文武両道なれど
 マークスは剣と術を学ぶ学校に通っていて日々剣と術を学んでいる、どちらも成績優秀で将来を期待されている。
 それでだ、担任の先生にもこう言われていた。
「君は将来は士官学校か大学の軍事学に進むといい」
「そうしてですね」
「そうだ、立派な軍人になれるからな」
 それだけにというのだ。
「立派な軍人になってだ」
「そのうえで、ですね」
「立派に生きていって欲しい」
「立派にですか」
「君の今の成績なら」
 まさにとだ、担任の先生は言うのだった。
「かなり立派な軍人になれる、それに」
「騎士にもですか」
「なれる」
 この国で最も誉れとされているこの階級になれるというのだ。
「学業の成績だとな、後は品行方正で」
「マナーも備えればですね」
「普通に士官になれば要求されるが」 
 そのマナーがというのだ。
「しかしだ」
「それでもですか」
「そうだ、騎士は貴族だ」
 平民とは明らかに違う、その立場になるからだというのだ。
「普通の士官とは違う、それだけにだ」
「礼儀作法も厳しいんですか」
「そうなる、しかしだ」
「俺の成績ならですね」
「このままいくと騎士になれるぞ」
 担任の先生はマークスに確かな声で話す、しかしマークスは士官学校なり大学の軍事学に進むなりする道には笑顔で是非と答えてもだった。
 騎士については返事をしたことがなかった、このことに気付いたのは寮のルームメイトだった。成績は彼より少し下だが補給関係に強くそちらでの将来を期待されている。
 彼は寝る前にだ、隣のベッドに入ったばかりのマークスに尋ねた。
「一ついいかな」
「どうしたんだ?」
「君は騎士になりたいんだよな」
「いいや」
 マークスは彼にベッドの中からすぐに答えた。
「騎士はなりたくないな」
「この国の軍事に関わる者の誉れだぞ」
「そうだよな」
「しかも貴族になれるんだぞ」
 彼もマークスも平民だ、それで彼にこのことも言うのだった。
「いいことじゃないか」
「いいことだけれどさ」
 マークスはベッドの中で仰向けになって寝ていた、両手は頭の後ろにあってまだ眠気は来ていない。その中でルームメイトに話すのだった。
「騎士って凄い礼儀作法叩き込まれるよな」
「普通の士官より遥かに厳しくな」
「もう徹底的にだよな」
「文字通り骨の髄までな」
「そうなるよな、けれどな」
「それが嫌か」
「俺堅苦しいのはな」
 そのことがとだ、難しい顔で言うのだった。
「苦手でな」
「それでなのか」
「ああ、騎士になることはな」
「考えていないか」
「貴族にならなくても生きていけるだろ」
 こうも言うマークスだった。
「そして軍人としてもな」
「それはその通りだな」
 ルームメイトも否定しなかった。
「騎士になれば将官にもなりやすいが」
「それでもだよな」
「しかし騎士はむしろそこから外交官や政治家になる人が多い」
「貴族だけにな」
「軍事知識を活かすということでそちらに行かされる」
 軍人からそうなっていくというのだ。
「それはな」
「騎士なら当然の流れだよな、けれどな」
「それがか」
「俺考えてないしな」
 マークスはまた答えた。
「軍人になることは考えていても」
「そうか、だから騎士にはなるつもりはないか」
「貴族にもな、そんな堅苦しいのになるよりな」
「今の平民の軍人のままでいいか」
「ああ、本当にな」
 こう言うのだった、そしてだった。
 今度はマークスからだ、ルームメイトに言ってきた。
「気楽でいいだろ、人生はな」
「それも人生だな」
 ルームメイトも否定しなかった、マークスの今の言葉は。
「堅苦しいまでに礼儀作法を極めて騎士、貴族になるのも人生ならな」
「気楽に生きるのも人生だろ、だったらな」
「君は気楽に生きていくか」
「軍隊って只でさえ規則色々あるだろ」
「規則で成り立っているのが軍隊だ」
 実際にとだ、ルームメイトも答えた。
「我が国の軍隊も同じだ」
「そうだろ、だったら軍にいるだけで充分さ」
「堅苦しいことはか」
「俺は子供の頃から堅苦しいのは苦手だからな」
「これでいいか」
「ああ、それじゃあな」
「このままか」
「俺はやっていくな、騎士にならないでな」
「わかった、なら今からだな」
「寝ようぜ、寝てそしてな」
「明日もか」
「ああ、明日起きてな」
 そしてと言うのだった。
「また楽しくやろうな」
「出来る限り気楽に楽しくか」
「そうしていこうな」
「そうだな、それでだが」
 ルームメイトの言葉が厳しくなった、その声でマークスに言うことも忘れなかった。
「明日の朝もだ」
「遅刻しない様にか」
「していくぞ、若し遅刻しそうならだ」
「引き摺っていくんだな」
「その為にバイク通学の許可を貰っている」
 寮から学校までのそれをだ。
「僕が君を無理に乗せてもだ」
「遅刻しないっていうんだな」
「その前に氷水を頭にかけてもだ」
 これは実は実際に何度もしている。
「起こすからな」
「わかったよ、お陰で俺は御前とルームメイトになってな」
「寝坊したことはないな」
「それで遅刻したこともないよ」
「それならだ、いいな」
「明日の朝もだよな」
「まずは自分で起きろ、いいな」
「出来る限りそうするな」
「絶対にそうしてくれ」
 朝のことも二人で話してだ、そうしてだった。
 ルームメイトもベッドに入り二人共休息に入った、マークスは出来る限り気楽なまま人生を過ごすことを決めていてそれ故に騎士になれると言われながらも騎士にならずそうして軍人として生きた。軍務を離れた時の彼は至って砕けていい意味で天衣無縫な人物であったという。


文武両道なれど   完


                  2018・9・26

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