スイーツ鍋
 佐藤ゆいこは一人暮らしで猫と一緒に暮らしていることはクラスでは誰もが知っていることである。
 だがその暮らしている場所が出入り口のチェックが厳しい女性限定のマンションで親戚が同じマンションに暮らしているので安全に暮らしている。
 その彼女がだ、クラスで友人達に笑顔で言った。
「ねえ、今度面白いお鍋しない?」
「面白いお鍋?」
「っていうと?」
「うん、凄く甘いお鍋」
 明るい笑顔で言うのだった。
「それ作らない?」
「っていうとチョコレートフォンデュ?」
「ああいう感じ?」
「溶かしたチョコレートの中にお菓子とか入れて食べる」
「よくビュッフェとかにあるわよね」
「カスタードクリームでもあったわね」
「そういうのかしら」
 友人達はゆいこの提案を聞いてこう考えた。
「だったらありよね」
「そうよね」
「どんなのか大体わかるわね」
「美味しそうね」
「いけるかも」
「うん、そんな感じでね」
 ゆいこも否定せずに答えた。
「皆で作って食べない?」
「いいわね」
「じゃあ皆で食材買ってね」
「お菓子とか果物とか甘いものね」
「それで皆で作って食べる」
「面白そうね」
「私今ね」
 ゆいこは笑ったままだ、その笑みが消えることはない。その笑顔のまま友人達に話をしていくのだった。
「同じマンションに暮らしてる叔母さんが出張なの」
「確かゆいこっちのお母さんのお姉さんよね」
「ご主人が交通事故でお亡くなりになって今は一人暮らしの」
「ゆいこっちの保護者よね」
「今そうなのよね」
「住んでるお部屋は違うけれど御飯は一緒に食べてるの」
 そうしているというのだ。
「けれど今回出張が長くて」
「それで寂しくなって?」
「パーティーしてなの」
「寂しさも紛らしたくなったの」
「そうなったのね」
「猫がいる分かなりましだけれど」
 それでもというのだ。
「やっぱりね」
「寂しくなって」
「それでなのね」
「パーティーして」
「その寂しさ紛らわせたくなったの」
「昨日の夜思ったの」
 やはり笑顔は崩れない、今も。
「寂しいなって。だからね」
「今日は皆でゆいこっちのお部屋でパーティーね」
「甘いお鍋作って」
「それでなのね」
「そうしたいけれどどうかな」
 ゆいこは友人達にまたこのことを提案した。
「今日はね」
「ええ、じゃあね」
「ちょっとお父さんとお母さんに断るから」
「そうしてからね」
「皆で行くからね」
 友人達は早速自分達の携帯を取り出してそのうえでメールで家族に連絡した、幸いどの娘も家族から賛成を得られて。
 それでゆいこの部屋でパーティーとなった、そのパーティーは。
 ちゃぶ台の上にある鍋を囲んだ、その鍋の中には。
 チョコレート、鍋の下のコンロの熱で溶けているそれがある。その傍には小さなシュークリームやビスケット、マシュマロ、クッキー、ドライフルーツ、カステラ等があった。そうしてそうしたものを突き刺す串もあり。
 ゆいこは笑顔でだ、友人達に告げた。
「甘い紅茶もカルピスウォーターもあるしね」
「もう徹底的に甘いわね」
「飲みものまでね」
「じゃあこの甘いものを楽しみながらね」
「沢山食べましょう」
「今日はこれが晩御飯よ」
 この鍋がというのだ。
「だから皆で沢山食べようね」
「そうしましょう」
「いや、こんなに甘い晩御飯はじめてよ」
「お菓子が晩御飯なんてね」
「子供の頃一度でもって思ったけれど」
「夢が適った?」
「そうよね」
 友人達もゆいこと同じく笑顔になってだった。
 それぞれ頂きますをしてから串を取って菓子に突き刺してだった、チョコレートの中に入れてから食べた。
 どの菓子も元々の甘さにチョコレートのそれが加わり実に美味かった。それで皆この日の夕食を心から楽しめた。
 勿論紅茶やカルピスも楽しんだ、全員満腹になった時にはもうお菓子も鍋の中のチョコレートもなくなっていた。
 その食べきった様子と満足している友人達の顔を見てだ、ゆいこはここでも笑顔で言った。
「楽しかったね」
「ええ、凄くね」
「たまにはこんあ晩御飯もいいわね」
「いつもだったら太るけれど」
「こういうのもいいわよね」
「うん、またしようね」
 こう言うのだった。
「そうしようね」
「ええ、またね」
「またしましょう」
「楽しいから」
「美味しいからね」
「うん、笑顔になれるからね」 
 ここでも笑顔のままのゆうこだった。
「そうしようね、じゃあ今から」
「皆で順番でお風呂に入って」
「パジャマパーティーね」
「寝る前にちゃんと歯を磨いて」
「今度はそれを楽しみましょう」
 笑顔で話してだ、皆で今度はお風呂とパジャマパーティーを楽しんだ。ゆいこはこの日寝るまで満面の笑顔だった。
 そして次の日も笑顔でいてだった、彼女の保護者になっている叔母が帰ってきた時も笑顔だった。鍋とパジャマパーティーの間大人しかった猫と共に叔母を出迎えて彼女と自分が作った晩御飯を食べつつチョコレート鍋とパジャマパーティーの話をした。
 その話を聞いてだ、叔母は姪に言った。
「貴女が笑顔でいられるならね」
「それならなの」
「いいことね」
「そう言ってくれるのね、叔母さんも」
「ええ。貴女は笑顔でいないと」
 自分にもそうなっているが彼女のトラウマのことを思い出して言った。
「駄目だからね」
「だからなのね」
「貴女が笑顔になることなら」
 それならというのだ。
「そんないいことはないわ。笑顔はね」
「心の最高のご馳走よね」
「だからね」 
 例えそれが無意識化にある強迫観念から来るものであってもというのだ。
「貴女は笑っていて」
「そして笑えることなら」
「していってね、私はそんな貴女をいつも見ているから」
「有り難う、叔母さん」
 ゆいこは叔母にも笑顔を向けて答えた。
「それじゃあね」
「これからも笑顔でいてね」
「そうしていくね」
 甘い鍋は今は目の前にない、しかしゆいこの笑顔はそのままだった。甘い楽しみが今も心の中にあるから。そして叔母はその彼女を見てこの笑顔があのことを癒して忘れさせてくれるのならいいと思うのだった。


スイーツ鍋   完


                    2018・9・19

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