鎌使いの女
 周アネモネの実家のことは実はよく知られていない、しかしアネモネ自身は全く隠しておらず聞かれたらこう答えた。
「私の家?農家よ」
「あれっ、そうなの」
「アネモネの家って農家なの」
「そうだったの」
「うん、田んぼ一杯あって」
 そうしてとだ、アネモネは聞いた者達に平気な顔で答えるのだった。
「それで広い畑もあるわよ」
「そうなの」
「じゃあアネモネも農作業してるの」
「そうなのね」
「そうよ、だから農業高校にいるし」 
 実家のこともあってというのだ。
「家に帰ったらよく農作業して将来はね」
「私達もそうだけれどね」
「大学は農学部だったりして」
「実家のお仕事継いだり」
「進路もね」
「最近出てる農業高校舞台のライトノベルや漫画みたいにしていくのね」
「多分ね。私農作業好きだから」
 可愛いもの好きの彼女から思えない返事だった。
「それでね」
「家業継ぐこともなの」
「抵抗ないの」
「そうなの」
「そういえば農作業早いし」
「成績も悪くないし」
 平均である、赤点はない。
「鎌使うのは特に得意だし」
「実家が農家だからなのね」
「そう、鎌は子供の頃から使うの得意で」
 それでとだ、アネモネ自身も言うのだった。
「今もなのよ」
「鎌が一番得意なのね」
「農具の中で」
「そうなのね」
「そう。ただカマキリは嫌よ」
 この虫はとだ、アネモネは笑って冗談も入れた。
「怖いからね」
「可愛くはないしね」
「動くものには絶対に攻撃するしね」
「雌が雄食べるし」
「絶対に向かって来るし」
「けれど鎌は得意よ」
 アネモネは笑って話した、実際に農業高校ならではの作業の時も鎌を上手に使って作業をしていた。それは家でも同じで。
 草刈りの時にだ、草刈り機を使いつつ一緒に作業をしている妹に言うのだった。晴れ渡った空の下薄いカーキ色のつなぎの作業服を着ている。
「草刈り機も嫌いじゃないけれど」
「いつもながらいい手際ね」
「慣れてるし。ただね」
 自分と同じオッドアイの妹に言うのだった。
「やっぱり私はね」
「鎌の方がいいのね」
「うん、草刈ならね」
「姉さんが鎌得意なのは知ってるけれど」
 妹はその姉に話した。
「それでもよ」
「広い範囲一気に刈るならね」
「鎌だとね」
「時間かかるから」
「そう、それもね」
 妹はさらに言った。
「整わないから」
「草刈り機でやった方がずっと奇麗になるし」
「速いから」
 一気に刈れるからだ。
「だからね」
「草刈り機が一番よね」
「ましてうち田んぼも畑も広いのよ」
 そこから得られる利益は結構なものだ、ビニールハウスも幾つも持っていて鶏も育てていて収入は結構なものだ。だから家も大きいしものも多く持っている。
「だったらね」
「草刈りに時間をかけていられないから」
「だからね」 
「草刈り機が一番なのね」
「そう、わかるでしょ」
「うん」
 アネモネも農家の娘だ、わからない筈がない。
「そのことはね」
「だったらよ」
「鎌よりもね」
「草刈り機よ、大抵の場所はこれで刈って」
 今自分達が使っている草刈り機でというのだ。
「それでよ」
「どうしてもというところだけは」
「鎌を使ってよ」
 そうしてというのだ。
「やっていかないとね」
「駄目なのね」
「そう、じゃあいいわね」
「うん、わかってるから」
 少し不満でもわかっていることだからだ、アネモネも答えた。
「草刈り機使うわね」
「そうしてね」
「趣味の問題じゃないのね」
「お仕事だからね」
 農業、家単位でのそれだからだというのだ。
「それでお願いするわね」
「これからもよね」
「文明、特に機械はね」
「農業でも大事よね」
「うちに機械があってどれだけ助かってるか」
 農作業の為のそれがだ、今姉妹でそれぞれ使っている草刈り機だけでなくトラクターもまた然りである。
「そうでしょ、私達はこれからね」
「車の免許取ってトラクターとかもね」
「動かせる様にならないといけないし」
「機械がないとね」
「何も出来ないよ」
 今の農家はというのだ。
「本当にね」
「そうよね、鎌とか鍬があっても」
 こうした農具も今も使われていてもだ。
「メインはね」
「機械よね」
「こうしたね、じゃあね」
「使っていくわね、草刈り機」
「そうしてね、草刈り機で刈れる場所は」 
 それこそというのだ。
「全部刈るわよ」
「わかったわ」
 アネモネは妹の言葉に頷いた、そうして草刈り機で刈れる場所は姉妹で徹底的に刈った。だがその後で。
 草刈り機では駄目なところにだ、アネモネは喜々としてだった。
 鎌を持って向かう、そうしつつ妹に言うのだった。
「じゃあ今からね」
「鎌使ってなのね」
「刈ろうね」
「わかったわ、けれど姉さんは」
 妹も鎌を持っている、そのうえで姉に言うのだった。
「本当に鎌好きよね」
「使うのも得意だしね」
「そうよね」
「それに鎌ってね」
 アネモネは早速刈りはじめつつ妹に話した、両手にはしっかりと作業用の手袋がはめられていて安全にも配慮されている。
「いざって時にはね」
「武器にもなるっていうのね」
「刃物じゃない」
 何につけてもだ。
「猛獣が来ても変態さんや畑を荒らす泥棒が来ても」
「その泥棒が反撃してきてもね」
「武器になるから」
 刃物だかである。
「これ鍬や鋤もだけれどね」
「あとフォークもね」
「だから安心出来るし」
 若し作業中に何者かに襲われてもだ。
「いいのよ」
「護身用の武器にもなるから」
「そう、こんないいものないわよ」
「それはその通りだけれどね」
「一揆の時使っていたしね」
「一向一揆とかね」
 こうした農具に竹槍が滅法強かったのだ、だから戦国大名達特に織田信長も彼等に手を焼いたのだ。
「そうしてたわね」
「だからよ、鎌はね」
「いいっていうのね」
「そう、若し猪が来たら」
「この辺りにも出るっていうし」
「それで襲い掛かってきたら」
 猪は猛獣でもある、その突進の威力は凄まじいものがある。
「逃げないと駄目だけれど」
「鎌でもっていうのね」
「持っていたらね」
「その分安心出来るからなのね」
「いいでしょ」
「それはそうね、けれどね」
 妹は姉と共に作業をしつつ言うのだった。
「姉さんって案外以上にギャップも凄いわね」
「そうかしら」
「その顔でね」
 伊達に宇宙一可愛いと自分で言う訳ではなかった。
「それで可愛いものが好きなのに」
「鎌使ってなの」
「凄いワイルドなことも考えるから」
 そして言うからだというのだ。
「ギャップ凄いわね」
「だって私農家だし」
 だからだというのだ。
「これ位はね」
「普通だっていうのね」
「そうでしょ」
 こう返すのだった。
「これは」
「それはね」
 少し考えてからだ、妹も答えた。
「そう言われるとね」
「農家だし」
「というか農家であることが第一なのね」
「だってお仕事でしょ」
 家のそれだからだというのだ。
「普通にね」
「そうなるわね、じゃあね」
「これからも私は私でね」
「鎌使っていくのね」
「宇宙一可愛くて」
 そしてというのだ。
「可愛いもの集めてね」
「やっていくのね」
「働きながらね、じゃあ鎌使ってね」
 そうしてというのだ。
「頑張っていくわよ」
「それじゃあね」
 妹も姉の言葉に自分も農家の娘なのでそれならばと納得してだった。
 その姉と一緒に鎌を使って農作業をしていった、姉の見事な鎌の使い方を見つつそうしたのだった。


鎌使いの女   完


                  2018・9・19

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