからミーコはこのお客さんが家に来ると喜ぶ様になった。その人がいい人とわかったので。


怖いお客さん   完


                  2018・8・29

作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov153555216149934","category":["cat0800","cat0008","cat0016","cat0018"],"title":"\u6016\u3044\u304a\u5ba2\u3055\u3093","copy":"\u3000\u5bb6\u306b\u5982\u4f55\u306b\u3082\u305d\u306e\u7b4b\u306e\u304a\u5ba2\u3055\u3093\u304c\u6765\u305f\u3001\u53ea\u3067\u3055\u3048\u4eba\u898b\u77e5\u308a\u306e\u6238\u7530\u30df\u30fc\u30b3\u306f\u5fc3\u5e95\u602f\u3048\u305f\u304c\u4f55\u3068\u305d\u306e\u304a\u5ba2\u3055\u3093\u306f\u3002","color":"#9e81c9"}