殺しはしない
失物奪を追っている者達がいた、それは退魔師達であり彼等は事故を装い人の身体の一部を奪っていく奪を追っていた。
しかしだ、その中でだった。
彼等はあることに気付いた、それで本拠地で話をした。
「身体の一部は奪うが」
「命に関わるまではしない」
「そうした場所は少しずつ奪ってだ」
「そのうえで自分のものとしていっている」
「それでもな」
「殺しはしない」
それでもというのだ。
「命まで奪わない」
「何があっても」
「許されないことをしている」
他人の身体を奪う、それはどうあっても許されないことだ。それが為に彼等は奪を追って彼を止めようとしているのだ。
しかしだ、奪は命まではなのだ。
「命は奪わないのはな」
「彼のポリシーか」
「身体の一部は奪うが命は奪わない」
「そこまではか」
「それはまだ救いだ」
まさにと言う、しかしだった。
奪は奪い続けていた、そのうえで。
身体の一部を戻し続けていた、他の者から奪いながら。だからこそ退魔師達は彼を追っているのだが。
その中で奪に出会った、彼等はここで奪に問うた。
「御前は何故人を殺さない」
「身体は奪うが命を奪わないのは何故だ」
「何故そこまでしない」
「命を奪う程度までしないのはどうしてだ」
「俺は蘇りたいんだ」
奪は今の身体で退魔師達に答えた。
「そしてまただ」
「人間の生活を送るのか」
「そうしたいのか」
「これからは」
「そうしたいのか」
「だからだ」
それ故にというのだ。
「どうして人の命まで」
「若しもだ」
退魔師の一人が奪に言った。
「すぐに甦りたいならだ」
「その時はか」
「そうだ、一人の命を奪ってだ」
そのうえでというのだ。
「その身体を奪ってだ」
「そうしてだな」
「生きればいい、しかしか」
「俺はわかっている」
まさにとだ、奪は凄まじい形相になりそのうえで退魔師達に告げた。
「自分が罪を犯していることをな」
「わかっていてか」
「そうだ、そしてだ」
そのうえでというのだ。
「そのうえでだ」
「今も続けているが」
「人の身体の一部を奪うことを」
「それを続けるのか」
「我等に追われ止めようとされても」
「戦っても」
「俺はまた生きたいんだ」
心からの言葉を出した。
「そしてだ」
「そのうえでか」
「身体を全て手に入れて」
「そしてか」
「そのうえでか」
「また人間として生きるのか」
「そうしたい、そして必ずそうなる」
間違いなくと言うのだった。
「俺は再び人間として生きる」
「罪を犯してもか」
「それでもまた生きたいのか」
「他の者を犠牲にして」
「それでもか」
「そうだ、俺はそうしてでも生きたい」
純粋なこの気持ちを偽らずに言うのだった。
「何があってもな」
「それはエゴだ」
先程とは別の退魔師が奪に言った。
「御前の」
「そうだな」
「わかっているか」
「わかっていてだ」
そうしてというのだ。
「先程言った通りだ」
「それでもか」
「俺は生きる、絶対にな」
「あくまでそう言うか」
「御前達が止めようともな」
例えそうしてもというのだ。
「そうする、あと少しだ」
「それはわかった、だが」
「止めるな、あくまで」
「考えをあらためろ、そしてだ」
「死ねというか」
「御前は死んだ、そのことを受け入れろ」
これが退魔師達の言うことだった。
「そしてだ」
「死ねか」
「そうだ、安らかに眠れ」
あくまでこう言うのだった。だが奪は聞かず。
彼等とこれで何十回目かわからない戦いを行い彼等を退けた、だが彼等を殺すこともなかった。それでだった。
彼等は地に伏しながらそのうえで奪に問うた。
「またか」
「また我々を殺さないのか」
「倒しはしても」
「それでもか」
「俺は何があっても殺しはしない」
例えそれが敵であってもというのだ。
「それが敵であってもな」
「何故それにこだわる」
「人を殺そうとしない」
「そこまで生きようとするのに」
「奪った相手も倒した相手も殺さない」
「そうするのは何故だ」
「人間に蘇ってだ」
そうしてとだ、奪は退魔師達に答えた。
「再び人間として生きたいからだ」
「だからか」
「誰も殺さないのか」
「何があろうとも」
「そうだ、俺は絶対に誰も殺さない」
こう言う、そしてだった。
奪は何処かに去って行った、また誰かから身体の一部を奪う為に。だが彼はやがてある医師と出会い。
その医師に目を向けられて厳しい声で問われた。
「心臓や脳はどうするのだ」
「その二つか」
「そうだ、その二つは殺さずどうして奪う」
奪にこのことを問うのだった。
「一体」
「それは」
「出来ないな、御前は人を殺しはしないからな」
「それだけはしない」
誓って言うのだった。
「何があってもな」
「では御前はそうしたものを手に入れられずにだ」
心臓も脳もというのだ。
「そしてだ」
「このままか」
「生き返ることは出来ない」
「しかし俺は」
「生きたいな、ならだ」
それならと言うのだった。
「何とかしてやろう」
「どうするのだ」
「人工のそうしたものを作ってやる、その為には」
「どうしろというのだ」
「身体は全て作ってやるからだ」
それでというのだ。
「御前のその身体をだ」
「どうしろというのだ」
「全て返して来るのだ」
「そうしてか」
「生きろ、いいか」
「奪ったものを返してか」
「そうしてくるのだ、そうして罪を償ってだ」
奪ったものを返すことによってというのだ。
「また私のところに戻って来い」
「そうしたらか」
「身体をやる、どうだ」
「本当にだな」
「約束は守る、御前が人を殺すのなら別だが」
奪はこれまで何があっても人は殺さなかった、それでというのだ。
「殺さない、だからな」
「それでか」
「御前の心はまだ人間なのだからな」
人を殺さないからだというのだ、こう言ってだった。
医師は奪に身体を返させに行かせた、その間に彼の身体をその優れた医術クローンのそれを使って生み出し。
彼に与えた、事故に遭う前と寸分違わぬ姿に戻った彼は医師に問うた。
「俺が一人も殺さなかったからか」
「私も救った、そして身体を返してだ」
「罪を償ったからか」
「身体を渡した、もうこれからはな」
「これまでの様な罪を犯すことなくか」
「生きるんだ、御前は身体を失っても人間だった」
それならというのだ、人を殺さないことによって何とか人間であったというのだ。
「それならだ」
「また生きる今もだな」
「人間として生きるんだ」
こう言って彼を送り出した、奪はこれまで戦ってきた退魔師達に謝罪し和解しそのうえで元の場所に戻った、そのうえで昔の様に家族で幸せに暮らした。人間であり続けた彼は人間の生活に戻ることが出来たのだ。
殺しはしない 完
2018・9・23
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