どうして暮らしているのか
タケダ君の学歴は中卒だ、学歴社会はどうかという者でも流石にそれはまずいと言うのはこれで彼が元ヤンキーでしかも引きこもりでニートだからだ。
しかも家族はなく生活保護も受けていない、これでは市役所で彼の存在を把握している人達もどうして暮らしているのか不思議だった。
「家族はいないし仕事もない」
「外にも出ない」
「どうして暮らしているんだろう」
「ちゃんと税金は納めているし」
何とそうしたことはちゃんとしているのだ。
「年金のお金も払ってるし」
「ちゃんと食べてるみたいだし」
「生活がわからないな」
「生活保護儲けていないのに」
彼等にとっては謎だらけだった、それでだった。
市役所から入り立ての男子職員が一人彼の家に派遣されて状況の把握の為に彼と直接会うことにした。その彼は。
「実は同じ中学で」
「顔見知りだね」
「はい、ただ」
職員は上司である課長に話した。
「付き合いはなかったです」
「彼が元不良だったからかな」
「物凄く柄が悪かったんで」
それでというのだ。
「付き合わない様にしていました」
「そうだったか、しかしな」
「それでもですね」
「同級生で同じ中学だったのも縁だ」
大学を卒業したての彼に言うのだった。
「それでだよ」
「彼の家に行ってですね」
「話してくれ、ただ彼が何かしたら」
課長も元ヤンということからこうも言った。
「その時胃はね」
「警察ですね」
「うん、呼んでいいから」
その彼等をというのだ。
「それでだよ」
「後は逮捕ですね」
「何なら警察官も一緒にね」
「そうしてくれると有難いです」
職員も断らなかった、こうしてだった。
彼はタケダ君の家に行った、そこで知り合いの警官にボディーガードも依頼してそのうえで同行してもらうことも忘れなかった。
それで彼の家に向かって車を進めている中でその警官に言った。警官は彼より少し年配のやや太った男だ。
「同級生ですが元ヤンで」
「うん、突っ張ってたんだね」
「中学校を卒業してから」
「ずっと引きこもりだったんだね」
「そうなんですよ、一体どうして暮らしているか」
それはというのだ。
「誰もです」
「知らないんだね」
「けれどちゃんと税金も納めていて」
「年金のお金もだね」
「払っていまして」
それでというのだ。
「引きこもりですが」
「ちゃんとだね」
「払うものは払っていて」
「市民生活はしているんだね」
「そうなんです」
引きこもりかつニートと言われている様な立場でもというのだ。
「これが」
「生計はどうして立てているか」
「若しも、ですよ」
信じたくないがと前置きしてだ、職員は警官に話した。
「非合法の手段で」
「自宅で大麻を栽培してとかな」
「そんなことをしていたら」
「まずいからな」
「麻薬栽培とかは」
「だからだね、俺もそれは気になるしな」
警官は街の治安を守る立場から職員に答えた。
「君のボディーガードだけじゃなくてな」
「万が一のことでもですね」
「行こう」
「そうしましょう」
こう話してだ、そしてだった。
二人でタケダ君の部屋に向かった、そうして実際に彼の部屋の扉の前をノックするとだった。
「はい」
「タケダさんですか?」
「そうだよ」
ぶっきらぼうで粗暴そうな感じの声での返事だった。
「何の用だよ。新聞なら間に合ってるぜ」
「市役所から来ました」
「市役所?」
「お聞きしたいことがありまして」
「ひょっとしてあれか?」
ぶっきらぼうの返事はそのままだった。
「俺の生計のことか」
「そうです、職業は何でしょうか」
「詳しく話さないと駄目か?」
「お願い出来ますか?」
「別に内緒にしてるものでもないしな」
それでとだ、タケダ君は言ってだった。
そうしてだ、部屋の扉を開けた。すると職員が知っていた彼よりも遥かに柄の悪い感じで人相も悪くなっている姿で出て来た、するとタケダ君は職員の隣にいる警官も見て言った。
「警官の人もか。それにあんた」
「中学で同級生だった」
「そうだよな、市役所の職員になっていたんだな」
「そうなんだよ」
「あんた勉強出来たしな、俺は頭が悪かったから表向きはニートだよ」
「表向きは?」
警官がタケダ君のその言葉に反応して眉を動かした。
「それは一体」
「そのことを話すな」
タケダ君は警官にも応えてだった、二人を部屋の中に入れた。部屋の中は奇麗で整っていた。そしてだった。
荒んだ感じもなった、タケダ君は二人を部屋の中の席に座らせてコーヒーとクッキーを出してから話した。
「確かに俺は中卒で引きこもりでニートだよ」
「表向きはと言ったね」
警官はまたタケダ君に言った。
「そうだね」
「ああ、中卒は実際だけれどな」
「表向きというのは」
「実は俺蛙が好きでな」
「あっ、そういえば君昔から蛙が好きだったね」
職員はここでタケダ君のこのことを思い出した。
「蛙のことなら何でも知っていて」
「学校の成績はダントツ最下位でもな」
とにかく圧倒的に出来なかったがだ。
「蛙のことは詳しかっただろ」
「そうだったね」
「ああ、しかしな」
「しかし?」
「実は中三の秋に蛙の言葉がわかる様になったんだよ」
「そうだったんだ」
「それで蛙と話も出来る様になったんだよ」
この特殊能力のことを話すのだった。
「それで蛙達と友達になってその話を聞いているうちに日本の蛙達の悩みを解決するなんでも屋になったんだよ」
「蛙専門の?」
「ああ、それで東京の皇居のお堀に日本の蛙の総大将がいてな、何百年も生きているな」
「そんな話はじめて聞いたけれど」
「蛙の世界での話だからな」
それでというのだ。
「知らなくて当然だな」
「そんな話があったなんて」
「それで蛙達の中の問題や騒動を解決したら報酬が貰えてな、総大将はそれこそ小判やら宝石からを山みたいにため込んでる資産家でな、長生きしている間に日本の水の中で色々見付けて貯め込んでいるんだよ」
タケダ君はこのことも話した。
「その報酬が貰えるんだよ」
「そうだったんだ」
「それが結構な額でな、失敗してもある程度金が貰えてな」
「生計を立てられているんだ」
「ああ、貯金もあるぜ」
税金を納めて年金の方も払ってというのだ。
「ちゃんとな」
「しっかりと暮らしているんだね」
「生活費だってちゃんとしてるしな、引きこもりだけれど蛙相手の仕事の帰りに生活用品とか食いもの買ってるぜ」
「じゃあ自炊してるんだね」
「驚いただろ」
「うん、かなり現実的な生活で」
「まあそれでも表の仕事じゃないからな」
公に出来る仕事でないというのだ、タケダ君もこのことはわかっているのだ。
「蛙の問題や騒動の解決なんてな」
「そうだよね、犯罪じゃないけれど」
「まあ親戚の遺産で食ってるとかな」
「表向きにはだね」
「そうしてくれ、あとどうも中卒はいい加減まずいからな」
このことも意識していた。
「夜間学校に通うつもりあるからな」
「そこで高校卒業するんだね」
「ああ、まあ俺は表向きはどうでもな」
「社会的に暮らしているんだね」
「だから安心してくれよ」
「わかったよ、じゃあ上司には詳しいことを報告するけれど」
それでもとだ、職員はタケダ君に約束して答えた。
「表向きには納得のいく理由にしておくから」
「頼むな」
「それじゃあね」
「犯罪でないなら問題ない」
警官も言った、部屋の中にもタケダ君自身にも犯罪の匂いはなかった。それならだった。
「以後も蛙達を助けてくれ」
「それじゃあな」
タケダ君は二人に笑顔で応えた、そしてだった。
二人も納得して彼と別れて帰路についた、後日しっかりと調べてもやはりタケダ君は実際に蛙達相手の仕事をしていた。
それでタケダ君のことは表向きは親戚の遺産で食べていることになったがそれでもだった、職員はこのことについて課長と警官に三人で昼食を摂りつつ話した。
「いや、そうした生計の立て方もあるんですね」
「蛙相手の仕事とかね」
「そういうものもあるのが凄いよ」
二人もこう言った、三人共ラーメンを食べている。
「それで生計を立てている」
「それは凄いよ」
「しかも貯金まであるとか」
「意外も意外だよ」
「そうですよね、表向きには出来ない仕事ですが」
犯罪でなくともとだ、職員は話した。
「それでもちゃんと暮らしているなら」
「いいね」
「そうしたら」
「はい、あと彼夜間高校に通いはじめました」
「そうか、じゃあ中卒でもなくなるね」
「そのこともいいね」
「数年後は高卒ですね」
職員は同級生のこのことにも笑顔になった、確かに乱暴者との記憶しかないがそんな彼でも何の恨みもない同級生だからタケダ君がちゃんと暮らしていることに喜んだ。そして数年してから彼が卒業して晴れて高卒となったと聞いてまた喜んだ。表向きの社会的立場は引きこもりのニートのままであったが貯金はさらに増えたとも聞いたので余計にそうなった。
どうして暮らしているのか 完
2018・9・23
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