ロンドン忍者
パティはこの時ロンドンにいた、パティの所属しているサーカス団は欧州中を巡っていてこの時はこの街に来たのだ。
ロンドンに入ってだ、パティは義父であるサーカスの団長にこんなことを言った。
「ロンドンって霧が多いっていうけれど」
「ああ、今は晴れてるな」
「実際にどんな霧なの?」
「スモッグはなくなったけれどな」
団長はパティにそのロンドンの霧のことを話した。
「やっぱり出たら濃いんだよ」
「そうなの」
「霧のロンドンエアポートって言葉があってな」
「空港よね」
「もうその時は飛行機だって出るのが大変なんだ」
そうなってしまうというのだ。
「何しろ手を伸ばしてその先が見えない位だからな」
「そんなに凄いのね」
「ああ、けれど人が多くて今回はとりわけいい場所に開ける」
サーカスのその場所をというのだ。
「だからお客さんも多いぞ」
「それじゃあしっかり稼げるね」
「いい芸を見せればな」
「やっぱりそれが第一よね」
「そうだ、御前にも頑張ってもらうぞ」
「うん、わかってるよ」
パティは団長に笑顔で答えた、そして今回も頑張っていこうと思った。
サーカス団はロンドンのピカデリー広場にテントを置いて上演の準備に入った。そして時間があるとロンドンの観光も楽しんだが。
パティは義母と共にロンドンを歩いていたが実際にだった。
霧に囲まれたがその霧の濃さに驚いて言った。
「こんなに濃いなんて」
「驚くわよね」
「お義父さんに言われてたけれど」
「これがロンドンの霧なのよ」
義母は隣にいるパティにこうも話した、二人の周りは実際に霧に覆われていて一メートル先も見えない位だ。
「だから気をつけてね」
「人にも車にもね」
「そうしてね、これからロンドン橋に行くけれど」
「ロンドン橋落ちない?」
パティは歌にあるこの言葉を思い出して義母に尋ねた。
「大丈夫?」
「大丈夫よ、今はしっかりした橋だから」
義母は義娘に優しい笑顔で答えた。
「だからね」
「落ちないのね」
「それこそ大地震か爆撃でもない限りね」
「どっちも滅多にないわよね」
「少なくとも今は絶対にないわ」
大地震も爆撃もというのだ。
「爆弾はわからないけれどね」
「それもないでいて欲しいわね」
「そうよね、けれど今からね」
「ロンドン橋に言って」
「観るわよ」
「それじゃあね」
パティは義母の言葉ににこりと笑って応えた、そしてそのロンドン橋に入るとその真ん中でだった。
黒い奇妙な、ジャージに似ているが生地は木綿で日本の着物を思わせる服と覆面を漬けて背中に背負った刀や星型の刃物を使い派手な動きを見せている一団がいた、パティはその彼等を見て義母にすぐに言った。
「あの人達って」
「ええ、パティも知ってるわよね」
「忍者よね」
「そうよ、日本のね」
「日本の忍者の人達がロンドンまで来て」
「パフォーマンスしているの」
「喋っている言葉日本語よ」
聞けばそれがわかった、義母には。
「ちゃんとね、だからね」
「日本から来て」
「パフォーマンスしているのよ」
「拙者達は招待されたでござる」
その忍者の一人がパティ達にたどたどしい英語で言ってきた。
「ロンドンでの日本とイギリスの文化交流に」
「それでイギリスに来たの」
「そうでござる」
こうパティにも答えた。
「武道の一環として」
「忍者って武道家だったの」
「実は違うでござるが」
忍者の人はパティに素直に答えた。
「日本以外の国ではそう思う人も多くてでござる」
「今回は、なのね」
「武道家として剣道や柔道の人達と一緒に招待されてでござる」
そうしてというのだ。
「今は宣伝も兼ねてここで演舞をしているでござる」
「そうだったのね」
「左様、では拙者達の本番の時は来て欲しいでござる」
「そうね、面白そうだし」
義母も忍者の人の言葉に頷いた、そうしてだった。
実際にサーカス団はショーの参考にもなると思ってそれで日英の文化交流を観に行ってそこで忍者の演舞も観た、その演舞も観てだった。
パティは団長にだ、こんなことを言った。
「ねえ、私もね」
「忍者になりたいか?」
「ううん、というか」
少し考える顔になってだ、パティは言うのだった。
「サーカスのショーの時にね」
「忍者になってか」
「うん、そしてね」
そのうえでというのだ。
「ショーしたら目立って評判もいいんじゃってね」
「そう思ってか」
「普段の軽業師の衣装も着て」
そしてというのだ。
「早変わりも入れてね」
「それで忍者の格好でもか」
「ショーすればどうかなって思ったけれど」
「それはいいな、じゃあ子供用の忍者グッズを全部買って」
団長は義娘の言葉を聞いてすぐに決断した。
「そうしてな」
「それでよね」
「御前は忍者の恰好にもなってな」
「やるといいわね」
「普通の忍者もいいがくノ一もいいな」
これもいいというのあった。
「演舞でくノ一の人もいたがな」
「ミニスカートみたいな衣装でやってたわね」
「あれもやってみるか」
「うん、そっちもね」
「これで決まりだな」
団長は確かな声で言った、そしてだった。
パティは団長が買った忍者グッズ、それにくノ一の服も着てだった。普段の軽業師の服も交えた早変わりも加えて。
軽業と軟体のショーを行った、するとショーは普段のショー以上に評判になり。
大人気となった、それで客は最初から最後まで盛況で団長も団員達も大喜びだった。それでだった。
団長はパティにだ、ロンドンを去って次のショーの場所に行く時に彼女に対して満面の笑みで言った。
「次のショーでもな」
「忍者になってよね」
「ショーをやるからな」
「うん、わかったわ」
パティは団長に笑顔で答えた。
「それじゃあ次の場所でもね」
「次のショーの場所はオックスフォードだ」
「凄い大学があるっていう」
「あそこでな」
その街でというのだ。
「やるけれどな」
「そこでもよね」
「忍者になってもらうぞ、いいな」
「私もあの衣装好きだしね」
「忍者もくノ一もか」
「特に忍者がね、恰好いいから」
「それだ、恰好いいってな」
実際にとだ、団長はパティにそのことも話した。
「人気があるんだよ」
「それで余計によね」
「御前にはこれからも忍者になってもらうからな」
「そうさせてね」
パティに砲もやる気満々だった、そしてだった。
実際にオックスフォードでも他の場所でも忍者、くノ一になってショーを行った。パティは忍者として欧州中で知られる様になりサーカス団も忍者がいるとして評判になった。ロンドン橋での偶然の出会いは誰にとってもいいものとなった。
ロンドン忍者 完
2018・9・17
ミラクリエ トップ作品閲覧・電子出版・販売・会員メニュー